chapter 2
夢小説設定
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一年前
今日は筆記テストを受けてほしいだとかで研究所に呼び出されていた。
知能、性格テストに何時間も拘束されるのは苦痛だ。
もっとも幼い頃の待遇とは比べ物にならないくらいマシになったが。
――未だ奴ら、俺をモルモットか何かだと思ってやがる。
研究者から見た自分は実験動物。
能力を振るった馬鹿から見た自分は化物。
関わりのない者から見た自分はレベル5の第一位。
自分を人間として扱うのは名前、苗字も含まれるか。それだけだ。
ふと水滴が鼻を掠めた。
ぽつりぽつり、とアスファルトを濡らすそれは、段々と水溜まりをつくるほどになっていく。
反射で濡れることはない、しかし昼間の暖かさと比べ気温が低くなってきたように感じた。
ドアを開けると玄関に全身がずぶ濡れの名前がいた。
ハンカチで少しでも水分を拭おうとしている濡れ鼠の姿に溜め息を吐く。
「おかえり」
「ン。傘忘れたのか」
ドジ、というニュアンスを含むような言い方に名前は顔をしかめる。
「……。あなたも傘持ってないくせに」
「俺はいンだよ」
「今初めてあなたの力って便利さに気づいたよ」
「地味な使い方だな」
一方通行は玄関に突っ立ったままの名前の横をすり抜けて先に部屋へと上がる。
名前は自分が部屋にあがることで床を濡らすのに躊躇しているのだろう。
棚からタオルを2枚引っ張り出して寄越してやった。
「ありがと」
そう言った名前は早くあがる為にか足元ばかり拭いている。
「早くあがって風呂入ったらどォだ?俺も寒ィ」
風邪をひかれて困るのは自分である。
ろくに看病した覚えがないため大したことはできないのだ。
また濡れ鼠の名前を差し置いてシャワーを浴びるほど自分は薄情ではない。
暗にさっさと入れ、と言ったのが伝わったらしく彼女は大股で浴室へ向かった。
――仕方ねェ。俺が拭いとくか。
「床、ありがとうね」
「あァ」
風呂から上がった名前は上機嫌であった。
彼女は血色のよい頬を緩ませてベッドに座る自分の前に腰を下ろす。
鏡に向かって何か保湿剤の類いを顔に塗り始めた。
艶のある彼女の黒髪を、肩にかかっていたタオルで拭いていく。
丁度目の前にあったのでつい手が出てしまった。
「拭いてくれるの?」
「目の前にあったからなァ」
笑い声を溢しながら名前はこちらを見ようとする。
それを前に押しもどしているとシャンプーの花と果実の匂いが香る。
「ふふ、これ好きだなぁ」
「そォか」
「懐かしいんだよ。お父さんとかお母さんに前してもらったから」
「ほォ」
そういうもんか、親って。
そう思って出た感嘆詞に名前は首を傾げた。
「ほぅ?」
「俺ァ家族を知らねェからよ」
「……そっか。じゃああなたがお風呂からあがったら私もしてあげる!」
「あ?」
「忘れたの?私は一方通行の家族だよ」
振り返って目が合う。
柔和な声色と違い、彼女は真剣な顔をしていた。
風呂から上がり、身体を拭いて衣類を身につけていく。
脱衣所の扉を明けると名前がタオルを手にして待ち構えていた。
「……な、」
タオルを被せられ頭を拭かれていく。
清潔な柔らかいタオルに包まれ心地よい。
しかしされるがままにされていると心が温まるようだった。
今、自分は甘えさせられているのか。
粗方拭き終わった頃、タオル越しに頭を抱かれた。
「……濡れるぞ」
「……平気」
目をつむりながら思う。
彼女の母性に身をゆだねたいと。
しかしこのままでもいられない。
何か言わなければいけない気がした。
このままでいたいと願う気持ちを振り払うために息を吐く。
「どォした」
「あなたが、子どもの時したかったこととか、してあげたくて」
彼女がどんな気持ちで言っているのかはわからない。
同情か、慈愛か、親愛か、それとも、名前のわからない感情であるのか。
彼女の優しさに甘えたい気持ちとプライドがせめぎ合う。
腕を名前の背に回した。
「ありがとォな」
「ううん」
名前の手が頭を撫ぜる。
温かい、柔らかい彼女の手にはどうしても抗えなかった。
To be continued...
