chapter3
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── 一方通行のことが好き?
好き。
──家族として?
うん。
──男の人としては?
……わからない。
ただ、たまに男らしさを見せる彼にドキドキしていた。
意識してしまったせいか、変な夢をみて困ったこともあった。
ずっと一緒にいられたらいいのにと思ってた。
だから恋人という変化のある関係にもなりたくなかった。
もし恋人になったら、そして別れたら、彼はきっと出ていくだろう。
それが一番、怖かった。
トモは私にどうしろというのだろう。
一方通行だって私のことは家族として見てる筈なのに。
今日の授業も終わった。
一人きりの教室だが、学校全体で考えると一人ではなかった。
身支度を整えた一方通行のポケットから着信音が鳴った。
着信:布束砥信
ある日教室を訪ねてきたギョロ目の3年。
研究仲間、のようなものなのだろうか。
「なンだ」
『Hello,スポンサーと研究所が決まったの。よかったらこれから行きたいのだけれど』
了解して電話を切ると一方通行は名前にメールを送った。
研究所の下見に行って帰ることを簡潔に伝える内容だ。
しばらくして布束からGDP情報が送られてきた。
一方通行は息を飲む。
「此処は……」
かつて絶対能力進化実験に関わっていた研究所だった。
研究所の下見は終わり、身支度をする。
当然設備に問題はなかった。
必然といえば必然なのかもしれない。
元いた世界で妹達の研究をしていた場所で、妹達の延命のための研究まで行っていたもおかしくはない。
それでも、どうしても引っかかりを覚えてしまう。
何故またこの場所に来てしまったのか。
どうにも嫌な予感が拭えないのだった。
布束はまだ研究所に残るという。
一方通行は一人研究所を出て、道路に出たところで気が付いた。
今日は3月13日。
一方通行の記憶のみにある1年前、名前が車に轢かれた日だった。
「……っ!」
ぞくり、と鳥肌が走る。
早く帰ろう。
早く帰って、名前の無事を確認したい。
生きている限り死は隣合わせだ。
名前を失う可能性が消えることはない。
だが――
この世界の名前は前の世界の彼女と同じ部屋に住んでいた。
家具の配置もほぼ同じ。
「ズレ」は名前が部屋の鍵を落としたこと、そして実験のタイミング――
――あの日、一度だけ目を開け力なく笑う名前が浮かんだ。
一方通行は顔を上げた。
前の世界とはタイミングがズレているだけで、あの日の出来事が再び起こるのではないか?
あの日と同じ日付の今日、また彼女が命を落とすのではないか?
普段の彼女が此処に来る機会はない。
だが今日、一方通行が研究所を訪れたことできっかけができた。
「…………っ!」
気が付くと一方通行は研究所を出ていた。
目の前の道に人気はない。
嫌な予感は、思い過ごしだったのだろうか?
彼は道路を渡り、公園を目指した。
自販機の影、一人の少女が座っていた。名前だ。
此処に、来ていた。
名前がこちらに気づき笑顔を見せる。
車道では規程速度を越えたトラックが彼女の元へと向かっている。
「……名前!」
一方通行は駆け出す。
3月13日の夕方、彼女は交通事故によって命を落とす運命なのか。
いや、違う。
一方通行とて同じ1年を繰り返したわけではない。
彼女も違う運命を辿るはずだ。
辺りに、耳のつんざくような轟音が響き渡った。
トラックはひしゃげ、辺りに飛び散るガラスが事故の衝撃を語っている。
それでも腕の中の少女の鼓動は感じる。
トラックの運転手は呆然としたままこちらに視線を送っていた。
「名前……?大丈夫か」
頭が真っ白になっているのか、少女からの返事はない。
「怪我ァないか」
「あっ……あ……一方通行……」
名前の身体は震えていた。
震える手で一方通行の頬に触れた。
「あなたは、大丈夫……、なの?」
なぜ名前がこちらの心配をするのだろう。
俺がどうかあるとすればオマエを守れなかった時だというのに。
