chapter 2
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額に冷却シートを貼り、喉スプレー、薬瓶、スポーツドリンクをテーブルに置く。
熱っぽい息を吐く同居人を見やり溜め息をついた。
雨は昨晩から続いている。
雨音に囲まれた部屋にピピ、と電子音が響く。
同居人は眠っているようだ。
電子音に何のリアクションも示さず、ただ目を閉じ汗をかいていた。
仕方ない。
少しはだけさせた胸元から体温計を取り出す。
示す数字は38度を越えていた。
「……」
原因は昨日身体を冷やしたことだろう。
机に並べた物たちが入っていた救急箱を思い出す。
一人暮らしにしては充実した救急箱であった。
それに一年前彼女と会った時、そして今も冷蔵庫にはゼリーとスポーツドリンクが常備されている。
本来彼女は体調を崩しやすいのかもしれない。
朝、顔を洗いに行った名前は足元がふらつくことに気づいた。
体温計を脇に差し込み熱を測ると微熱がある。
ベッドに戻るところで傍で寝ていた一方通行を蹴飛ばしてしまった。
「………オイ」
「ごめん」
衝撃で目を覚ました一方通行が見たのは力なくベッドに身を落とした名前だった。
そして今に至る。
「……一方通行?」
熱で掠れた声で呼ばれる。
名前が起きたのだ。
「寝てろ」
「ん……ありがとう」
それは額に貼られた冷却シートに対してなのか。
それとも机に用意された品々に対してなのか。
彼女は礼を言い再び眠りに落ちていった。
――何もしてないっつの。
腹が減った。
もうすぐ昼時になる。
名前と会った日に食べた雑炊を用意できればよかったのだが、生憎と自分は料理をしたことがない。
コンビニならば粥くらいあるだろう。
一方通行は買い出しに出ることにした。
粥と自分の昼食を選び、ついでにコーヒーも見てみる。
先に飲料水コーナーにいたツンツン頭が声を漏らした。
「あ、」
「?」
――ツンツン頭……どっかで見たことあるよォな。
「いつかのコーヒーを譲って下さった人!」
「……おォ」
「銘柄変えたんだな」
「まァ、飽きたからな」
ツンツン頭はよく俺を覚えていたなと思う。
自分の珍しい容姿に起因するのかもしれない。
一方通行は相手の言うことに適当に返答しつつ、ある提案が脳裏に浮かんだ。
「なァ。オマエ雑炊作れるか」
「まぁ、自炊でやりくりしてるからな」
「同居人が体調崩してンだよ。オマエ作ってくれねェか?何か奢るからよォ」
「そういうことだったらいいぜ。何かって……なんでもいいでせうか?!」
ツンツン頭の食い付きのよさに戸惑いつつも首肯した。
「米!米!でお願いします!」
「……米ェ?」
「死活問題なんです!」
――まァ、材料費の代わりと思うか。
ここまで必死に言われてしまっては流されるしかなかった。
「ただいまー」
「……」
「おかえりなさいなんだよとうま。って、また女の子連れてきて……!」
部屋にいたのは銀髪の真っ白いシスターだった。
上条の同居人は線の細さから自分を女だと思ったらしい。
頬をひくつかせるも彼女に悪気はないことはわかっている。
「よく見たら男の子だったんだよ。ごめんなさいなんだよ白いひと」
「あァ。全くだ」
そんな銀髪シスターに対し上条が俺を紹介した。
「こいつは一方通行。同居人が風邪ひいてるから雑炊作ってやりてぇんだとよ」
「こっちはインデックス。居候だ」
「一方通行、変わった名前かも」
「オマエには言われたくねェがな」
上条は買った食材をてきぱきと冷蔵庫に直していき、料理の準備を始めた。
「じゃあ一方通行。これ切ってくれよ」
まな板の上にあったのは洗い終わったネギ。
「あァ?俺はオマエに作れって言ったンだぜ」
「お前はわかってない、多少出来映えが悪かろうと不器用な奴が頑張って作った料理にこそ価値があるんだろ。
それにお前は料理を作ったことがないんだろ?
寝込んでるっていう同居人はお前がご飯作ってくれる日を待ってたんじゃねぇのかよ!
待ち焦がれてたんじゃねぇのかよ!
いい加減に始めようぜ一方通行!」
「オマ……米買ってやったのは誰だと……」
一方通行の額に青筋が浮かび上がる。
上条は力強く言った。
「サポートはする。同居人絶対喜ぶぜ」
「……くっ…」
結局は一方通行が折れることとなった。
なんだか騙された。
そんな気がする。
今までしたことのなかった料理だが、案ずるより産むが易し。
いざ調理してみれば何ともなかった。
――これ、案外と簡単なンだな。面倒ではあるけどよ。
上条は雑炊の調味料の分量、そしてうどんの作り方を書いたメモをくれた。
これくらいであれば一人でも作れるだろう。
説教は面倒臭いがイイ奴なのだと思う。
タッパに入れて持ち帰ったそれを温め、器に移し替える。
「起きたか?」
「うん。今お昼?」
「食欲はどォだよ」
「んー、食べれそう」
「ほら」
器を差し出す。
名前は寝起きらしくとろん、としていたが、差し出された器を見て目を丸くした。
「これ、あなたが作ったの?」
「おォ」
「料理できたの?」
名前の追及から逃れるように目をそらす。
「いや……さっき習ってきた」
「わたしのために……?」
歯切れ悪く告げる一方通行に対し、名前が器を見る目はキラキラと輝いていた。
予想以上のリアクションに頬が熱くなってくる。
「……冷めちまう前に食えよ」
「そうだね、いただきます」
名前は器をスプーンでゆっくり混ぜてみる。
ねぎ、卵、生姜。
恐らく一方通行はただの雑炊でなく、病人のための雑炊を習ってきたのだろうと想像を巡らす。
ぶっきらぼうな、あの一方通行が。
嬉しさに口元を緩ませた。
ふう、と息をかけて冷ましたものを口へと運ぶ。
「おいしい。おいしいよ、一方通行」
名前が嬉しそうに感想を言う。
「そォか」
「うん、おいしい」
名前はもう十分だとばかりにおいしいを連呼する。
自分が人の笑顔を引き出すことができるなら、料理も悪かねェなと思った。
To be continued...