Story.07≪Chapter.1-7≫

傭兵達とはぐれ、知らない場所に落とされた者はどうすべきか分からなくなる程混乱すると、普通はそう思うだろう。
だがこの遺跡は踏破済みの場所が多い、かつタブレット端末にそのデータが残されているおかげかこうした冷静な判断と行動が出来るのは、やはり≪サクレイド学院≫の優秀な生徒である証か。
神子のリヴマージも焦りや慌てる様子はなく、娘のエリザベートも同級生と共にこの先を警戒している姿は、父親として誇りに思い彼女達をサポートするアロガント。


「お父様、今の所誰かが来る気配はありませんわ」

「アロガントさん、ここはさっきの部屋から一つ下の階層に落ちた部屋かもしれません。ここを出て少し歩きますけど上り階段がありますし、もしかしたら傭兵さん達と合流出来るかも」


リヴマージも調査済みの階層の地図(マップ)を一通り目を通して意見を述べ、傭兵達との合流を促した。
これが道化会の罠である可能性は十分に考えられるが、何もなければそうしてもう一度作戦を練り直すという手段もある。


「その方が良いね。さっき戦った怪物がこの遺跡にいないとも限らない。遭遇してしまったら僕達はともかく、傭兵達が心配だ」

「リヴの歌の効果でダメージを与えた時点で驚いてたしな。今度は補助なしのあいつらだけで勝てるかどうかは、正直微妙だな」


エンドルとカイザーは傭兵個人の戦力面を考慮して賛成し、それを聞いたアロガントは確かにと頷いた。
遺跡調査に関する≪エクスプローラーギルド≫での評価を鵜呑みにした結果、5人中二人が道化会の手先として自分達に近付き、リヴマージ抹殺の機会を窺っていた。
しかも残りの3人はそれを知らずに組んでいたらしいので、離れ離れになったのを良い事に口封じとして命を狙われる可能性がある。
戦闘の評価はカイザーの言うとおり、エンドルはおろかレヴィン達4人の生徒の足元に及ばないだろう。


「レヴィンとエリザベートもそれで良いかしら?」

「ああ。俺も合流に賛成するよ」

「私達ビューティリス一族が雇った下々とはいえ、無関係なヒトが知らぬ間に殺されたら気分が悪いですわ」

「決まりですね、リヴマージ様」


全員の意見がまとまった所で、レヴィン達6人はこの部屋を出て先を警戒しながら上り階段へ進む事になった。
先頭はレヴィンとカイザー、その後ろにリヴマージとエリザベートとアロガント、エンドルは殿(しんがり)という隊列を組み、人影や罠(トラップ)の有無を確認する。
アロガントのタブレット端末はこの遺跡の地図(マップ)を表示したままであり、それを頼りにして歩くと通路の先に広々とした空間に出る筈だ。
しばらくすると中央に噴水な様な形をしたオブジェと、明かりが灯されていない街灯らしき物がいくつか円の様に並べられていた場所に着く。


「ここは…?」

「ふむ…。クリアトラックス時代の広場の跡地の様だな」


分断戦争前の広場が、こうして≪クロスラーン≫の真下に埋もれていたとは。
歴史学で学ぶ程度でクリアトラックス王国の事を聞いた後で実際に目の当たりにすると、自然と心が震えるモノだ。


「ここまで綺麗に残ってるんだ…。てっきり分断戦争で何もかも破壊されたかと」

「きっと運良く魔女達の攻撃から逃れたが、そのままの状態で埋もれてしまったのだろうな」


分断戦争の発端である古の四大魔女の攻撃は、一つの大きな島を4つに分けられた程の威力なのだから、昔の建造物は跡形もなく破壊されて当然だと誰もが思っていた。
しかしこうして綺麗な形で残っていたと知ると、レヴィンとアロガントは思わず見惚れてしまった。


「おい、傭兵との合流が先じゃねぇのか?」


するとカイザーの一言に二人はハッと当初の目的を思い出し、気を取り直して周囲の警戒を再開する。


「道化会の侵入さえなければ、ゆっくりと見物出来るのに…」

「それは終わってからでも良いじゃない。別にここを壊すだなんて誰も言ってないでしょ?」

「それもそうですわね」


エリザベートとリヴマージも同様に感動していた所であり、彼女達も辺りを見て3人の傭兵達を探す。
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