Story.07≪Chapter.1-7≫

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右方向の行き止まりは、上の部分だけが埃だらけの木箱や樽、木製の大きな棚に剣や槍など様々な武器が置かれていた。
ここはどうやら倉庫の様であり、以前調査した者達が持って行った形跡もあって今はそれ程多くは残っていない。


「うーん…。ここは特に何もなし、か」


怪しい仕掛けがないかを確認する為に、3人の傭兵達は慎重に木箱や樽をずらすもそれらしきモノは見当たらない。
カイザーとアロガントは棚にある武器を調べるが、刃が錆びているモノばかり。
エリザベートは木箱の中に興味を示し、傭兵達に全て開けさせたが、いずれも腐食が進んでいるせいで元が何なのかすら分からなかった。


「お父様、ここは敵にとっても私達にとっても役に立ちそうなモノはありませんわ」

「物の移動の形跡はあるが、新たに掘られた跡とか削られた跡もなさそうだな…」


ここでの収穫はないと見たビューティリス一族の二人は、残念そうな表情をしながらも3人の傭兵達にリヴマージ達との合流を促した。
そんな中カイザーは、棚の一番下にある鞘に納められた刀に目が止まり、埃を手で払いながらゆっくり引き抜く。
すると刃の色は水色で、放置されていた他の武器と違い錆と刃こぼれはなく綺麗な状態を保っていた。
しかも至る所に桃色の紋章が刻まれており、ほんの僅かに冷たい気配を感じ取る。


「おお、美しいな…」


すると背後から刀に対するアロガントが感嘆する声を耳にし、振り向くと彼だけでなくエリザベートと3人の傭兵達もそれに見惚れていた。


「状態も良いみたいですね」

「これは売ったら高く付くんじゃないか?使いこなす奴はいなくても、コレクターは欲しがるレベルだろ」

「俺達ラッキーですね!敵どころか他の調査チームより先に見つけて!」


3人の傭兵達の評価も高く、事が済んだらボーナスが出ると思っている様だ。


「あの女には申し訳ないけど、これは私達が見つけたという事で」


エリザベートは学院内で唯一使いこなせるであろうミシェルには伝えようとせず、ビューティリス一族の家宝にしようと考えている。
アロガントもそれは悪くないだろうと頷いた直後、カイザーは刀を鞘に納め、最初に置かれた場所に戻した。


「えっ?カイザー様っ!?」

「行くぞ。俺らは道化会の連中を探しに来たんだ。お宝探しに来たんじゃねぇ」

「そ、そうだが、しかしその刀は…」

「使いこなせる奴がこの中にいねぇんなら邪魔なだけだ。もし誰かがこれを使って壊れたら価値はどうなる?考えてみろ」


彼が言うのは最もだ、ここにある武器は全て原始固有型武器であり、魔術形成型武器と違って破損したら勝手に修復する事はない。
特に大昔に作られたであろう水色の刀は状態が良く、鑑定に出せば高値が付きそうなイメージだが、壊れたらその評価は一気に下がる。
最悪“無価値”と言われざるを得ないので、アロガントは3人の傭兵達に使いこなせそうかと問い掛けると、傭兵達は揃って首を横に振った。


「…刀は調査が済んだら再び取りに行く。良いか?この事は誰にも言うんじゃないぞ」


どうやら別の行き止まりで調査をしているレヴィン達にも伝えない方向で行く様で、アロガントとエリザベートは彼らと合流すべくこの場を後にする。
3人の傭兵達も二人に付いて行こうとした時、一人の傭兵が一旦足を止めてカイザーに視線を送り、周囲に聞こえない程度で一つ質問をする。


「……エリザベートお嬢様が言ってた“あの女”って、誰の事ですか?もしやさっきの刀を使いこなせそうな方ですか?」


どうやら刀を目にしたエリザベートの感想が気になっていた様で、カイザーは他の面々が見えなくなったのを確認し、「そうだな…」と少し考えてからこう答えた。


「俺の同級生で、原始固有型武器の刀を器用に使いこなせる女だ。時と場合によっては、俺よりヤバい奴かもな」

「えっ…!?マジですかっ!?」

「学院は色んな意味でヤバい奴がゴロゴロいるぞ。俺の態度だけでビビってちゃ、この先の戦いに付いて行けないぜ」


微笑みながら合流に向かうカイザーから≪サクレイド学院≫の事情の一部を聞かされた時、一人の傭兵の顔は青ざめた。
これは世界最高峰の軍事学院に相応しく優秀な者達がいるのか、それとも別の意味なのか。
自らは行った事がないので答えに辿り着かないと判断した時、傭兵も彼に付いて行ったのだった。
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