chapter3
夢小説設定
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吐く息も白い早朝、名前は学校へ向かうべくホテルを出た。
舗装された道路を歩きながら、彼女はそっと溜息を吐く。
現在、この少女には小さな悩みがあった。
それは部屋を分けるようになって、一方通行の視線が気になるというもの。
おやすみ、を言うと捨てられた犬や猫のような顔でこちらを見るのだ。
名前は一方通行が訪れてから彼の家族であろうとした。
家族になれた、つもりだった。
一方通行はそうかもしれないが、名前は違った。
一方通行とまるで恋仲であるような夢を見るのだ。
それをきっかけとして一方通行を意識してしまうようになってしまった。
今まではダイニングが狭いのもあり、ベッドの隣で寝させていた。
しかし名前はそれを近すぎると感じた。
今回の引っ越しはいい機会だ。
それぞれ個室で寝るようにして適切な距離に戻そうと思っていた。
これでいい、と名前は思うのだが――一方通行は違うようだ。
――今更、なのかなぁ。
新居で眠るのは今日からだ。
しばらくして慣れてくれれば、と思うのだが。
登校するのは1日ぶりだが、ここ2日間の内容が濃いせいで久しぶりなような気がしていた。
教室に入るとトモの姿はすぐ見つかる。
彼女は数人のクラスメイトと話していたようだ。
声をかけるとクラスメイトも一昨日ぶりだね、と返してきた。
トモも相変わらずの様子だ。
「昨日はどうかした?風邪?」
担任は事情を話していなかったらしい。
引っ越しをしている為、完全に伏せることはできなそうだ。
名前は簡単に事情を説明した。
「で、今引っ越ししてるとこ」
「大丈夫?ほんとに怪我なかったの?」
名前の話にトモは驚き、心配の言葉を掛けた。
傍にいたクラスメイトは絶句している。
「うん、一方通行が助けてくれたから」
「そう……物騒だね、この街は」
「……うん、トモも気をつけてね。マコちんも」
急に話をふられたクラスメイトは動揺した様子で答えた。
「う、うん……怖いね」
アク……なんとかってなんだっけ……?という声も聞こえたが、知らないふりをしておいた。
先程のは失言だった。
一方、トモは眉間に皺を寄せている。
「んー、遅くなったら極力誰かに送って貰おうかな。新しいアパートは近いの?」
「うん、今までと変わんないくらい」
「そのうち遊びに行っていい?」
「いいけど、うちの一方通行苛めないでね」
「ええ?弄りはしたけど苛めてないよ?」
「どっちでもいいけどほどほどにね」
とぼけた顔で言うトモに苦笑しながら返す。
そこでチャイムが鳴った。
席に着き、また日常に戻ったのだと実感した。
学校を出て、名前は後悔した。
今日は薄手のジャケットで学校に来てしまったが、しまった。
厚手のコートが要ったかもしれない。
夕方の冷え込みが身体に突き刺さる。
名前は足早に以前のアパートの方へと歩き――引っ越したことを思い出して歩みを変えた。
引っ越しても学校からの距離はアパートの頃とさほど変わらない。
かじかむ指で暗唱番号を押し、マンションのエントランスに入る。
ファミリー向けの部屋も多いこのマンションは学生向けのものと比べ豪奢な造りとなっている。
そんなエントランスに少し場違いな気分に駆られながら名前はエレベーターに乗り込んだ。
部屋のある階数で降りると、白い背中が見えた。
ちょうど一方通行も外へ出ていたらしい。
手にはビニール袋が下がっている。
寒さで震える声で声を掛けた。
「たたたただいま」
「ンァ?今帰りだったか。おかえり」
「さささささぶい」
「……その格好じゃ、寒ィだろォな」
一方通行は白いダウンジャケットを来ていた。
能力のある一方通行ですら暖かい格好をしているのに私ときたら。
ここまで我慢して帰って来た自分を褒め称えたい気分だ。
部屋のドアを開け二人して玄関に入る。
靴を脱ごうとしていると肩にジャケットが掛けられた。
そして前からぎゅっと抱きしめられる。
心臓が止まったような気がした。
「あったかいか?」
「…………ハイ」
「ン」
静寂に心音、それから冷たい息を吐く音が聞こえていた。
胸が締め付けられるような思いに名前は目を瞑った。
衣の擦れる音がし、抱きしめる腕の力が強まる。
「……どうしたの?」
「……別に。温まったか?」
「お陰様で」
それを聞くと一方通行はそっと名前を離した。
すぐに見えなくなったが、名前は彼の瞳がわずかに揺れたのを見た。
新しい居間にはテーブルと椅子が置かれている。
まだまだ家具が揃っておらず、殺風景だった。
一方通行はリモコンを手に取り暖房を点けた。
「ベッド届いたから部屋置いといたぞ。ソファは明日だな」
「あ、そうだ。留守番ありがとうね」
「ン。今日からここで住めるな」
「これから住みやすく作っていかなきゃねー。ちょっと部屋見てくる」
「おォ」
名前は自室になる予定の部屋に入り、ドアを閉めた。
一方通行の言葉通りそこには一台のベッドが置かれている。
名前は一つ息を吐いた。
先程の抱擁を思い出す。
胸元に手を当てると、そこはまだ騒がしく鼓動が響いていた。
to be continued...