Story.06≪Chapter.1-6≫

「ミシェルさん、貴方は確か…9年前の記憶を失っているそうですね。昨日の朝はリアンという男がその話を切り出そうとしていた。しかし貴方にとって、それを他の方々に見せるのは不都合だと思いあの様に改竄(かいざん)したのですね?」


記憶喪失は、どれ程疑惑を否定してもその部分を指摘されれば、無実である証拠が出ない限り決して晴れる事はない。
誰か一人がその様に騒げば、同じ様にまた誰かが疑いの目を自分に向けられ、気が付けば信用してくれる人物がいなくなる。


「……いえ、これ以上はやめておきます。今の話も、聞かなかった事にして頂ければありがたいです。ではまた…」


ラウネは相手の気持ちを察したのか、早々に動画の話題を切り上げた。
そして視線を下に向きながら退室する姿に、ミシェルは予想よりもあまり指摘して来なかった事に首を傾げた。
いつもの彼女らしくない、9年前に関して何か思う所があったのだろうか。
だがあまり追及し過ぎると返って怪しまれると、ミシェルも呼び掛けるのを止め、『生徒会用会議室』を出ては帰宅の為に1階の生徒用玄関へ歩き出す。


―9年前かぁ…。久々に俺の記憶を探してみるか―


道化会がこの学院を襲撃して以降、その集団に関する情報収集を優先していたが為に、失われた自身の記憶の調査は放置していた。
今朝、ファウンダットとアンヘルとセロンの3人が調査すると言ってはいたものの、取り戻すきっかけを作れるのは自分だけ。
1年前の事件と並行する事になるが、道化会の明確な目的がハッキリしていない中、怪しい事柄は全て調べ尽くすしかない。
そう思いながら歩き、生徒用玄関が見えたと同時に、付近には見覚えのある二人の少年がいた。
実際には直接というワケではなく、マーガレットの話とラウネが見せてくれた立体映像(ホログラム)を通して知った、例の二人。


「おい、見ろよバジール。まだ学院に残ってる生徒がいるぜ」

「あ、本当っすね、マンダーの兄貴。へへへ…、人質が多けりゃ多い程、教員はビビるってモンっすよ」


片方は『生徒会用会議室』で見た、真ん中の部分をトサカの様に立たせた赤いショートカットの髪に朱色の瞳で、服装は黒の革ジャンに白のタンクトップと、青いジーンズに黒と白を基調としたスニーカーの少年。
もう片方も同じく黒の革ジャンを羽織り、中は水色のTシャツを着て黒のズボンを穿き、白のスニーカーを履いているが、坊主を思わせる様な青のベリーショートヘアと同色の瞳は立体映像(ホログラム)で見た時と同じだった。
しかもお互いに相手の名前を言っており、これが決め手となって赤い髪の少年はマンダー・B・ハードラッカー、坊主の様な青い髪の少年はバジール・S・フェイバーランプである事が分かった。
だが彼らが道化会と関係しているかはまだ不明なので、ミシェルは集団の名称を伏せ、二人を知らないフリをしながら対峙する。


「……制服着てねぇし、見た事ねぇ顔だからここの関係者じゃねぇな?許可取ってねぇんなら通報するぞ」

「おいおい、冷たい事言うなよぉ?俺達は仲の良い後輩を探してんだ。こんな時間になってもまだ帰ってねぇみたいでよぉ、ちょっと迎えに来ただけさ」

「んなモン、外で待てば良いだろ」

「この前、ここが襲撃されたんだろう?世の中何が起こるか分かったモンじゃねぇからなぁ。やっぱり先輩である俺達が付いてあげねぇと」

「……さっき、そこの青い坊主が人質がどうのこうの言ってたみてぇだが?」


何気ない会話の中でミシェルが最後に放った一言に、マンダーとバジールは『ギクッ』と僅かに身体を震わせた。
後にマンダーがバジールに小声で「聞こえちまったじゃねぇかよ…」と言うと、「すんません兄貴…」と謝罪の言葉を交えて返答された。
どうやらそれ程上手く隠し事は出来ないと見たミシェルだが、彼らは聞いてしまったら仕方がないと思わせる様に怪しい笑みをこちらに向けた。


「へっへっへっ…、その青いリボンは2年生だなぁ?例の神子と同級生って事か」


マンダーに確認を求められると、ミシェルは左手に鞘を持ち、右手で刀を引き抜く態勢に入ろうとすると…、


「おーっと、無駄な抵抗はやめた方が良いぜ」


聞き覚えのない少年の声が背後から耳にし、ゆっくり振り向くと学院の制服を着た癖のない黄緑のショートカットで深緑の瞳を持ち、右目が両耳に掛けるタイプの黒い眼帯に隠された少年が、左腕でアンナを抱え、右手で握る銀色のナイフを彼女の顔に近付けながら立っていた。
彼が付けるネクタイのラインの色は白、すなわち3年生の男子生徒という事になる。
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