chapter1
夢小説設定
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17 +10
早朝、闇が明るみを帯び始めた頃。
肌寒さを感じてぼんやりと目蓋を開いた。
夢うつつの意識で空になった寝台を見、一気に覚醒した。
ナマエがいない。
起き上がってトイレを確認する。
電気は消えており扉を開けても無人だった。
風呂場もまた同じ結果だ。
ナマエが――いない。
ナマエ、が。
一気に内臓が冷えた感覚。
ナマエをまた失うのか。
嫌だ嫌だ考えたくない。
考えたく……。
停止しそうになる思考、がくがくと震える身体、力の抜けていく足。
それを奮い立たせるように、玄関へ駆けた。
――最悪を想像するにはまだ早ェだろ、クソ野郎
靴を履きドアを開け外へ飛び出す。
運動ベクトルを操作し、コンクリートを蹴って風を引き裂いていく。
無人の廊下を進み、階段を飛び降りた。
大事な人を見つけるのは思いの外早く、アパートの入り口まで来たところで見慣れた姿を見た。
見る限り怪我はない。
明るくなった空の下、街灯が彼女を照らしていた。
そのどこか現実離れした姿に一抹の不安を感じながらナマエに近づく。
能力は使わず、歩いて。
「ナマエ!」
大きめの声量で彼女を呼んだ。
その声にやや下向きだった目線が上がり、ナマエがこちらに気づいたようだった。
彼女は少し驚いて困ったような顔をした。
「一方通行……起きちゃったかぁ」
「そォいう問題じゃねェ」
「ごめん。心配かけちゃったね」
「……こンな時間に出歩くこたァねェだろ。町の治安の悪さはオマエも知ってる筈だ」
「……今日は何もなかったから、安心して」
そう言った彼女の目は少し腫れていた。
安心したことにはしたが、今の心配はこの時間に外出した彼女の精神状態だった。
「帰るぞ」
「……うん」
ナマエの手を引っ張って歩く。
いつも温かい彼女の体温は冷えていた。
部屋に戻り、ドアを閉めたところで彼女を抱き締めた。
またこの身体に触れることができた事実に安堵した。
「ごめんね、心配かけちゃったね」
眉をハの字に下げたナマエが頭を撫でてきた。
その言葉にふるふると首を振る。
「違ェよ……心配はしたがそォじゃねェ。そこじゃあねェンだ」
頭に疑問符を浮かべたナマエに告げた。
「一人で泣くほど俺は頼りないのかよ」
ピクリ。
彼女の身体が震えた。
「泣いてたの、ばれてた……?」
「目ェ腫らしてよく言えンなァ」
ナマエの頭をくしゃりと撫でる。
柔らかい猫っ毛が心地よい。
「今すぐじゃなくていい。泣いてた理由、そのうち聞かせろ。俺ばっか助けられてちゃかっこ悪ィしよォ」
「うん」
照れを隠すようにナマエに背を向けた。
「寝直すかァ」
寝室に向かおうと足を進めかけたところで、後ろから声が掛けられる。
「一方通行のこと、頼りにしてるつもりはあるよ」
緊張した声で、言葉は続いた。
彼女は自分を傷つけまいと説明しているのだとわかった。
「でも私甘え下手だし、人に寄りかかれない性質だから。上手く頼れてなかったんだと思う」
「これからはもっと寄りかかっても、いいの?」
彼女の不安げな問いに、当然のように答える。
「当たり前だろ。常にしっかりしてなくていンだよ。たまには家事サボったっていいしよォ」
常日頃思っていたことだった。
自分に気を遣い、壁を作る彼女は見たくない。
見たいのはありのままのナマエの素の姿だった。
「それくらいで俺ァ怒らねェし幻滅もしねェ。ちょっとくらい信頼してくれたってイイだろ」
男心としては寧ろそうしてくれた方が、頼ってくれた方が自分としては嬉しいのだ。
トン、と背中に軽い衝撃がきた。
「ありがとう」
ナマエが自分の背中に顔を埋めるようにして呟いた。
ナマエの背中越しの体温。
控えめながらも甘えた行動。
それがたまらなくいとおしさを感じた。
もう一度抱き締めたいと思った。
それらの衝動を押し止めてできるだけ優しい声音で言う。
