Story.06≪Chapter.1-6≫

「ええ。ごめんなさいね、急にこんな事を頼んじゃって。生徒会に所属せず、四王座でもないけど実力があって、誰にも縛られていなさそうな貴方が適任だと思って、アンヘル先生とセロン先生の話し合いの末に決めたの」


既に自らの担任と剣の師匠にも通していたか、学院内では何一つ称号を持たず、自由に動ける生徒だと知ったが故に、面倒な仕事を押し付けられたと溜め息を漏らすミシェル。
とはいえ、道化会に関する情報はまだまだ少ないのも事実であり、1年前の事件が原因であると決め付けるのも良くない段階だから、確実な情報源は押さえたいと誰もがそう思っている。
その為にも居場所の特定をと、ミュレイは正確な住所を二人の教師達に尋ねる。


「アヴェンジットの何処のエリアに住んでいるのかは分かりますか?」

「そこまでは…」

「通信入れたって事は、相手が出なくても場所くらい特定出来るんじゃねぇのか?」

「私もそう思って特定してみたのですが、何故かノイズが走ったり、画面がおかしな事になったりする事が多く、正確な住所が判明出来ません」


ラウネのコンピューター操作によりマンダーとバジールの居場所が掴めたのかと思いきや、様々な障害(エラー)が発生している様で困り果てる彼女。
だがこの発言を受けて、他者への通信を阻害させた電脳の魔法の存在を思い出させる。


「……なぁ、これって…」

「いよいよ、マンダー先輩とバジール先輩が怪しくなってきたな」

「雷属性と超属性の魔力の痕跡の有無は分かりませんが、ここ数日間、アヴェンジット内で電波が入らなくなる程の大規模な工事などはありませんでした」


コマンダルの公的な事情で通信が繋がらないという知らせはない、そうと聞けばマンダーとバジールが道化会と関係している可能性が高まってきた。
では二人と仲の良い3年生のシクールはどうなのか、そう思ったミシェルは彼と同級生であるミュレイとバラッドに聞いてみる。


「シクールって奴は、学院が襲撃される前後で仲の良い先輩の話はしてなかったのか?例の二人以外でも良いけど」

「うーん…、特に何も聞いてないわね…」

「シクールは入力試験と筆記試験の成績は常に上位にいると聞いている。戦闘においても頭を使った戦い方が多いのだから、たとえあいつが道化会と関わっているとしても、学院内で口にする事はまずないだろう」

「だよなぁ…」


バラッドが語ったシクールの成績によって、襲撃前にて密かに誰かが道化会という言葉(ワード)を聞いた者はいなさそうだと溜め息を漏らすミシェル。
こちらが情報収集に苦労する事だけあって、内通者も下手な行動を起こす筈はないか。
その一方でラウネが自らの腕時計で時刻を確認すると17時30分を示し、生徒をここまで残させたのを悪く感じたのか、同じ教員のマーガレットに呼び掛ける。


「マーガレット先生、もうそろそろ3人を下校させては?」


彼女も『生徒会用会議室』内に設置された時計を見て、「あっ、もうこんな時間…」と少し驚いた表情をしつつもミシェル達3人の生徒に視線を戻す。


「ここまで付き合わせてごめんなさい。マンダーとバジールの事、また新しい情報が入ったらメールで貴方達に知らせておくわ」

「分かりました。私達の方からも、何かありましたら連絡しますね」


そうしてミュレイとバラッドは退室し、マーガレットもミシェルに目を向けては「あの二人の件、宜しくね」と微笑みながら廊下に出た。
ミシェルも長い話が終わったと感じさせる様に一度背伸びをし、『生徒会用会議室』を出ようとした時にラウネに呼び止められる。


「……昨日、貴方が映した動画の事ですが、編集するのであれば一度私に声を掛けてくれれば良かったのですが…」


話はリアンの口からスパイの存在を聞かされた動画についてであり、ミシェルは困惑する様に右手で頭を抱えた。
今朝、編集された部分を見抜いたのはラウネだとアンヘルに言われて以降、彼女に声を掛けづらかったのだ。
スパイ疑惑として一番目を向けられやすい中で、9年前の事を話して良いのかと悩んでいたのも理由の一つであるが、データを復元して本当の動画を覗いたのではないかと予想しながら言葉を返す。


「……情報学の教師になれる程だ。俺がカットした部分でも見たんだろ?」

「……ええ、まぁ…」


対するラウネは、彼女の言葉を肯定しつつも、同じ様に言いづらそうな返し方をした。
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