chapter3
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予鈴が鳴った。
教師が教室を出て行ったのを見て一方通行は頬杖をつき溜息を吐く。
彼は一人、教室に居た。
長点上機学園。学園都市内において5本指に入る名門校。
彼はそこに復学したのだ。
先程の予鈴は昼休み開始の合図だった。
学生たちの喧騒が聞こえてきそうなものだが、そういったものは一切なく教室は静寂に包まれたままだった。
それは「生徒の集中を乱さないように、騒音は入れないし、漏らさない」ようにと各教室が防音使用になっているからである。
一方通行は昼食にしようと鞄を開けたところだった。
だが、ノックと共に引き戸が開いたため、彼は取り出そうとしていた弁当箱を鞄にしまった。
名前による手作り弁当だ。
こういったモノが自分に似合わないのはわかっている為、あまり人には見られたくないのだ。
出入り口に立っているのは見覚えのない少女だった。
肩につかないくらいのウェーブのかかった黒髪にぎょろりとした目が特徴的だ。
一方通行は肩を竦め、予期せぬ来客に訝しげな視線を向けた。
「なンだァ?オマエ」
「Excuse me 私は布束砥信、この学校の3年生。まさか私のIDカードで入れるとは思ってなかったわ」
「入学以来一度も来てねェ生徒が突然来たンだ。まだセキュリティロックが対応してねェンだろ」
「Right, この学校は徹底していると思っていたけれど……」
布束は教室内に入り、一方通行に近付いた。
「あなたが復学すると聞いて来たわ。話があるの」
「勝手を承知で言う。これから依頼があるだろう実験、絶対能力進化計画を受けないで欲しい」
「絶対能力進化計画……」
一方通行には覚えがあった。
名前と出会った、前の世界で依頼された実験だ。
その呟きを布束が疑問と受け取ったらしい、
「Well, 第三位御坂美琴と――」
「クローン・妹達を二万人ぶっ殺すってェヤツだろ?」
一方通行が先回りして答えると、布束は驚いた顔をした。
「なんてこと……もう被検体への依頼は」
「依頼はまだだ。ちょっと先に情報を入手したンだよ」
「そうだったの。なら話は早いわ。実験の依頼をどうするつもり?」
「オマエに頼まれなくても受けるつもりはねェよ。こっちだってンなイカれた実験は願い下げだ。レベル6の称号が得られるとしてもな」
布束は表情の変化は判りづらいが、ほっとしたようだった。
その様子を眺めながら、一方通行は鋭い視線を投げかけた。
「だが、用済みになった妹達はどォなる?」
「Probably, 世界中の研究所に分散させるでしょうね」
「学園都市の技術を売るってェことか」
「……この町に、あの子たちの居場所はないもの」
「…………」
「私たちの勝手で作られた命。残り短くともせめて人間らしい生活をさせてあげられるよう努力するわ」
「……残り、短いだと?」
「Well, 無理に成長速度を早めてしまったからその分、影響はある筈よ」
布束は言葉を濁した。
クローンは国際法で禁じられており症例も少ない。
あくまで予測しかできないのだ。
「もってどれくらいだ?」
「私の専門ではないから言い切れないけれど……10年、かしら」
一方通行は沈黙した。
もし自分に名前がいなかったら。
あの日出会うことなく孤独な日々を過ごしていたなら。
きっとレベル6を欲していたと思う。
まだ誰も到達していないレベル6になったならば、きっと誰かが認めてくれる。
自分を気に留めてくれる、と。
妹達は自分が奪うことになっていたかもしれない命だ。
ここで救ったって罰が当らないだろう。
数日前のトモの言葉を思い出す。
『やりたいこと、見つかるかもよ』
こんなに早く見つかるとは思っていなかった。
「感謝するぜ布束。当分の指標が決まった。妹達の延命だ」
「……?何を言っているの。あなたは妹達とまだ何の関わりもないし、あなたの専攻は……」
「俺を誰だと思ってやがる」
「……!あなた、見かけによらずお人好しなのね」
「そンなンじゃねェよ。丁度目標や趣味を探してたところだったンだ。暇で暇でしょォがなくてなァ」
布束にはそれが照れ隠しとしか思えず、クスリと小さく笑った。
そしてふと思い出したように口を開いた。
「By the way, 言い忘れていたけれど――」
「?」
「――年上には敬語」
手刀が降ってきた。
反射すると布束は溜息を吐いた。
「……残念ね」
「俺の能力くらい知ってンだろ?」
「物は試しよ」
手刀は軽い力だったのだろう。
反射されることは予想していたらしく、痛みに手をさする素振りもなかった。
「for the time being、今日は失礼するわ。まずは実験依頼を断ることからね、彼らはしつこいでしょうから」
そう言って布束は教室を出た。
教室に静寂が戻る。
なんとなく時計を見ると昼休みが残り15分になっていた。
「……弁当、食うか」
鞄から弁当箱を取りだした。
思えば弁当を作って貰うのはこれが初めてか。
蓋を開けると、思いのほか、可愛らしく作ってくれたようだ。
「……凝りやがって」
ご飯はうさぎの形、ウインナーはタコの形になり、ハムで作られたハートも散っている。
(もっともこれは位置がずれてしまったようで、正しくはどこに配置されていたかわからない)
布束に見られる前に直して正解だった。
一口食べる。当然冷めてはいるが美味しい。
肉をおかずにうさぎの形を崩していく。
どうせ食べて無くなってしまうというのに、どうして凝りたがるのか疑問だ。
名前が作る普段の弁当はこういった凝り方はしていなかったことを思い出す。
誰かのために作るから、かだろうか。
尽くされている、愛されている、と感じてしまう。
胸の奥が温かくなったような気がする。
――クソ、期待しちまうだろォが。
to be continued...