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※2話(ー12)の後、もしも一方通行が並行世界に移動することがなかったら。
夢主死んだままなので注意。
その日、一方通行はひとりの少女を失った。
名前。彼女は家族であり、友人であり、彼にとって唯一の大切な人だった。
彼はしばらくの間、アパートのドアの前で立ち尽くしていた。
ドアを開けたら、名前が昨日までと変わらぬ姿で「おかえり」と言って欲しい。
そんな、今までの出来事が嘘であった可能性を捨てたくないのだ。
だからドアを開け、誰もいない部屋に帰ることが怖い。希望を失いたくない。
しかしいつまでも立っているわけにもいかない。
彼は息を吸ってドアを開けた。
「……」
いつもと変わらぬ部屋。
だが案の定、そこに彼女の姿はなかった。
いまにも崩れ落ちたいような気持ちで彼は部屋へ踏み入れた。
「……名前」
呼んでみる。閉まっている扉をすべて開けてみる。
風呂、トイレ、クローゼット、寝室、ベランダ。
やはり彼女の姿はなかった。
本当の彼女はあの白い部屋に置いてきてしまった。
一方通行はゆっくりと名前のベッドに腰を下ろした。
ここで彼女とテレビを見た。体調を崩した夜には不安を取り除いてくれた。
もう、此処なら思い切り泣いて良いと思った。
「ふ……うゥ、ゥあ、あァああああああああ」
子どものように泣いた。
母を失くした子のように。
声なんて枯らしてしまっても構わなかった。
名前、俺はまたひとりになったのか。
どうせひとりになるのなら、人の優しさなど知らないままがよかった。
最初からずっと、知らないままならこれからも生きていけたのに。
枕を手に取る。微かに名前の匂いがした。
名前、名前。どこにいる。
どうしたら帰ってくる。
なにも望まないから、かえってきてくれ。
名前がいるなら、金も力もいらないから。おねがいだ。
家事だってもっと手伝ってやってもいい。いいこでいるから――。
泣き疲れて眠っていたらしい。
目尻の涙の乾いた痕を拭う。
お腹の音が鳴り、胃が空であることを思い出した。
昨日の晩から何も食べていない。
しかしあまり食欲を感じなかった。いや、ものを口にしたくなかった。
大事な人をなくした彼は無気力になっていた。
いっそこのまま何も食べず、名前と同じところに行きたいとさえ思っていた。
自分が死んだ先、どうなるかはわからないが。
死後の世界はないと彼は思っている。
死んだら意識がなくなってそこで終わり。きっとそれが『正解』なのだと。
しかし名前とこれきりで終わりだとは思いたくないのだった。
実に都合が良いと思う。
夜になり、いよいよ腹が空いてきた彼は欲望に負けた。
コーヒーくらいはあるだろう、と冷蔵庫を開ける。
名前の作った夕飯の残りが入っていた。
それは肉じゃがだった。
冷凍庫には凍ったおにぎりが入っていた。
皿に移しかえ電子レンジで温める。
温まるまでの間、顔を覆った。
あァ、俺はどうすればいい。
このまま生きればいいのか死ねばいいのかすら、彼はわからない。
何も食べない、という消極的な自殺を図ろうにも、名前の作った最後の夕食を見つけてしまった。
名前の手料理など、もう二度と食べられないものだ。
無駄にしちゃいけない。
やがて電子音が温め終わったことを知らせた。
椅子に腰かけじゃがいもを口に含んだ。
肉汁がしみ込んでいて旨かった。
瞳を閉じ、一昨日の夕飯のことを思い出す。
『一方通行、明日は研究所なの?』
『あァ。まだちょっとな』
『ふーん。じゃあ帰りにそっちの公園で待っとくね』
『まだ寒ィだろ。無理に待ってなくてイイっつの』
『いいのいいの。あなたを待つの好きなんだよ』
『わっかンねェなァ』
ぽろ、と涙が零れ落ちてきた。
「……名前」
旨かった。名前と食った晩飯。
幸せだった。名前と過ごした一年。
もう一度、チャンスをくれないか。
次はもっとオマエのこと大事にするから。
そう幾度となく願っても誓っても、名前は戻らなかった。
名前と過ごしたこの部屋で過ごすのは虚しい。
