Story.06≪Chapter.1-6≫
1年前、教え子でありプロヴォーク家の長男のファーウェルが殺害された事件が発生した抜き打ちテストが一通り終わった後、マーガレットは様々な意味で心を痛めた。
当時、彼女が担任の3年生が利用する2階の『301教室』へ向かう足取りは非常に重く、顔も俯いて暗い雰囲気を漂わせていた姿を、通り掛かる生徒と他の教職員達が目にしていた。
―聞いたか?カルマが追放処分喰らったってよ―
―追放って確か、退学された上に再入学試験が受けられないし、イベントとかでも関係なく二度と学院の敷地内に入れなくなるんだっけ?―
―殺されたのがあのプロヴォーク家の息子だからなぁ。とはいえ、殺人犯と一緒に授業を受けるとなると正直ゾッとするぜ―
―カルマは『やってない』って言いまくってたけど、証拠が出揃ってたらしくて聞き入れて貰えなかったんだとよ―
―マーガレット先生、気の毒よね…。3年生の様子が見られない状況であの事件が起きたんだから…―
―君達、もうすぐ朝礼が始まるよ。遅刻扱いされない内に教室に戻りなさい―
通路にいた生徒達による噂話と、教室へ入るよう促す教職員達の声が耳に入ると、彼女は一度足を止めた。
抜き打ちテストで3年生の監視役を務めたウォルフがあの二人の戦いを肉眼で見て、終了直後によるリプレイ検証でラウネが細部までチェックして違法性の有無を判定する。
本来の判定に加え、法医学による調査の結果に基づき、学院長であるファウンダットがカルマに追放処分を言い渡したのだ。
この結果を、今でも学院に通い続けている教え子達はどういう風に受け取っているのか。
カルマとファーウェルの仲の良さは誰もがよく知っているが故に、反応を見るのがとても怖い。
「マーガレット先生」
すると背後からよく知る男性の声を耳にして振り向くと、そこには学院長のファウンダットと、友人であり先輩教師のアンヘルがいた。
「学院長、アンヘル先生…」
「あんな事があった直後って、生徒達にどんな顔をしたら良いのか分からなくなるよね。僕も騎士だった頃に、仲間同士の殺し合いを見た事があるから、報告とかも含めて難しい所さ」
アンヘルは自らの過去の一部を語り、出来る限りマーガレットに寄り添おうとしている。
その反面、ファウンダットは全てを理解した上でこう言った。
「それもまた、軍人の宿命(さだめ)じゃ。仲間を殺した犯人を捕えた所で、皆(みな)が皆、喜びの声を上げるワケではない。犯人が救いようのない悪なら話は別じゃが、カルマは私に追放を言い渡された後も、必死に犯行を否定しておった。そんな彼を信じる者達がいるのは確かじゃ」
マーガレットはこれから教室に入る最大の不安要素を指摘され、その場で俯いた。
「上に立つ者、指導者たる者は全ての仲間からの信頼と支持だけでなく、反発や批判、憎悪も真摯(しんし)に受け止めなければならん」
「反発…、批判…、憎悪…」
「要するに、生徒達のあらゆる“声”を聞いて考え、行動する事。さすれば、新たな信頼を得る事もあるじゃろう。たとえ争い事の少ない国の軍に所属したとしても同じじゃ」
学院長の数々の言葉を聞いて彼女はハッとして顔を上げ、ファウンダットの目から揺るぎない意思を感じた。
決断は人々を導く事があれば、人々から否定され拒絶される事もある。
だがその“声”をも聞かなければ前に進めないのもまた事実であり、マーガレットは心を落ち着かせ、二人に一礼をしてから踵を返し、再び『301教室』へ足を運んだ。
僅かに話し声が聞こえる教室のドアが自動的に開くと、ゆっくりと教壇に向かっては目の前にいる教え子達に視線を送る。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます、じゃねぇんだよ。何でカルマを追放させやがった!」
「あいつがファーウェルを殺す理由なんか何処にもないんだ!」
「やめろって!今マーガレット先生に言ったってどうしようもねぇし」
「こういうのは自警団とか調査員とかに伝えた方が良いわよ。あの人の追放は先生が決めたんじゃないの」
やはりこちらの予想通り、カルマを擁護する声があれば担任を責めるなという声も飛び交っている。
