Story.06≪Chapter.1-6≫

身動きが出来ないミシェルとアンナからすれば、ここからだと何を話しているのかがよく聞き取れない。
アンナも彼らに聞こえないくらいの小声で、ミシェルに話し掛ける。


「あの人達…、どうしたのかしら?」

「さぁな。俺らの足を石化して1年前の事件の話したと思ったら、いきなり離れやがった。この後の事でも話してんじゃね?」


ただ単に、マンダー達は自らが掴んだ新たな情報を語る為に自分達を人質にしたとは考えられない。
そうでなければ身体の一部を石化させただけでなく、この学院の『武道場』に連れて来させた意味が見当たらないのだから。


「私達…、これからどうなるのかしら…」


向こうは隠していた素性が思わず口に出てしまった、しかし知られてしまったからには高確率で消しに掛かるだろう。
アンナが不安を拭えないのも無理はない、彼らが目を背けた隙に≪ディスペル・サーキュラー≫を唱え、身体を元に戻さなければ。
だが石化を解除出来たとしても、昨日の朝の様に攻撃してしまってはまたエリザベートや別の誰かに非難の声が出る。
ただでさえ自分がスパイ疑惑に掛けられやすい状況の中で二度も命令無視をしては、今後の行動に制限が掛かるだろう。
たとえアンナが証言したとしても、マンダーとバジールはともかく、シクールは頭脳が優れているらしいのではぐらかされる可能性がある。
カメラウィングによる映像も、道化会の会員が相手ならば電脳の魔法かそれと同等の効果を持つ道具が使用されたとなれば、この出来事が正確に映されているとも限らないのだ。
ミシェルは様々な経験と情報が交錯する中でアンナと共に安全に脱出し、尚且つ穏便に事を済ませる方法はないかと模索していた時…、


「シャイン・フラッシュ…」


聞き覚えのある男性の声と共に、『武道場』の中は眩い光に包まれて5人は思わず両腕で目を覆った。
これでは状況が確認出来ないと思った時、両足が急に束縛から解かれた様に動かす事が出来た。
それと同時に光も消え、両腕を下ろすと腰まで纏わり付いた石がいつの間にか消え、アンナも同じ様に石化が解けていた。
誰が解除してくれたのか、それは彼女達の側に現れた、アンヘルの姿を見て答えが出た。


「遅れてすまないね。君達が人質になっていたのは数分前から知ってたけど、二人を安全に助ける方法がなかなか思い付かなくて」


彼の右手には解石(かいせき)の水と呼ばれる透き通った青い液体が入った透明のボトルを持っており、それを足に直接掛けた事で石化を解除したのだろう。
信頼出来る自分達の担任が来てくれた事に、アンナは安堵の息を漏らした。


「ありがとうございます、先生…」

「知ってたんならさっさと助けに来いよな…。俺はともかくアンナが不安がってたぞ」

「ごめんごめん。相手の中に在学中の3年生がいるってなると、難しい所もあってね」


ミシェルの一言に苦笑いで返すアンヘルに、怯んでいたマンダー達3人は困惑する。


「どういう事だよオイ…。教員は皆、帰ったんじゃねぇのかよっ!」

「帰る途中、忘れ物をした事に気付いて戻って来たんだ。そしたらここの階のカメラウィングが武道場方面に向かってるのを見て、こっそり覗いたら半分石化状態の僕の教え子達を見つけたワケ」


うろたえるマンダーの問いにアンヘルが答えると、ミシェルとアンナは納得した様に首を縦に2回振った。
カメラウィングはただ単に設置された場所の映像を映し出すだけでなく、不審者を見つけたら密かに追うという追跡機能も備わっている。
その様に動いた姿を目撃して、彼は少し遅れながらもこうして駆け付けたというワケだ。


「ミシェル、今日は大人しくしてたみたいだね」

「…身体の一部でも石化しちまったら、下手に動けるワケねぇだろ」

「それもそうだね」


アンヘルはこの状況でもミシェルが何か仕掛けて来るのではないかと思っていたが、石化の特性を考えれば無理があると結論付けた。
その状態で動かす、または少しの衝撃が加われば砕けるという大惨事になり兼ねない為、相手に刺激を与えないよう静観するしかないのが一番の理由だから。
そして彼は視線を彼女達からマンダー達3人に移し、少しだけ彼らに近付く。
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