chapter3
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復学した長点上機学園への登校も二日目となる。
暖房の効いた教室、午前の授業を終えた一方通行は机に突っ伏した。
慣れない学校生活で眠い、というのもあるのだが、理由は他にあった。
朝から疲れたため、余計に体力を持って行かれた気がする。
「……あン?」
学校へ行くためいつもより早い起床となった一方通行は、手に握っていたものに疑問符を浮かべた。
眠る前に握っていたのは名前の手だというのに、起きた時には缶コーヒーになっていた。
名前が缶コーヒーになった……などとは勿論考えず、おそらく目を覚ました彼女は自分のベッドへ戻ったのだろうと検討をつけた。
その際に何かあったのかもしれない。
それならば名前に聞いてみるか。
とりあえず一方通行は部屋を出ることにした。
居間へ行くと名前は朝食を食べているところだった。
どうやら卵焼きに失敗し、スクランブルエッグとなったものを口に運んでいる。
おはよう、と彼女が言うので一方通行も返事をしておく。
そしてこちらから切り出す前に、一方通行の手に握られたコーヒーに気付いたようだった。
「昨日どんな夢見てたの?」
「なンだいきなり。覚えてねェよ」
「昨日私が起きた時ね、あなたが寝言で『好きなんだ、返してくれ』って言うからドキッとしちゃったよ」
自分すら覚えてない寝言の内容に、一方通行は電撃が打たれたような衝撃を受けた。
まさか覚悟のできてないうちに告白をしてしまったのだと思った。
だが――
「で、その後に続いたのが『コーヒー』でね。拍子抜け!」
「…………あ、あァ……それでコレか。余計なことしやがって」
「でもなかなか腕離してくれないからさ、そんなにコーヒーを離したくないのかって罪悪感沸いちゃって」
「そこはほっとけよ……」
よかった。好きだと言ったのがコーヒーで本当によかった。
一方通行は突っ伏したまま伸びをして起き上がる。
こうした状態で少し経ったが布束が来る様子もない。
腹も減ったし、そろそろ弁当を食べることにする。
鞄から弁当箱を取り出し蓋を開くと、彼は再び突っ伏したい気分になった。
本日はクマだった。
それはカニさんウインナーに飾り切りの人参やハムで彩った、ある意味で豪華と言える弁当だ。
人が来ても平気なよう、早く崩してしまうか、と彼は箸を取る。
しかし、そこでタイミング悪く携帯の振動音が鳴った。
舌打ちをして鞄から携帯を取り出す。着信だった。
「……なンだ」
『こちら一方通行様のお電話でお間違いないでしょうか』
「あァ、早くしろ」
『では、実験の依頼なんですが』
「絶対能力進化実験だろ」
一方通行が先回りをして答えると電話の男は息を飲んだ。
「お断りだ。オマエらが何と言おうと……」
そう言ったところで教室の扉が開いた。布束だ。
なんとタイミングが悪いのだろう。
弁当を出しっぱなしだが、通話中の片手間でしまえそうにはない。
一方通行は意識を電話に戻し、怒鳴りつけた。
「オマエらが何と言おうと実験は受けねェぞ!」
通話ボタンを切る。
弁当をしまうには間に合わず、布束は興味深そうに彼の机を覗きこんでいた。
「It is strange...随分凝ったお弁当ね。貴方が作ったの?」
「マジでそォ思うか?」
「No,恋人?」
「違ェ。同居人だよ……ったく、凝るなっつったのによォ」
「好かれてるのね」
「そォ思うか?」
「At least,愛情がないとやってられないと思うわ」
雰囲気が和らいだのを感じて、布束はクスリと小さな笑みをこぼした。
「あなたのイメージが変わったわ。もっと、尖った人かと思っていたけれど」
「フン……オマエも笑わねェ奴だと思ってたよ」
「……」
一方通行はマンションのエレベーターに乗り込み、布束のやり取りを反芻した。
『で、今日はなンの用だ』
『At once,研究所のスポンサーが決まりそうだったから、念のためにお知らせに来たわ』
『へェ、昨日の今日で?早ェじゃねェか』
『All right,ちょっとコネがあったのよ』
この調子だと、研究所を確保する日も近いかもしれない。
そうしたら学校へ毎日通うのも難しいだろう。
通い始めて早々だが、特別処置を取らせることも視野に入れなければ。
と、そこでエレベーターが借りている部屋の階数へと着いた。
名前はもう帰っているだろうか。
部屋のドアを開けるといい匂いが漂っていた。
食欲をそそるこれは、カレーの匂いだ。
「ただいま」
「おかえりー」
『ただいま』と言えば『おかえり』が返ってくる。
かすかな笑みと共に待っていてくれるそれが嬉しくて、学校へ行くのも悪くない気分になる。
一方通行は頬が緩んだのに気づかぬまま靴を脱いだ。
キッチンを通り過ぎるところで、見慣れないものが目に入る。
「名前、それ」
「へへ、気づいた?コーヒーメーカー買っちゃった」
「なンでまた急に」
「ドリップで飲むと全然違うって聞くからね……飲むでしょ?」
「あ、あァ。豆はあンのか?」
「ぬかりないよー、挽いて貰ってきた」
一方通行は荷物を置くため一旦自室に戻る。
机に無造作に鞄を放ったかと思うと、ベッドに座り頭を抱えた。
キッチンに置かれたコーヒーメーカー。
俺のために買ってきてくれたのかと思うと……。
「……クソ、自惚れちまう」
期待したらしただけ、駄目だった時が怖いのに。
夕食後、居間には香ばしい香りが漂っていた。
一方通行はブラック、名前は砂糖とミルクを加えて口に含む。
「……旨ェ。缶コーヒーとは違ェな」
「ふふ、よかった。豆はね、店員さんのオススメで選んだんだけど……どう?」
「ン……俺の好みだ」
よかった、と名前は笑った。
そのほっとした顔に癒されていると、ふと昨日のやり取りを思い出した。
トモから二人でコーヒー屋にいたと聞いたのだが、今日は言えないとはぐらかされていたのだった。
「昨日上条とコーヒー屋にいたってェのは、コレか」
「そ、上条くんに相談してたの。あなたに秘密で買いたかったから」
「だから昨日言えなかったンだな」
「そういうこと。ほんとは前から欲しかったんだけどね」
「前から?」
「引っ越す前だよ。台所の収納スペースがギリギリだったから、我慢してたの」
「そォ、か」
1年前、名前は紅茶党だったことを思い出す。
だが最近はコーヒーを飲むことも増えてきた。
自分の好みに合わせてくれているのだと思っても、いいのだろうか。
だとすると、
――俺は、名前のために何ができるだろォか。
to be continued...