それでもマーガレットはそれらの“声”を聞きながら向き合う、しかしこれが、1年後の学院襲撃に繋がるとは思いもしなかった…。
当時、彼女が担任の3年生が利用する2階の『301教室』へ向かう足取りは非常に重く、顔も俯いて暗い雰囲気を漂わせていた姿を、通り掛かる生徒と他の教職員達が目にしていた。
―聞いたか?カルマが追放処分喰らったってよ―
―追放って確か、退学された上に再入学試験が受けられないし、イベントとかでも関係なく二度と学院の敷地内に入れなくなるんだっけ?―
―殺されたのがあのプロヴォーク家の息子だからなぁ。とはいえ、殺人犯と一緒に授業を受けるとなると正直ゾッとするぜ―
―カルマは『やってない』って言いまくってたけど、証拠が出揃ってたらしくて聞き入れて貰えなかったんだとよ―
―マーガレット先生、気の毒よね…。3年生の様子が見られない状況であの事件が起きたんだから…―
―君達、もうすぐ朝礼が始まるよ。遅刻扱いされない内に教室に戻りなさい―
通路にいた生徒達による噂話と、教室へ入るよう促す教職員達の声が耳に入ると、彼女は一度足を止めた。
抜き打ちテストで3年生の監視役を務めたウォルフがあの二人の戦いを肉眼で見て、終了直後によるリプレイ検証でラウネが細部までチェックして違法性の有無を判定する。
本来の判定に加え、法医学による調査の結果に基づき、学院長であるファウンダットがカルマに追放処分を言い渡したのだ。
この結果を、今でも学院に通い続けている教え子達はどういう風に受け取っているのか。
カルマとファーウェルの仲の良さは誰もがよく知っているが故に、反応を見るのがとても怖い。
「マーガレット先生」
すると背後からよく知る男性の声を耳にして振り向くと、そこには学院長のファウンダットと、友人であり先輩教師のアンヘルがいた。
「学院長、アンヘル先生…」
「あんな事があった直後って、生徒達にどんな顔をしたら良いのか分からなくなるよね。僕も騎士だった頃に、仲間同士の殺し合いを見た事があるから、報告とかも含めて難しい所さ」
アンヘルは自らの過去の一部を語り、出来る限りマーガレットに寄り添おうとしている。
その反面、ファウンダットは全てを理解した上でこう言った。
「それもまた、軍人の宿命(さだめ)じゃ。仲間を殺した犯人を捕えた所で、皆(みな)が皆、喜びの声を上げるワケではない。犯人が救いようのない悪なら話は別じゃが、カルマは私に追放を言い渡された後も、必死に犯行を否定しておった。そんな彼を信じる者達がいるのは確かじゃ」
マーガレットはこれから教室に入る最大の不安要素を指摘され、その場で俯いた。
「上に立つ者、指導者たる者は全ての仲間からの信頼と支持だけでなく、反発や批判、憎悪も真摯(しんし)に受け止めなければならん」
「反発…、批判…、憎悪…」
「要するに、生徒達のあらゆる“声”を聞いて考え、行動する事。さすれば、新たな信頼を得る事もあるじゃろう。たとえ争い事の少ない国の軍に所属したとしても同じじゃ」
学院長の数々の言葉を聞いて彼女はハッとして顔を上げ、ファウンダットの目から揺るぎない意思を感じた。
決断は人々を導く事があれば、人々から否定され拒絶される事もある。
だがその“声”をも聞かなければ前に進めないのもまた事実であり、マーガレットは心を落ち着かせ、二人に一礼をしてから踵を返し、再び『301教室』へ足を運んだ。
僅かに話し声が聞こえる教室のドアが自動的に開くと、ゆっくりと教壇に向かっては目の前にいる教え子達に視線を送る。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます、じゃねぇんだよ。何でカルマを追放させやがった!」
「あいつがファーウェルを殺す理由なんか何処にもないんだ!」
「やめろって!今マーガレット先生に言ったってどうしようもねぇし」
「こういうのは自警団とか調査員とかに伝えた方が良いわよ。あの人の追放は先生が決めたんじゃないの」
やはりこちらの予想通り、カルマを擁護する声があれば担任を責めるなという声も飛び交っている。
それでもマーガレットはそれらの“声”を聞きながら向き合う、しかしこれが、1年後の学院襲撃に繋がるとは思いもしなかった…。