Story.07≪Chapter.1-7≫

レヴィンとリヴマージにとっては見覚えのある、全身が黒いローブに覆われた者が四足歩行の怪物に姿を変えた時に装着していたあの仮面だ。


「お前らまさか…!!」

「そのまさかだ。しかし我々は神子に恨みはない。だが…、我々の望みの為にここで死んで貰う!」


レヴィンは怪物になる前に止めなくてはとリヴマージの前に立ち、≪シャインエッジ≫を出現させた瞬間、蝶を象った小さな炎が彼の横をひらひらと通り過ぎた。
その蝶は一人の傭兵が持つ仮面に止まると、炎が勢いを増した。


「なっ…!?」

「どうした…ってあっつ!」


もう一人の傭兵が相方の方に目を向けた途端、同じ様に仮面から熱を感じて手を離すと、同じ様に燃えていた。


「なっ、何で…!?」

「私が放った魔法でそうさせたんですもの。二手に分かれたのを良い事に、リヴ様とレヴィン様達を襲おうとするとは良い度胸をしてますわね」


すると背後から聞き覚えのある少女の声がし、レヴィン達3人は振り返ると右の行き止まりを調べていたエリザベートが、先に赤い羽根が付いている赤と白のグラデーションの扇子を広げてこちらを見ていた。
彼女の側にはアロガントと他の3人の傭兵達、後からカイザーもこちらの部屋に入って来た。


「その仮面は木製で出来ているから、金属探知器には当然反応しない。怪物になった原因は仮面の装着かと思っていたが、それに魔力や薬物反応はなく、始めから人類の体内に強制変貌の魔法が掛かっていたとの報告があった。仮面を付けた状態でも顔がバケモノみたいになったのは、頭部だけ融合の魔法でも掛けたんだろうな。ま、いずれも“禁止”とされる魔術の一種だ。どんな理由があろうと貴様らは刑務所行きだ」


≪サクレイド学院≫で襲い掛かって来た怪物の正体をアロガントが告げた時、対峙する二人の傭兵達に冷や汗が流れた。


「結局入り込ませてしまいましたけど、地下道の遺跡は全て封鎖して正解でしたわ。……さぁてお父様。あの愚か者達の処遇はどうしましょう」


その者達を見るエリザベートの目は穏やかそうな感じから冷酷な雰囲気に変わり、この場で処罰を与えようとしている。
するとリヴマージが「待って」と制止に入り、彼女にある提案をする。


「その前にあの人達の目的を聞かなきゃ。もしかしたら道化会そのものの目的も聞けるかもしれないわ」

「ああ、そうでしたわね。すぐに死んでしまっては聞く事は出来ませんものね」

「望みは何だ?お前らの望み次第では道化会から抜けても、リヴを殺さなくても叶えられるかもしれない」


なるべく相手に生きる望みを与えながらそう尋ねるレヴィンに、二人の傭兵達は苦悶の表情を浮かべる。
甘い考えを持っていそうな発言だが、出来る事なら戦闘と殺害は避けたい。


「……たとえ我々が生き延びたとしても、我々の望みと……あの方の望みは叶えられない。その女が生きている限りな!!」


そう思った時、二人の傭兵達が懐から取り出したのは先程と同じデザインの白い仮面であり、それを瞬時に装着した。
まさか予備があったとは思いもせず、エリザベートの詠唱も間に合わなかった。
そして二人の傭兵達の背中から黒い翼が生え、身体は3日前に見た怪物と同じ様に大きく膨れ上がり、爪も長く鋭く尖らせていた。
顔は仮面を被った時と同じだが、翼を羽ばたかせて屈強な肉体を浮かせる姿はもはや、魔物と云うべきだろう。


「こいつら…!この時の為に俺達と同行したいって言いやがったのか!!」

「皆様お下がりを!こいつらは私達が!!」

「アロガント様が俺達傭兵をなかなか信用してくれなかったのはこういう事だったんだな!ふざけた事をしやがって!!」


他の3人の傭兵達は、変貌した二人からレヴィン達6人を守るべく一番前に立ち、それぞれの武器を出して構える。
剣、拳銃、短剣を向けられた怪物達は怯む様子を見せず、身体から闇属性の魔力が溢れ始める。
だがレヴィンとカイザー、エンドルはそれに臆せず、それぞれの武器を出現させては同様に前に出る。
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