chapter 2
夢小説設定
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土曜日の朝、一方通行は早めに目が覚めた。
時計は9時過ぎを指しているが、名前はまだ眠っている。
一方通行はあまり名前の寝顔を見たことがない。
彼女は学校が休みだろうとこの時間頃には起きているからだ。
彼はもの珍しさに名前の寝顔を注視した。
無防備で、純心な寝顔。
この少女をずっと守りたいと思った。
そして隣に寄り添っていたいと思った。
どうしたらもっと、近づけるだろうか。
今の生活に何の不満もないのに、もっと近づきたいと思い始めていた。
「……」
丸い額にそっと唇を落とす。
名前の瞼は閉じられたまま、微かな寝息が聞こえる。
己のしたことに我に返り頭をガシガシと掻いた。
「……何してンだろな。俺ァ」
名前が心配しないよう、適当な紙に行き先を書き置きしておく。
場所と、すぐに帰るであろうことも。
財布と鍵を尻ポケットに突っ込み、簡単に身支度を済ませる。
そして名前を起こさないようにそっと部屋を出た。
向かう先は研究所だ。
例の実験の協力依頼のカタを付けなければならない。
季節は春へと移り変わろうとしていた。
しかしまだまだ肌寒く、薄手のジャケットに顔をうずめる。
そこで今日の日付を思い出す。
名前に出会って明日で丁度一年だ。
何か彼女のためにしてやれることはないだろうか。
思索に耽りながら研究所へと辿り着いた。
応接室へ通されると、向かいのソファには先日の所長が腰掛けていた。
まだ諦めていなかった所長に、足を組みながら睥睨する。
所長は特に怯む様子もなく肩を竦めた。
「いい加減にしてくれねェかなァ。オマエらがスポンサーじゃなけりゃもォ吹き飛ばしちまってンだけど」
「いいのかね?君はチャンスを失うことになる。絶対能力は君の生活に変化を齎すかも……」
「何が言いてェ」
可能性を無くすと言われるとこれで良いのか不安になる。
一方通行は思索に沈潜した。
自分を認めてくれる人がいる。
これ以上良い変化があるのだろうか。
名前を今より惹きつけられるだろうか。
孤独に怯えず済むだろうか。
そこの人物は胡散臭いが、話だけなら聞いてやっても良い気がしてきた。
「実験内容だけなら聞いてやる」
大量の培養器の並ぶ空間に通され、一方通行は顔をしかめた。
液体に浮かぶ人間はどれも似た造形をしている。
実験方法はレベル5第三位である御坂美琴と2万通りの戦闘をすることだった。
しかし御坂美琴は一人しかいない。
その為の対応策がクローンだった。
国際法で禁じられているクローンを大量生産など、この研究者はどれほど逸脱した存在なのだろう。
非合法な実験に協力するなど、光の道を歩く名前に顔向けできない。
研究所生活で既に堕ちた身だが、これ以上闇に手を染めたくはなかった。
名前と同じ道を行くためにも。
「ま、絶対能力って時点でそンな気もしてたけどよォ、オマエらイカれてやがる。却下だ却下。金輪際俺に話しかけンじゃねェ」
「待っ……」
引き留めようとするSPを反射し、一人エレベーターに乗り込んだ。
胸糞悪ィ。
結局、俺もアイツらクローンも実験動物か。
1階に着くと芳川が書類に目を通していた。
「あら、もう帰り?」
「おォ」
適当に返事を返す。
遠くから救急車のサイレンが聞こえた。
それは研究所に近づいてくる。
胸騒ぎがする。
「……近いわね」
「……」
そして、研究所のすぐ近くでサイレンは止まった。
一方通行は外へ走り出た。
公園の前に人だかりができている。
停めてあるワンボックスカーの前で男が事情聴取を受けていた。
交通事故があったようだった。
野次馬を押し退け、横たわる人物を確認する。
自分の心臓が止まったような気がした。
「名前……っ」
名前だった。
頭部の外傷は額をすりむいている程度だったが、動かない。
彼女は救急隊員に担架に乗せられたところだった。
隊員の制止を振り切って手を握る。
名前が僅かに目を開いた。
「名前……」
彼女は何か言ったかと思うと口元を緩ませた。
そして、再び目を閉じた。
瞼は動かない。
ハッとして触れた手から生体電流を把握し、情報を読み取ろうと試みる。
──内臓破裂、か。
ベクトル操作で止血をしながら同時に血液の循環を試みる。
これだけですでに複雑な演算となっており、額を脂汗が伝った。
名前の様子からして既に大量の血を失っていることが見てとれた。
既に自分にできることが多くはないことがわかる。
どォすればイイ?
どォすれば、名前を助けることができる?
血圧が下がり血の気が引いていく彼女を見ながら、縋るように声をかけた。
「名前、起きろ。なァ」
そうこうしている内に名前が救急車へと運ばれていく。
隊員の一人が聞いた。
「知り合いの方ですか?」
「あぁ」
頷き、自分も車内へと入った。
隊員の処置をながら、先ほど能力を使用した時を思い出す。
絶望的な状況を悟っていた。
自分ではどうすることもできない状況に、気が付けば何者かに願っていた。
ただ名前を生かしてくれと。
他に何も望まないからと。
それから、名前が目を覚ますことはなかった。
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