prologue
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翌朝熱はすっかり下がっていた。
「よかった。病院に行かずに済みそうですね」
一方通行としては昨晩を気恥ずかしく思っていたが、何もなかったように振る舞う。
「世話ンなったな」
「いえ、人を家に呼べたのは初めてで嬉しかったですし」
初めて…?
その言葉が少し気にかかったが、薬と一緒に飲み込んだ。
この女には近づきすぎた。
深入りすると自宅に戻ってからが辛くなる。
「じゃあな」
「お大事に」
名前に背を向けたところで、うわずった声が聞こえた。
「あの、良かったらまた来て下さいね」
「……気が向いたらなァ」
後ろ髪引かれる思いを振り払い、ドアを閉めた。
――バタン
冷たい部屋に戻ってきた。
また研究に協力するだけの日々に、戻ってきた。
昼になり、冷凍食品をレンジで温め、咀嚼した。
――不味ィ。
必要な熱量を摂取し、後はただ眠るだけだ。
夕方、しつこいインターホンで目を冷ます。
眠りが浅かったせいか音を反射していなかったのだ。
面倒ではあったが、何かあったのか気にかかって出ると大家だった。
「お忙しいところごめんなさいね、今皆さんが掲示板の貼り紙を見てらっしゃるか確認に今回ってるの。やっぱりご存知ない?来週月曜日から部屋をリフォームするから入居者の方には一旦退去して頂いてるのだけれど。ほら今春休みで里帰りする学生さんも多いじゃない?」
大家はペラペラと喋りを続け、ようやく締めくくった。
「一週間お友達の家に泊まってもらっていいかしら?」
――友達の存在が前提じゃねェか……。
日曜日。
先週訪れた203号室の前に一方通行は佇んでいた。
二度と会わないと思っていた。
自分と親しくすることは名前のためにもならないと思っていた。
しかし――予想外にも大家によって背中を押されてしまった。
一方通行は悩み悩んだ末にインターホンを押した。
頼るのはホテルでもいい筈だ。
でも、一方通行は拒絶しきれなかった。
初めて能力抜きで接してくれた人を。
仲良くしたいと言ってくれた人を。
自分を恐れずに触れてくれた人を。
「はぁい」
「……」
ばつが悪そうな顔で佇む彼に名前は笑いかけた。
「いらっしゃい。待ってたよ」
「敬語じゃあなくなったンだな」
「うん、今日はあなたから遊びにきてくれたから。友達と思ってもいいかなって」
「それなンだがよォ……」
一方通行は事情を話す。
住んでた寮がリフォームをするために部屋から追い出されたことを。
「しばらく…住まわせちゃあくれねェか?」
名前は驚いていた。
先週は成り行き上、一方通行を泊めてしまったが、今日はわけが違う。
彼が頼んでいることは同棲と言って差し支えないことだ。
しかし、このいかにも素直からほど遠いであろう少年が、せっかく自分を頼ってきたのだ。
つい先週持ったばかりの小さな縁、しかし一方通行にとっては大きな縁なのかもしれない。
期待に答えてあげたかった。
「わかった。さっきは友達って言ったけど……家族になろうか」
彼を受け入れるための牽制だった。
間違いを起こさないための。
それが互いのためだと思った。
「俺なンかの身内になっちまっていいンかよ」
「いいのいいの。私がお姉ちゃんかなぁ。お兄ちゃんも憧れるなぁ」
ちょっと背伸びをして一方通行の頭を撫でる。
「どォでもいいケドよ……」
ため息をついた彼は目を細めていた。
To be continued...