chapter 2
夢小説設定
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部屋にいた男達は7人。
皆下卑た笑みを浮かべこちらを見ている。
馬鹿にしたような声が響いた。
「第一位サマのご帰宅かぁ?」
ギリ、と歯ぎしりをする。
低く、唸るように一つ訊ねた。
「名前は。女はどォした?」
震える拳をギリ、と握りしめた。
返答次第では生かしておけない、と思った。
スキンヘッドの奴が口を開いた。
「あ?アイツは――アレだよ。倉庫に連れてったよ。今頃ボッコボコにされてンじゃねぇの?運悪けりゃキズモノかぁ?ヒャハッ!残念だったなぁ!お前の大事な女、今頃第一位サマの名前呼んで泣いてるぜ!」
「……良かったな、オマエの寿命が伸びたぜ。倉庫の場所ォ、訊かなきゃいけねェモンなァ」
「ふはっ。教えると思うか?」
「どっちにしろ死体決定なンだよクソ野郎があああああ」
激昂と共に鉄パイプが襲いかかった。
無論、それは反射により男たちの腕を折る結果となる。
痛みに呻くスキンヘッドの胸倉を掴み、引き寄せた。
「吐けよ、その倉庫の場所」
「ひ、……は、馬鹿じゃねぇの。嘘に決まってんだろ?」
「この場合、口が固いってェのは損だぜ」
スキンヘッドの足を軽く蹴り、骨を砕いた。
変なスイッチが入ったらしい。
伝わる嫌な音に口端が吊り上がるのを感じた。
冷静さを失っていくのがわかる。
殺、す。倉庫の場所を聞いたら殺す。
圧倒的な殺意に頭が塗りつぶされていく。
ナマエを、すぐ助けに行かなければいけないのに。
「っがぁああああああ」
骨を砕かれた足の痛みにスキンヘッドが叫び声を上げた。
「言えよ!タコみてェになりたくなけりゃあなァ!」
「し、知らな、ほんとに」
「知らないで済まされると思ってンのかオマエ。誰ェ敵にまわしたかわかってンだろ?」
スキンヘッドは涙と鼻水に濡れ情けない顔を晒していた。
忌々しくなってソイツの顔を床に叩きつける。
「ッぐぅ……」
「言えよ!オラ、女はドコだっつってンだよ!!」
周囲の男たちが後ずさるのがわかった。
助けるも見捨てるも好きにすればいい。
部屋から逃がす気はないが。
その時、暗い部屋に光が差した。
玄関のドアが開かれたのだ。
そこから覗いたのは名前だった。
その背後には名前は知らないが見たことのある女がいる。
「名前!」
「一方通行……?」
名前が連れて行かれたというのは、スキルアウトのハッタリだったようだ。
ドアに向かい金髪が駆け出した。
そしてポケットからサバイバルナイフを取り出し、名前に振り上げた。
「ッハ!人質さえいりゃ……」
「させるかよ」
冷めかけていた怒りが再び沸騰した。
床とトン、と蹴る。
ベクトルを操作することで冷蔵庫をスライドさせた。
轟音、後に衝撃が響き渡る。
「がぁ……う……」
金髪は壁と冷蔵庫の間に挟まっていた。
息はあるが相当の衝撃を受けた筈だ。
その後にいた男たちは後ずさっている。
名前が姿を見せたことで俺は冷静さを取り戻した。
まだ怒りは収まっていないが、名前が見ている。
このクズ共をどォ処分するか。
考えていると廊下が騒がしくなってきた。
ようやく警備員が来たようだ。
名前の後にいた女はアパートの隣人だった。
どうやら名前はスキルアウトが部屋に入る前に、ベランダから隣部屋に逃げていたのだった。
その名前が何故玄関から現れたのかというと。
「警備員が来るまで待った方がいいって言ったのに、同居人が帰ってくるからって聞かなくて」
隣人はそう言って溜息を吐いた。
俺も呆れ返った。
「悪ィ。迷惑かけた」
「ごめんなさい」
二人で謝るが隣人は気にした風もない様子だった。
「いえ、お二人とも無事でなによりです」
冷静にそう返すと再び自分が借りる部屋へと帰って行った。
それを見送ると名前に向き直る。
「怪我ァないンだよな?」
「うん、ありがとう……ちゃんと守ってくれたね」
「ハッ。第一位の心配する奴なンざオマエくらいだよ」
「……あなたの味方って言ったから」
俯き加減に名前は言った。
その顔色が悪いことに、一方通行は先程の暴虐を思い出す。
段々と全身の血の気が引いていくのがわかった。
見られた。
怖がられた。
拒絶されてしまう。
──名前と暮らすのももう潮時か……。
彼は決めた。
元々無理に許容されてた同居だった。
これ以上一緒にいたら名前が傷つく。
「無事でよかった。悪かったな。巻き込んで、ンなトコ見せて。オマエのことはこれからも守るつもりだが、もォ近付かねェから……安心してくれ」
「え……?」
遠くから名前に関わることなく守る。
ひとつ心に留め、背を向けた。
この二人暮らしももう、終わりだ。
でも名前が無事なら。
守るという決意があるなら。
それも悪くないような気もした。
一人でも、耐えられると思った。
そう思い聞かせ、情けない顔にならないよう歯を食いしばった。
そして歩き出した時、悲痛さの滲んだ声が聞こえた。
「置いてかないで!」
足を止めた。
振り返ろうとすると、ふらりと名前が背中にすがってきた。
背中越しに涙声が聞こえた。
「今まで、さっきみたいに戦ってきたの?」
頷く。
此処には第一位の称号がある。
血の気の多い奴らは俺を放っておかない。
スキルアウトだけじゃない、研究者共もだ。
誰がいつ敵にまわるかわかったものじゃない。
俺がいれば名前は危険に晒される。
ねぇ、と名前の声がした。
「引っ越そう。もうこんなことしなくていいように、安全なところに住もう。それで、また一緒にいようよ」
こんな目に遭っても。
まだ、一緒にいたいと思ってくれているのか。
俺を必要としてくれるのか。
背中越しに伝わる温もりに目頭が熱くなる。
閉じた目から一筋、涙が零れた。
振りほどいた方が、名前の為とわかっているのに。
「あァ」
名前の傍にいたい。
ずっと一緒にいたい。
そのエゴが勝ってしまった。
to be continued