だから質問で返した。
「オマエは?」
「どこも痛くない。怪我してないよ」
「なら、俺も大丈夫だ」
よかった。
今度は守れた。
まだ二人でいられる。
安堵し、大きく息を吐いた。
腕の中の存在を離したくない。
抱きしめてずっと離したくなかった。
後ろでは布束が騒ぎを聞いて出てきていた。
彼女に短く告げる。
「……布束。悪ィ、今日は帰るから、後は任せる」
「Oh well,わかったわ」
マンションに付き、ドアを閉めた瞬間、一方通行は崩れるように名前を抱きしめた。
腕の中の温もり。
見上げる黒い瞳。
聞こえる鼓動。
「……よかった」
絞り出すような声が出た。
守れたのだと、ようやく実感した。
ほっとしたからか視界が歪む。
ぽろぽろと水が零れ落ち、名前の頬へと落ちた。
駄目だ、こんな情けない顔見せられない。
名前の華奢な肩に顔を埋めた。
涙は彼女の服を濡らしていく。
「ごめんね。心配かけたね」
「うン」
「守ってくれて、ありがとうね」
「……ン。なンで、あの場所にきたンだよ」
「私、一方通行と待ち合わせるの好きなんだよ」
「は……?あァ、それ。前にも言ってたなァ……」
『もォ家で待ってりゃイイじゃねェか』
『んー、外で待ってるのもいいもんだよ』
外で一方通行を待ち、身体を冷やした彼女とのやり取りだった。
顔を上げる。
あの時の名前と何一つ変わらない彼女がいた。
「まァ、オマエだもンな」
「前?」
「……1年前」
「もしかして、私がしんだのって……」
「あァ、あの場所だ」
それを聞いて名前の血の気が引いた。
「ごめんなさい」
「教えなかったのは俺だ。今度は無事だったから、イイ」
「でも離してくれないじゃない。それにあなた、さっきから、ずっと……震えてる」
震えはまだ治まっていなかったらしい。
また名前を失うところだったのだ。
まぁ当然か、と一方通行は息を吐いた。
名前は、人はやはり脆い存在だ。
二度と失いたくはない。
けれどいつか失くす日は来る筈で、その時後悔のないようにしたいと願う。
だから、胸にしまった感情を打ち明けようと思った。
言わず失うくらいならば、言っておきたいと。
「オマエには大事な人間が沢山いるンだろォな。
でも俺は違ェ。名前しかいねェンだ。オマエの存在は、名前が思っている以上に、重い」
ただ一人の人間で支えているそれは、一人失えば崩れてしまう。
「なァ、名前」
「うん」
「いっしょに死のう」
ピクリ、と名前の身体が震えた。
その身体を抱きしめながら続ける。
「一人になるくらいなら、俺は……オマエと一緒に死にたい。それなら何も怖くない」
「ごめんね、一方通行。その気持ち、わかるよ」
名前は俺の髪を優しく撫でた。
その心地よい感触に目を細める。
「わかるけど、私は家族を裏切ることはできない」
「……オマエには、俺だけじゃねェモンな」
わかっていた。
予想していた答えだった。
それでも寂しくて名前の肩に顔を埋めた。
「あなたにはまだ、私しかいないかもしれないけど……妹達を助けるんでしょ」
「……だな」
「私と違ってね、あなたは沢山の人を救う力があるじゃない。勿体ないよ。沢山の人を助けたら、多くの人から望まれるようになるよ」
「…………ン。ありがとな」
少し身体を離して名前の顔を見た。
彼女の目には涙が浮かんでいた。
これは、俺が泣かせたのだろうか。
その涙を指で拭いつつ告げる。
「オマエがそォ言うのは、わかってたから。気にすンじゃねェ。俺自身どの程度本気で言ってるかわからねェンだから」
「ごめんなさい」
「謝るな。ンで、それを踏まえてもォひとつ。言いたいことがあンだ」
「もうひとつ?」
「あァ、こっからが、本題だ……俺と、一緒に生きて欲しい」
名前は目を丸くしている。
それがどういう意味か、考えるように。
「あのな、名前」
腕が、声が震えた。
言葉にするのを遮るかのように咽喉が干上がる。
でも、ずっと言いたかったのだ。
「すきだ」
to be continued...