今日は筆記テストを受けてほしいだとかで研究所に呼び出されていた。
知能、性格テストに何時間も拘束されるのは苦痛だ。
もっとも幼い頃の待遇とは比べ物にならないくらいマシになったが。
――未だ奴ら、俺をモルモットか何かだと思ってやがる。
研究者から見た自分は実験動物。
能力を振るった馬鹿から見た自分は化物。
関わりのない者から見た自分はレベル5の第一位。
自分を人間として扱うのは名前、苗字も含まれるか。それだけだ。
ふと水滴が鼻を掠めた。
ぽつりぽつり、とアスファルトを濡らすそれは、段々と水溜まりをつくるほどになっていく。
反射で濡れることはない、しかし昼間の暖かさと比べ気温が低くなってきたように感じた。
ドアを開けると玄関に全身がずぶ濡れの名前がいた。
ハンカチで少しでも水分を拭おうとしている濡れ鼠の姿に溜め息を吐く。
「おかえり」
「ン。傘忘れたのか」
ドジ、というニュアンスを含むような言い方に名前は顔をしかめる。
「……。あなたも傘持ってないくせに」
「俺はいンだよ」
「今初めてあなたの力って便利さに気づいたよ」
「地味な使い方だな」
一方通行は玄関に突っ立ったままの名前の横をすり抜けて先に部屋へと上がる。
名前は自分が部屋にあがることで床を濡らすのに躊躇しているのだろう。
棚からタオルを2枚引っ張り出して寄越してやった。
「ありがと」
そう言った名前は早くあがる為にか足元ばかり拭いている。
「早くあがって風呂入ったらどォだ?俺も寒ィ」
風邪をひかれて困るのは自分である。
ろくに看病した覚えがないため大したことはできないのだ。
また濡れ鼠の名前を差し置いてシャワーを浴びるほど自分は薄情ではない。
暗にさっさと入れ、と言ったのが伝わったらしく彼女は大股で浴室へ向かった。
――仕方ねェ。俺が拭いとくか。
「床、ありがとうね」
「あァ」
風呂から上がった名前は上機嫌であった。
彼女は血色のよい頬を緩ませてベッドに座る自分の前に腰を下ろす。
鏡に向かって何か保湿剤の類いを顔に塗り始めた。
艶のある彼女の黒髪を、肩にかかっていたタオルで拭いていく。
丁度目の前にあったのでつい手が出てしまった。
「拭いてくれるの?」
「目の前にあったからなァ」
笑い声を溢しながら名前はこちらを見ようとする。
それを前に押しもどしているとシャンプーの花と果実の匂いが香る。
「ふふ、これ好きだなぁ」
「そォか」
「懐かしいんだよ。お父さんとかお母さんに前してもらったから」
「ほォ」
そういうもんか、親って。
そう思って出た感嘆詞に名前は首を傾げた。
「ほぅ?」
「俺ァ家族を知らねェからよ」
「……そっか。じゃああなたがお風呂からあがったら私もしてあげる!」
「あ?」
「忘れたの?私は一方通行の家族だよ」
振り返って目が合う。
柔和な声色と違い、彼女は真剣な顔をしていた。
風呂から上がり、身体を拭いて衣類を身につけていく。
脱衣所の扉を明けると名前がタオルを手にして待ち構えていた。
「……な、」
タオルを被せられ頭を拭かれていく。
清潔な柔らかいタオルに包まれ心地よい。
しかしされるがままにされていると心が温まるようだった。
今、自分は甘えさせられているのか。
粗方拭き終わった頃、タオル越しに頭を抱かれた。
「……濡れるぞ」
「……平気」
目をつむりながら思う。
彼女の母性に身をゆだねたいと。
しかしこのままでもいられない。
何か言わなければいけない気がした。
このままでいたいと願う気持ちを振り払うために息を吐く。
「どォした」
「あなたが、子どもの時したかったこととか、してあげたくて」
彼女がどんな気持ちで言っているのかはわからない。
同情か、慈愛か、親愛か、それとも、名前のわからない感情であるのか。
彼女の優しさに甘えたい気持ちとプライドがせめぎ合う。
腕を名前の背に回した。
「ありがとォな」
「ううん」
名前の手が頭を撫ぜる。
温かい、柔らかい彼女の手にはどうしても抗えなかった。
To be continued...
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