「俺のためだ。気にすンな」
to be continued
早朝、闇が明るみを帯び始めた頃。
肌寒さを感じてぼんやりと目蓋を開いた。
夢うつつの意識で空になった寝台を見、一気に覚醒した。
ナマエがいない。
起き上がってトイレを確認する。
電気は消えており扉を開けても無人だった。
風呂場もまた同じ結果だ。
ナマエが――いない。
ナマエ、が。
一気に内臓が冷えた感覚。
ナマエをまた失うのか。
嫌だ嫌だ考えたくない。
考えたく……。
停止しそうになる思考、がくがくと震える身体、力の抜けていく足。
それを奮い立たせるように、玄関へ駆けた。
――最悪を想像するにはまだ早ェだろ、クソ野郎
靴を履きドアを開け外へ飛び出す。
運動ベクトルを操作し、コンクリートを蹴って風を引き裂いていく。
無人の廊下を進み、階段を飛び降りた。
大事な人を見つけるのは思いの外早く、アパートの入り口まで来たところで見慣れた姿を見た。
見る限り怪我はない。
明るくなった空の下、街灯が彼女を照らしていた。
そのどこか現実離れした姿に一抹の不安を感じながらナマエに近づく。
能力は使わず、歩いて。
「ナマエ!」
大きめの声量で彼女を呼んだ。
その声にやや下向きだった目線が上がり、ナマエがこちらに気づいたようだった。
彼女は少し驚いて困ったような顔をした。
「一方通行……起きちゃったかぁ」
「そォいう問題じゃねェ」
「ごめん。心配かけちゃったね」
「……こンな時間に出歩くこたァねェだろ。町の治安の悪さはオマエも知ってる筈だ」
「……今日は何もなかったから、安心して」
そう言った彼女の目は少し腫れていた。
安心したことにはしたが、今の心配はこの時間に外出した彼女の精神状態だった。
「帰るぞ」
「……うん」
ナマエの手を引っ張って歩く。
いつも温かい彼女の体温は冷えていた。
部屋に戻り、ドアを閉めたところで彼女を抱き締めた。
またこの身体に触れることができた事実に安堵した。
「ごめんね、心配かけちゃったね」
眉をハの字に下げたナマエが頭を撫でてきた。
その言葉にふるふると首を振る。
「違ェよ……心配はしたがそォじゃねェ。そこじゃあねェンだ」
頭に疑問符を浮かべたナマエに告げた。
「一人で泣くほど俺は頼りないのかよ」
ピクリ。
彼女の身体が震えた。
「泣いてたの、ばれてた……?」
「目ェ腫らしてよく言えンなァ」
ナマエの頭をくしゃりと撫でる。
柔らかい猫っ毛が心地よい。
「今すぐじゃなくていい。泣いてた理由、そのうち聞かせろ。俺ばっか助けられてちゃかっこ悪ィしよォ」
「うん」
照れを隠すようにナマエに背を向けた。
「寝直すかァ」
寝室に向かおうと足を進めかけたところで、後ろから声が掛けられる。
「一方通行のこと、頼りにしてるつもりはあるよ」
緊張した声で、言葉は続いた。
彼女は自分を傷つけまいと説明しているのだとわかった。
「でも私甘え下手だし、人に寄りかかれない性質だから。上手く頼れてなかったんだと思う」
「これからはもっと寄りかかっても、いいの?」
彼女の不安げな問いに、当然のように答える。
「当たり前だろ。常にしっかりしてなくていンだよ。たまには家事サボったっていいしよォ」
常日頃思っていたことだった。
自分に気を遣い、壁を作る彼女は見たくない。
見たいのはありのままのナマエの素の姿だった。
「それくらいで俺ァ怒らねェし幻滅もしねェ。ちょっとくらい信頼してくれたってイイだろ」
男心としては寧ろそうしてくれた方が、頼ってくれた方が自分としては嬉しいのだ。
トン、と背中に軽い衝撃がきた。
「ありがとう」
ナマエが自分の背中に顔を埋めるようにして呟いた。
ナマエの背中越しの体温。
控えめながらも甘えた行動。
それがたまらなくいとおしさを感じた。
もう一度抱き締めたいと思った。
それらの衝動を押し止めてできるだけ優しい声音で言う。
「俺のためだ。気にすンな」
to be continued