Story.06≪Chapter.1-6≫

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道化会による学院襲撃事件から3日目、時刻は16時40分…。
書記のアンナを帰らせた後、2階の『生徒会用会議室』にてマーガレットが1年前の事件について語り、ここにいるミシェルとミュレイ、バラッドとラウネは一切の口出しをせず静かに聞いていた。


「あの後、私は何度か自警団や調査員に例の事件の再調査や新たな真実があるかどうかを聞いてみたわ。だけどその動きはなく、ロバートさんも“これ以上は無理だ”と言われ、結局はカルマが殺したという事実に変わりはなかった」


確かにウェブニュースでは事件発生から3日分の記事しかなく、それに関するコメントは次々と送られているものの、新事実があったという記事は今の所存在しない。
まだ1年しか経っていないという事もあるだろうが、それだけ確固たる証拠があったのだと思われる。


「そんで、あんたはカルマに味方する当時の教え子、今は卒業生が道化会の会員じゃないかって見てんだな?」

「ええ。学院内のスパイの方はまだ予想出来ないけど、その人達に聞いてみれば、そちらの方も絞り込めるんじゃないかなって私は思うの」


カルマと親しく、彼が無実であると信じる同級生が怪しい内容の書き込みは裏サイトで閲覧済みだが、後輩の方はミシェルもまだマークしていなかった。
先輩との繋がりで会員になり、学院に通いながら情報を横流しするとなれば、1年前の抜き打ちテストに臨んだ現在の2年生と3年生の生徒の中にいる可能性がある。
……最も、今朝のファウンダットと担任のアンヘル、剣の師匠のセロンとの呼び出しでリアンとの遭遇を追及された時点で、自分が一番怪しまれやすくなったミシェルは口に出しづらい状況であるが。
そこで現在の3年生である、ミュレイとバラッドにもあの事件について尋ねる。


「会長と副会長は何か聞いてるか?3年の中でカルマと仲が良い奴がいるとか」

「残念だが、そういう話は耳にしていない。発表の中で1年前の事件を調べ上げた同級生が3人いただけだ」

「その3人というのが私とバラッドと、シクール・W・ライトゥンという男子生徒よ。…あ、そういえば彼、カルマの同級生の中に親しい人がいるって言ってたわね」


二人が調査の発表の話題に触れた時、ミュレイはシクールという生徒の言葉を思い出した。
これにはマーガレットとラウネも反応し、「本当なの?」と聞かれると首を縦に振ってから続ける。


「厳密に言えばカルマと関わりはないけど、シクールは近所にマンダーという先輩が住んでいて、その人とバジールという先輩と一緒に将来傭兵団を作りたいって言ってたわ」

「えっ?マンダーとバジール…!?」


するとマーガレットは、ミュレイの説明の中に知っている人物の名前が出てきた様で、慌てた感じでラウネに頼み込む。


「ラウネ先生、私が送ったその二人の静止画を立体映像(ホログラム)に映し出してくれませんか?」

「あ、はい。分かりました」


ラウネは自身の銀色に輝くノートパソコンを操作し、彼女に指定された二人の人物の立体映像(ホログラム)を同時に出現させた。
いずれもサクレイド学院の男子生徒の制服を着ているが、ネクタイに白いラインが2本付いている事から、おそらく卒業当時の画像だろう。
一人は赤いショートカットの髪だが、真ん中の部分だけトサカの様に真上に尖らせたようなヘアスタイルで朱色の瞳を持つ少年。
もう一人は頭部が坊主の様に丸く、青の髪が非常に短いベリーショートヘアで、同色の瞳を持つ少年。
赤い髪の人物はマンダー・B・ハードラッカー、坊主の印象を受ける人物はバジール・S・フェイバーランプという名前である事をマーガレットが伝えた。
彼らがシクールと仲の良い先輩達なのかと心の中で思うミュレイとバラッドに対し、ミシェルは何か引っ掛かりを感じたかの様な反応を見せる。


「ミシェルさん、どうかなさいましたか?」

「……なーんか見た事あるんだが…、何処だったかなぁ…」

「そうなの!?何処だか思い出せるっ!?」


見覚えがありそうな発言に、マーガレットは期待を込めた視線で彼女の答えを待つ。
ミュレイとバラッドも、ラウネも彼らの居場所が分かれば二人との対話が出来るのではないかという想いで待つが…、


「ダメだ。思い出せん」


今ある記憶を掘り起こしても出てこなかった事に、『生徒会用会議室』の中は落胆のムードに陥った。
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