Story.07≪Chapter.1-7≫

「あっ、お父様!警戒なしに開けてはいけませんわ!」

「え?」


それを見たエリザベートがすぐさま阻止に入るが時既に遅し、アロガントが豪邸の扉を少し開けた瞬間に大量の砂が飛び出して来た。
レヴィンとエンドルはしまったと思い、カイザーは舌打ちをしながら風属性の魔力を集中しつつ接近する。


「ゲイル・スマッシュ!!」


その属性の中級補助魔法を発動して右の掌から起こした強風で砂を豪邸内に押し戻し、その間にレヴィンとエンドルは巻き込まれたアロガントを引っ張って扉から離れさせた。
救出された彼は咳き込んでいるものの呼吸はすぐに落ち着き、リヴマージとエリザベートは慌ててそちらに駆け付ける。


「お父様!!大丈夫ですの!?」

「あ…ああ…、助かったぁ…」


即座に砂を払ったカイザーのおかげで大事には至らず、声も問題なく発する事が出来て安堵の息を漏らすエリザベート。
レヴィンも良かったと一息を付くが、申し訳なさそうに彼らに目を向けていた。


「すみません。罠(トラップ)があるかどうかを調べるべきでした」

「私の方こそごめんなさい。外観に目が行ってしまったばかりに、お父様が…」

「いや、急かした私が悪いのだ。気にしないでくれ」


エリザベートも彼と共に謝罪の言葉を言った後、アロガントも自らの行いを悔いていた。


「だがこれで分かった。今の砂と俺らを落とした蟻地獄は、元々この遺跡に仕掛けられたモンじゃねぇ」


すると豪邸の出入口の扉を見つめているカイザーが、視線をそのままにしてそう言った。
その一言にリヴマージは目を見開き、他の4人も息を呑んだ。


「えっ?それってまさか…」

「ああ。あの中にいる“誰か”の仕業だ。俺が風属性の魔法で砂を押し返した時、一瞬だが仮面を付けた奴が見えた」


仮面を付けた者、それはすなわち道化会の会員の誰か、という事になる。


「くそっ!私を見た瞬間攻撃したと言うのか!」

「傭兵達の中に紛れて二人の仲間を送り込んだんだから、僕達がここに来る事も知っていた。その線は間違いなさそうだね」

「なぁ、もしかして一昨日見たあの仮面の奴だったか?」


怒りが露になるアロガントと納得するエンドルの反応を余所に、レヴィンが事前に見た仮面の人物と同じなのかと確認を求めると、カイザーは首を横に振った。


「いや、別の奴だったな。俺が見たのは、チョウチョみたいな形の白い仮面を被った奴だった」


目撃情報のない新たな会員の存在に、レヴィンは「そっかぁ…」と理解した。
おそらく封鎖前に出入りしていた6人の内の一人であり、仲間から情報を集めつつこの豪邸内で待機していたのだろう。
何がともあれこれでやるべき事は、3人の傭兵達を見つけ次第こちらの加勢するよう要請し、中にいる人物を捕らえて道化会の目的を聞き出す。
レヴィン達6人の意見がまとまった所で慎重に扉に近付き、アロガントから押して開く仕組みである事を聞いてから、レヴィンが先頭として一呼吸をしてから右手で強く扉を押した。
すると予想通り、大量の砂が外に向かって放出された直後にレヴィンはすぐさま離れ、全員はそれが止まるまで待つ。
その間にレヴィンとカイザーとエンドルは自らの魔術形成型武器を出現させ、リヴマージとエリザベートも各々の原始固有型武器を握り締める。
そして砂の放出が止まった直後、一斉に豪邸の中へ走って入るとそこには、外側が銀色で蝶をモチーフとした白い仮面を目元に装着した茶色いローブを羽織る人物がいた。


「あら、まだ生きてたの?」


声からして女性、そして赤い口紅を付けている者は確かに報告に挙がっていなかった。
要するに情報が何一つない道化会の会員、と認識した方が良いだろう。


「貴方は…?」

「私は…そうねぇ…。“黒の砂地獄”と名乗っておくわ」


明らかに偽名(コードネーム)であるが、女性―“黒の砂地獄”は口元を緩めながらそう名乗った。
13/21ページ