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鈴蘭の咲く部屋

「ただいまー。あ、いい香り」
ドアが開いた音と同時に、鈴の声が届く。夕飯までには帰ってくるから! と慌ただしく出ていった彼女は、本当に夕飯の時間に間に合うように帰ってきてくれた、それがとっても嬉しい。
「おかえり。今日はカレーだよ」
「具は何?」
「シーフードにしたの。この前テレビで見て、美味しそうだったから」
「いいねー! 袋のコーンスープ残ってるっけ。スープ作っていい?」
「いいよ。私の分はコンソメにして」
キッチンは狭いけれど、鈴と私二人ならギリギリ動けなくもない。鈴はお湯を注ぐだけのコーンスープとコンソメスープを作って、テーブルまで持っていく。私は隠し味にインスタントコーヒーをひと匙、カレーに混ぜて味見する。甘めにしたカレーは、きっと鈴の好みに合うはずだ。
「カレー、どのくらい食べる?」
「お腹すいてるから、多めがいいな!」
オーダーを受けて、ご飯を若干多くよそって、カレーをかける。エビが多く入ったかもしれないけど、気にしない。私の分は少し少なめ。在宅の仕事に切り替えてから、食欲はちょっと落ちた。
「カレー運びに来ましたー」
こっち私の? と鈴が確認して、カレーを持っていく。戻ってきて、今度は私の分。最後に、スプーンとフォークを二つずつ。鈴は気の利く子だなぁ、なんて、いつものこと。
「サラダのドレッシング、何がいい?」
「うーん……。和風より洋風がいいかなぁ、シーザーは?」
「おっけー」
サラダの皿とドレッシングは、私が運ぶ。鈴が来てくれたけど、持てるよと笑った。
食卓に、今日の夕ご飯が揃う。具がたっぷりのシーフードカレー。サラダは彩りよく、スープは手抜きだけど、鈴も私も好きなやつ。
鈴と私が席に着く。出来たてのご飯を前に、お腹をきゅるきゅる言わせた鈴が恥ずかしそうで、可愛い。
「じゃあ、いただきますの前に。いつものやろっか」
鈴がにこりと笑って、指を立てた。
「私は今日、みなちゃんが持たせてくれたお弁当が美味しかったし、家に帰ったらみなちゃんがカレー作って待っててくれたし、足の鎖もそのまま。何度かカメラの映像も見たけど、外に出る様子もなかった。言うことなし! みなちゃんは?」
「私は今日、朝は鈴にいってらっしゃいができて、鈴はちゃんと夕飯までに帰ってきてくれて、一緒にご飯が食べれるし、何度か鈴がメールくれたし、言うことないよ。だから、今日もおっけー」
「うん! じゃあ、今日も美味しくご飯を食べよっか」
鈴が出窓に目をやった。花瓶の鈴蘭は、今日も綺麗に咲いている。
鈴が私をこの部屋に繋ぎとめた日。私は鈴にひとつだけお願いごとをした。
もし、お互いのどちらかが、お互いに不満ができて、それが話し合ってもどうやっても解決できなくて、鈴が私にかけた鎖を、外すなんて日が来たら。その日の夕飯に鈴蘭の花を混ぜて、一緒に食べて終わらせて。
「ん! みなちゃん! 今日エビ多い! やったー!」
「よかったね、鈴。美味しい?」
「美味しい! 辛くないから私でも食べられるよ」
「よかったぁ。お代わりいる?」
「お代わりしていいかなぁ……。もうこれ、大盛りでしょ?」
「鈴、今日も一生懸命がんばったんだから、食べたいなら食べていいんだよ」
「うー……。じゃあ食べよっかな!」
「そうしな。大丈夫、鈴が太ったとしても、ヘルシーで美味しいご飯作ってあげるから」
「みなちゃん頼もしいー!」
その日は、きっとまだ。
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