Story.07≪Chapter.1-7≫

傭兵の応急処置に関しては、水属性の回復魔法が使えるというエンドルがどうにかしてくれるだろう。
それでも戦いの最中に巻き込まれる可能性を見越して、レヴィン達に守られる位置にいるアロガントの隣ならば生き延びる事が出来る。
後は2体のスライムコアを倒し、魔物に命令する立場であろう“黒の砂地獄”を拘束する。
そう考えるリヴマージの身体から地属性の魔力が溢れ、狙いは“黒の砂地獄”に定める。


「無駄だと言っているだろう!!」


対する“黒の砂地獄”の叫びに周囲は濃い砂煙に包まれ、リヴマージは目を瞑(つむ)り両腕で鼻と口を覆った。
吸い込めば呼吸困難、視界も悪くこれでは敵どころか他の仲間達の姿も見えない。
近付いた途端に武器を見せて殺しに来るかと思っていたが、先に見えなくするとは予想外だった。
それに豪邸の中に入って以降、彼女から地属性の魔力の気配が感じなかったのを不審に思わなかった、これが失策だった。


「これが私のやり方…。ここにいる全員の視界を砂煙によってゼロにさせ、誰一人援護もさせない、助けにも行かせない。貴様はそうして絶望するのだ」


“黒の砂地獄”もまた、自分が殺そうとする瞬間を相手は狙っていたと感じていた。
ならばこの魔法―≪サンド・ブラインド≫による効果を利用してその隙を作らせず、また別の方向からの攻撃も許さない。
連れて来た2体のスライムコアも相手を捉える事は出来ないが、そんな事はどうでもいい。


「記者人生を奪われたこの私のように!!」


今はリヴマージとアロガントに対する怒りと憎しみ、ただそれだけを抱いてこの戦いに臨んでいるのだから。


「……ライズ・インパクト……」


すると聞き覚えのある少年の声と同時に、砂煙と共に身体が上へと浮き上がった。
喋る事は難しい筈なのにどうやってと思った瞬間、“黒の砂地獄”が目にしたのは、≪ティアマット・エンペラー≫のメタリックグリーンの刃の方を下に刺して上昇気流を発生させているカイザーの姿だった。
彼は視界が晴れたと同時に全員が床に着地していたのを確認すると、槍を引き抜いて今度は彼女と2体のスライムコアに右手を向け、風属性の魔力を集中させる。


「ゲイル・スマッシュ!!」


その掌から強風を放っては彼女達を奥の壁へと激突させ、レヴィンはこの隙にリヴマージを後方へと下がらせた。


「リヴ、大丈夫か?」

「ええ、カイザーのおかげで助かったわ…」

「後は俺達に任せて、リヴはあの傭兵さんを守ってくれるかい?」

「うん。……また迷惑掛けちゃった。ごめんね」


するとリヴマージがぽつり、自らの行動に後悔しながら謝罪した。
拳銃を持った傭兵を助けようと自分から相手の要望を受け入れ、凶器を出して来るか攻撃魔法を発動する瞬間を見て気絶させようと狙っていたからだ。
その結果、一時は仲間からの援護が不可能な状況にさせてしまった事を申し訳なく思っていたが、レヴィンは微笑んだ。


「あれは傭兵さんを助けたくてそうしたんだろ?確かに無茶な事をしたなとは思ったけど、勇気ある行動だったし責める理由なんかない。……後でカイザーにお礼、言っておけよ」


周りを見れば、誰もリヴマージの行動を批判する者はおらず、拳銃を持った傭兵はエンドルから水属性の初級補助魔法―≪キュア・ウォーター≫による癒しの水に掛けられて治療を受けていた。
痛みが多少引いたのか、それともリヴマージが無事だったのを知ったのか、その人物は安心した表情でこちらを見ていた。


「リヴ様を落ち込ませる様な事をさせて…。お父様と過去に何があったのかは知りませんけど、お前達の行動は目に余りますわ」


エリザベートは“黒の砂地獄”と2体のスライムコアに怒りを感じ、それを呼応するかの如く炎属性の魔力をいつも以上に集中させていた。


「まずはそこのスライムコアから焼き尽くして差し上げますわ!!ファイアー・ブラスト!!」


傭兵に化けて自分達に接近し、同級生達のみならずその者の仲間をも殺そうとした者に重い罰を。
魔物の悲鳴に耳を貸さず、ひたすら炎の球を2体のスライムコアに当てて爆発させる。


「止め…っ!俺達はただ…っ、命令されるがままに…っ!」

「汚物の言い訳なんか聞きたくありませんわ」


1体のスライムコアが“黒の砂地獄”と共闘する理由を言いかけるも、エリザベートの手は止まらない。
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