chapter 2
夢小説設定
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「絶対能力進化実験?」
「そう、『樹形図の設計者』お墨付き実験だ」
スーツの中年は誇らしげに頷いた。
それは未だ誰も到達していないレベル6になる為の実験なのだとという。
最近研究所に呼び出されることが多いと思ったらこういうことか。
一方通行は舌打ちをした。
「お利口さンの順位付けにゃ興味ねェよ」
「君は現状に満足していると?実験に参加しなければ君も、取り巻く環境もずっとそのままだが?」
「あァ、何の不満もねェ」
「……」
「所長、」
絶句した所長に助手らしき人物が耳打ちした。
こちらに聞かせたくない内容なのだろうか。
胸糞悪ィ。
所長は妙に納得したような表情を浮かべた。
「では今日のところはそういうこととしておこう」
「次があンのかよ……何度言われたって変わンねっつの」
研究所を出ると名前と待ち合わせた公園に向かった。
名前はベンチでココアを飲んでいた。
吐く息は白く、もうコートが手放せない季節になっていた。
外で待つくらいなら家で待っていればいいものを。
「よォ。待たせたな」
「ううん。帰ろっか」
「ぉー」
やり取りもそこそこに、アパートへと続く道を歩き出した。
ふと、名前の手袋をしていない手が寒そうに見えた。
どうしてもそれが気になり、手を取る。
「わ、あったかいね」
そう言って名前は嬉しそうに笑った。
冷風にさらされた名前の手は冷たい。
能力によっていくらかの風を防げる分、自分の体温を分けることができたらと思う。
「オマエは冷えたな」
「あー……ココア飲んでたんだけど、冷えるね」
「もォ家で待ってりゃイイじゃねェか」
「んー、外で待ってるのもいいもんだよ」
「風邪ひいても知らねェぞ」
「一方通行がいる分心強いよ」
「俺をアテにすンな」
「まぁ、気をつけるよ」
葉を落とした街路樹の寒々しい道を行く。
歩きながら実験のことを考えていた。
『取り巻く環境……』
以前ならば、魅力的な実験だったかもしれない。
でも名前に会ってからは――。
名前と目が合う。
嬉しそうに微笑まれた。
――彼女がいるならば、これ以上望む環境などなかった。
名前は良いものを見つけたように声を上げた。
「あ、」
「どォした?」
「今、笑ったね」
「あァ?笑ったとしてなンだよ」
「んー?そうだね。なんでもない」
「はァ?ヘンな奴だな」
「いいよね。あなたが自然に笑うのが当たり前になるの」
「……」
握る手に力が込められた。
もうその手に冷たさはなく、一方通行の体温が移り生ぬるくなっている。
彼女はいつものような優しい温度を取り戻しつつあった。
そォだ、こんな日々がずっと続けばイイ。
それならレベル6もいらない。
これ以上何も望まない。
アパートの重いドアが閉められた。
それは外界との関わりを閉じるように思われた。
手は握られたまま、一つの名前が部屋に響いた。
「×××××」
「……っ」
一瞬、耳を疑った。
何年も前に捨てた筈の、俺の名前だった。
驚いて名前を見ると彼女は控えめに微笑した。
「……な、」
「芳川さんに聞いたの。余計なことだったらごめん。でもあなたの名前を知って、呼びたかった」
名前はうつむきがちに告げた。
沈黙が部屋を包んだ。
口を開く。
聞きたい。
俺の名前を、彼女の声で、また呼んでほしい。
「……もっと、」
「……?」
「もっと、呼んでくれ」
そう言って名前の肩に顔を埋めた。
彼女の腕がゆっくりと背中にまわされる。
温かい、名前の体温がじわりと伝わる。
それは優しく心地よい場所だった。
「×××××」
「…………ン」
名前の声が胸に染み入る。
此処に俺はいるのだと、存在を認められた気がした。
気づかなかったが、ずっと俺は呼ばれたかった。
生まれた時に付けられた、本当の名前を。
「×××××」
「……うン。なァ、名前」
胸が痛くて、でも幸せだった。
「……っ、す…………」
「なぁに?」
「……なんでもねェ」
to be continued...