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chapter3

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あれから他の家具も届き、一通りのものが揃った。
まだまださっぱりした部屋だが新しい部屋にも馴染んできたところだろうか。
新しい自分の城に弾む気持ちを隠せないでいる一方、名前は一方通行のことが気にかかっていた。
ここ数日、あまり眠れていないのか目元に隈ができているのだ。
寝る場所が変わって落ち着かないだけならば良いのだけれど。




部屋を分けてからというもの、一方通行は不眠に悩まされていた。
照明を消した部屋、時計の音が微かに聞こえる。
その中に今まであったものが1つ、無くなっていた。
名前の寝息だ。
今まで微かに聞こえていたそれを、一方通行は意図せず聞いていた。
しかしホテルに宿泊し引っ越してからというもの、「小さな当たり前」がないことで不安になっていた。
名前の寝息が聞こえないことが怖いのだ。
気づかないうちに名前を失うのが、どうしようもなく。
白い部屋、無機質なパイプベッドに横たわる名前を思い出す。
あの名前は息をしていなかった。

「……」

もう、限界だ。
明け方近く、一方通行はむくりと起き上がり、枕と毛布を持って自室を出た。
向かう先は名前の部屋だ。
鍵は付いていたのだが、掛けられてはいなかった。
不用心と思う反面、拒絶されていないことが少し嬉しい。
暖かくして無邪気な顔で眠る名前は幸せそうだった。
手を顔の前にやると、かすかな息が皮膚に当たる。
掛け布団を剥ぎ、胸元へ手を当てる。
トクトクと心の臓は鼓動を刻んでいる。
名前が寒そうに身を縮めたので布団をすぐに掛け直してやった。
一方通行はラグの上に横になり、自分で持ってきた毛布にくるまる。
冷気を最大限に反射すれば暖かく眠れそうだ。
睡眠不足に陥っていた分、原因を取り除けば眠気はすぐにやってきた。




「あ、一方通行……?」

薄く目を開ける。
朝が来たらしく、少し眩しい。
名前が困惑したように覗きこんでいた。

「こんなとこで寝てちゃ風邪ひいちゃうよ」
「……冷気反射してっから平気」
「そうでなくても、せっかく部屋分けたんだし、女の子の部屋に入るのは……ね?」
「……」

予想通りの反応だった。
とはいえ、辛いものがある。
情けない顔をしてしまいそうで、枕に顔を埋める。
だって、と子どもみたいな言い訳をしたくなる。

「眠れねンだよ。名前がいないと」

名前は困った顔で頭を撫でてきた。




その日の晩、夕食と入浴を済ませた二人はソファでくつろいでいた。
名前は読書に集中しているようだが、一方通行に眠気が降りてきた。
数日の睡眠不足は一晩程度では取り返せない。
ゆっくりと名前の膝に倒れ掛かかる。

「ア、アクセラレータ……?」
「……膝、借りる」
「……うん」

返事を聞いたところで瞼を閉じた。
まどろみの中、髪をそっと撫でられた。
嬉しくて手を追うように頭を傾ける。

「……ごめんね」

意識を手放す直前、謝る声を聞いた。
朝のことだろうか。
悪いのは自分だというのに。




優しい声がした。
諭すような、優しい声が。

「一方通行、ベッドで寝よう」
「ン……」
「ほら、もう寝る時間だよ」

起きたくなくて名前の寝間着を握るが、軽く揺すられ寝ぼけ眼を擦る。
首を傾け時計を見ると1時間ほどが経過していた。
名前は一方通行の身体を支え、よたよたと彼の部屋へ連れていく。
一方通行がベッドに腰かけるといつもの挨拶を名前は言った。

「おやすみ」
「そォ言って部屋行くンだろォが。嫌だ、離れンな」
「……アクセラレータ?」

名前は驚いたように見つめた。
一方通行の視界は滲む。
それを見られたくなくて名前を抱きしめる。
彼女の耳元で懇願する。

「俺は一度名前を失くしてンだ。死んだ人間に会えるなンて普通、ありえねェだろ。俺がオマエにまた会えたのは奇跡みてェな曖昧で頼りない状態なンだよ。いつ失くすかわかンねェ」

なァ、と一方通行は続けた。

「ずっと一人だったンだ。一人で平気なふりしてたンだ。でも、」

そこで一度口を噤む。
名前の傍は温かいから。
怖がらず傍にいて、癒してくれるから。
居心地が良いのだ、名前の隣は。
もう一人に戻れない。
ぎゅう、と抱き締める力を強める。
どうか許してほしい。自分が傍にいることを。

「もォ一人じゃ生きていけねェ」

怖ェンだよ。オマエを、いつ失くすかと思うと。




to be continued...
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