Story.07≪Chapter.1-7≫

それを余所に、レヴィンがカイザーにこっそりと注意をする。


「カイザー、アロガントさんにタメ口はさすがにまずいだろ」

「気に入らねぇ奴に敬意を払う必要はない」

「それでもちゃんと丁寧にした方が良いって。傭兵達がビビっちゃうから…」


まるでエクセリオンの説教の様なセリフだが、5人の傭兵達の様子は明らかに恐れを抱いている。
リヴマージの優しい言葉もあって不穏な空気は収まり、アロガントは改めて黄金に輝くタブレット端末を操作してこの地下道の地図(マップ)を見せる。


「現在、我々がいる地点はここだ」


彼が指を差したのは右下の方、方角で言うと入口と同じ南東のエリア。
小さく十字を描く様に道が交差している場所の真ん中に黄色い丸が示されているのが持ち主の居場所、すなわち自分達の現在地だ。
そこを真っ直ぐに行く先と右に曲がった先は部屋の様な間取りが描かれ、その先の道がない事から行き止まりだと思われる。
左に曲がると更に一本道が続き、指で辿ると面積の広い空間に導かれるのが分かる。


「普通に考えたら次は左ですわね」

「学院が襲撃されてからこの地下道を封鎖する前に、誰かがここを出入りしたっていう話は?」

「5人くらい…、いや6人だ。聖冥諸島が分断される前のクリアトラックス時代に築かれた、アイドライズ地方最大都市の位置がこの遺跡だから最初は再調査かと思った」


レヴィンの問いに対する正確な答えを出しつつ、アロガントから出た言葉―クリアトラックス。
それは聖冥諸島が一つの島だった時代に島国として存在していた王国の事で、約200年もの間、5代に亘る歴代国王の統治の下で成り立っていた。
特に最後の王と言われる5代目の国王が盤石な統制で平和を保っていたのだが、分断戦争の始まりを機にそれが崩壊。
瞬く間に北のガーディアナ地方と西のコマンダル地方が闇の勢力に占領され、その王も戦いの最中に命を落としたと語られている。
これは島民の誰もが知っており、移住者も自然とその話が聞かされるであろう最重要の歴史の一つである。


「私達は今、王国の街並みだった場所にいるのね」

「左様(さよう)でございます。そして貴方様の命を狙う不届き者達が足を踏み入れ、私物の如く拠点を構えるとは許し難い…!」


今度は学院を襲撃した集団に利用されていると見た傭兵達は再び恐れを抱いた。
その者達を見たカイザーは本当に頼りにして良いのかと思い溜め息を漏らし、レヴィンは「落ち着いて下さい」とアロガントを宥める。


「その為にもちゃんと調査をしましょう。リヴと、アイドライズの為にも」

「そうだな」

「それで、どうします?このまま左に行きますか?」

「いや、先に行き止まりの方を調べるぞ。この地図(マップ)は学院が襲撃される数ヶ月前に作成した時のままだ。もしかしたら私に許可もなく勝手に道や空間が作られているかもしれん」


今や≪クロスラーン≫を統治する貴族の私情が挟まれているが、確かに直線方向と右方向も道がないとはいえ無視は出来ない。


「そうですね。ここに潜む会員は必ずしも一人とは限らない」

「僕もアロガント殿の意見に賛成です」

「私もお父様に従いますわ」

「ここに入ったのは初めてだからな。詳しい奴に任せる」

「私も行き止まりの所は気になっていました。傭兵の皆さんもそれで良いですか?」


レヴィンが頷くとエンドルとエリザベートとカイザーも賛成し、リヴマージも賛同しながら傭兵達にそう尋ねると、その者達も「分かりました」と了承した。
そこで直線の先の行き止まりはレヴィン、リヴマージ、エンドルと二人の傭兵達が向かい、右方向の行き止まりはカイザー、エリザベート、アロガントと3人の傭兵達が担当する事になり、11人は一旦二手に分かれて調査を開始する。
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