chapter1
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温かな中、目が覚めた。
自分の胸に名前が顔を埋め静かな寝息をたてていた。
自分でこのような体勢を取ったにも関わらず、あまりの近さにびくりと身体が震える。
「……っ」
今までここまで近くにきた人がいただろうか。
近くにいることを許した人がいただろうか。
答えは考えるまでもなく、わかっていた。
今まで自分に向けられた感情といえば敵意と恐怖と打算だけだったのだから。
名前は唯一傍にいた。
我ながらちょろいものだと思う。
たった一日、自分が弱っていた時に傍にいた。
それだけで、一人になれなくなってしまった。
温かくて。
こいつといると氷のようだった心が溶かされていく。ささくれだった気持ちが和らいで、絆されていく。
名前に甘え、ずっと此処にいてもいいのだろうか。
ずっと、此処にいさせてくれるのだろうか。
ずっと、此処にいてくれるのだろうか。
名前がまだ熟睡中であるのをいいことに、彼女の背へと手を回す。
起きない程度に力を込めた。
――家族、か。
自分はずっと受け入れてくれる人が欲しかったのかもしれない。
「一方通行……?」
胸の中で声が聞こえた。
見ると名前が目を擦っている。
「起きたか」
「わーもう日が高いよ」
「だなァ」
「買い物行かなきゃ」
こうもぐうたらしていても、家事はしっかりするのか。
たまにはサボってもいいというのに。
「もォ出前でいいだろ」
「そう?実はこのところ頑張ってたから休んじゃおうかな」
「おォ、休ンじまえ」
「……」
名前は目をそらし黙り込んだ。
何か言うのを迷っているようだった。
「ごめんね」
「何がだ……謝るようなことしたのかよ」
夢の内容を思い出して不安になる。
恐れていたことを切り出されるのではないかと。
告げられたのはそういった最悪の予想ではなかった。
「置いてっちゃったから、不安なんでしょ」
「……」
「大丈夫だよ。帰ってくるからね」
「……かっこ悪ィンだけどよォ。あンま俺をひとりにすンな」
「うん、できるだけ構ってあげるよ」
名前は俺の肩を抱いて頭をわしゃわしゃと撫でた。
いつものように丁寧なものでなく、衝動的な、愛情を示すような撫で方だった。
「俺のこと、嫌わないでくれ」
「大丈夫。私、一方通行が好きだよ」
好き。
それは長いこと自分の中になかった単語。
言われたことのない言葉。
ずっと探していた言葉。
嬉しさが溢れだすようにして、視界を滲ませた。
「あァ……ゥ、」
込み上げるものを隠すように、名前の肩へ顔を埋める。
名前は今度は丁寧に俺の頭を撫でた。
いい子いい子、と優しく囁く声がした。
不快ではない。
母親というもの縁はなかったが、もしいたらこんな感じなのだろうか。
「本当かよ……」
嗚咽で声が震えた。
名前はゆっくり考えながら言葉を紡ぐ。
「本当だよ。一方通行を見てると自分と似た感じがして、放っておけないもん」
名前の言うことはよくわからなかった。
しかしこれだけは言っておく。
素直でない自分の、今の精一杯だった。
「俺も……オマエのこと嫌いじゃねェよ」
「うん。……ありがとうね」
名前の優しい抱擁に目を瞑りたくなる。
ただ言いたいことがもう一つあった。
「……あとよォ」
「ん?」
「俺の部屋、リフォーム終わっても此処にいてイイか……?」
今更だと思ったのか、名前は苦笑した。
「仕方ないなぁ。部屋に帰しちゃったらあなたを一人にしちゃうもんね」
その言葉に安心し、腕を背中に回した。
一人にしないでと言うように。
しばらくこの抱擁に身を委ねた。
To be continued...