Story.07≪Chapter.1-7≫

☆☆☆

「え…?何これ…」


こちらは直線に足を運んだ先の行き止まりの部屋、驚きのあまり目を見開いたリヴマージが目にしたのは、壁に張り付けられた1枚の彼女の写真。
それには刃物で切り刻まれたであろう傷がハッキリと見え、その数は10ヶ所を超えていた。
写真の周りには『嘘つき女』、『偽りの神子』、『アイドライズの真の敵』、『ブス魔女』など数多くの悪口が書かれた落書きがある。


「うわぁ…、これは酷い…」

「道化会の奴がやったのか…?」


道化会はリヴマージ抹殺の目的を持つ、そう考えると内に秘めた憎悪の感情がここで爆発させているだろうが、まさかここまでやるとはと二人の傭兵達は気分を害していた。
こんな事をされている側が自分だと思うと、平然としてはいられないだろう。
エンドルも苦悶の表情を浮かべており、レヴィンはこれを見せられて大丈夫なのかとリヴマージに視線を送る。


「リヴ…」

「だ、大丈夫…。これをやった人は、私に相当な恨みを持ってるみたいね…」


彼女は仲間達に不安にさせないよう、犯人の心境を予想していた。
だが僅かに冷や汗が流れ、顔も苦しそうな所から上手くは誤魔化せていない。


「これは一度、アロガント様達にも見せた方が良いかと…」

「どう見ても神子に対する侮辱だからね…。もしこれが本当に道化会の誰かがやったんなら、襲撃の動機に繋がる」


この事について一人の傭兵がエンドルに意見を求めると、有力貴族にも意見や判断を求めたい様だ。
今までアイドライズを守り続けてきた神子をこんな風に扱う者がいると知れば、如何なる事情があろうが侮辱は許されない。
特にビューティリス家は、レヴィンの家系であるフィデリー家に負けじとリヴマージに対する篤い忠誠心を持つ一族なのだから。


「ここの調査は我々だけで行います。神子様は少し、通路に出た方が…」


もう一人の傭兵は、顔色の悪いリヴマージをしばらくの間この場から離れさせたいと思っている。


「ううん、大丈夫。こういうのもちゃんと受け入れなくちゃ…」

「リヴマージ様…」


しかし対するリヴマージはレヴィンの支えの元、一緒に調査する意思を見せる。


「道化会は闇の勢力の残党だけでなく、この聖冥諸島の現状に不満を持つ人達で成り立っているって事は知ってますよね?」

「はい。アロガント様とエリザベートお嬢様からそうお聞きしました」

「闇の勢力はともかく不満を持っている人だったら、その人の何が不満なのかを知る必要があります。その為にも悪口から逃げずに向き合わないと…。お願いします、私もここを調べさせて下さい」


自分が神子だからと云って特別扱いを求めておらず、心が傷付いただけで外されるワケにもいかない。
写真を切り刻み、様々な悪口を書いた理由を探す事も、道化会の目的を知る手掛かりになるからこそ、間接的な精神攻撃にも立ち向かう姿にエンドルはリヴマージの逞しさに安心したのか微笑んでいた。


「リヴの事は俺とエンドル殿が見てます。傭兵の皆さんの気持ちは分かりますが、彼女は皆さんまで巻き込んでしまった責任を感じていますし、何よりこれ以上の被害を出さない想いで今回の調査に参加しているんです。だから、最後までやらせて下さい」


レヴィンも彼女の意思に賛同し、尚且つ解決までやり遂げさせるよう頼み頭を下げた。
≪サクレイド学院≫で“粛清の炎”が率いる会員達の襲撃に遭い、同時に自分達が見えない所で他の生徒達と教職員達が襲われた。
幸い死者は出なかったものの、自分が学院内に残っていたせいで怖い目に遭わせてしまったと感じて道化会の陰謀を阻止すると決意した。
その意気込みはレヴィンと護衛のエンドルだけでなく、別のルートで調査中のカイザーとエリザベート、そしてここにはいない同級生達と担任のアンヘルがよく知っている。
揺るぎない意思を見せ付けられた二人の傭兵達は、一度互いに目を合わせてからレヴィン達に向き直り、こう言った。


「ならば我々も、貴方達に直接伝えたい事がある」


するとその者達の懐から取り出されたのは、目の部分だけ穴が空いた白い仮面だった。
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