翌日の夜、一方通行は荷物をまとめて家を出た。
名前の物はただ一つ、名前の使っていた枕だけ持っていった。
近々、この部屋には名前の家族が来ることだろう。
テーブルには一方通行の連絡先を書いたメモを残しておいた。
会うのは怖いが、この一年のことを話そうとは思う。
オマエらの娘には幸せにしてもらったって。
そしたら彼らは、救われるだろうか。
一方通行の寮は少し埃臭くなっていた。
一年間放置していたのだから当然と言える。
彼は少し眉をしかめ、風の演算を始めた。
窓を開け、風を操り埃を一掃してしまう。
冷蔵庫を開けると中身は空だった。
缶コーヒーのストックくらいはあると思ったのだが。
彼は大きく溜息を吐いてコンビニへと出掛けた。
帰り、カップルの痴話喧嘩の声が聞こえた。
やけに耳触りだった。
俺には喧嘩する相手すらいないというのに。
音も反射してしまうことにする。
寮まで近くなった頃だろうか。
「…………!」
視界の端に小さい子どもがちらつくようになった。
患者衣を来た子どもがついてきているのだ。。
「あァ……?」
「……!……!」
子どもはぱくぱくと口を開けるが何も聞こえない。
音を反射していたことを思い出し、解除する。
途端に元気の良い声が耳に入る。
沈んでいたところに明るく声をかけられ、毒気を抜かれてしまった。
「ねぇねぇ、ほんとに聞こえてないの?ひょっとしてあなた天然さん?ねぇってばー!」
「……なンだよ」
「うぁーいっ、やっと返事が返ってきたーってミサカはミサカはくるくる回ってみる!」
「なンだァ。オマエ」
ミサカと言う少女は言葉の通りくるくる回っている。
呆れた視線を向けながらミサカという固有名詞に何か引っかかりを覚えた。
「あなたはアクセラレータだよね?このミサカは絶対能力進化実験……の最終ロットの打ち止めってミサカはミサカの自己紹介」
「レベル6……オマエ、御坂って、超電磁砲のクローンか」
「いぇす、ざっつらーいっ!」
「その超電磁砲のクローンがなンで此処にいやがる」
「それがね、クレープっていうものが食べてみたくて研究所を抜け出したら迷子になっちゃって。お金ないし踏んだり蹴ったりだってミサカはミサカは泣きついてみる」
「自業自得じゃねェか……で?」
「ひとまずあなたの家に泊めて欲しいなぁーってミサカはミサカはつぶらな瞳で訴えてみたり!」
「オマエ、俺が誰か知ってて言ってンのかァ?」
「勿論。レベル5の第一位、一方通行。もしかしてそれ以外の誰かなの?ってミサカはミサカはまさかの他人の空似!?」
少女は大げさに驚いたジェスチャーをしてみせた。
ハァ、と一方通行は溜息を吐く。
このクローンはどうやら自分が怖くないらしい。
彼の胸の空白が少しだけ、埋まったような気がしていた。
結局クローンの少女・打ち止めは一方通行の部屋までついてきてしまった。
「俺には敵が多い。此処より路上で寝泊りした方が安全かもしれねェぞ」
「それでもお世話になりたいってミサカはミサカは頼みこんでみたり……」
「あァ?」
「誰かと一緒にいたいからって、ミサカはミサカは小さく呟いてみる」
一方通行は沈黙した。
誰かと一緒にいたい。
それは彼も同じで、物心ついた時から長いこと願っていたことだった。
打ち止めはソファに横になった。
まだ幼く背の低い彼女にとってソファは寝床として丁度良い大きさのようだ。
だが、その手には名前の枕が握られている。
「それ……!」
「優しい匂いがするねってミサカはミサカは夢見心地で感想を……ぐう」
「……今日だけだからな」
眠ってしまった少女にタオルケットをかけてやり、一方通行はベッドに横になった。
一体なんなのだ、このガキは。
一方通行はそう思いつつも、少しだけ癒えた悲しみに気が付いた。
And it returns,To their world
夢主死んだままなので注意。
その日、一方通行はひとりの少女を失った。
名前。彼女は家族であり、友人であり、彼にとって唯一の大切な人だった。
彼はしばらくの間、アパートのドアの前で立ち尽くしていた。
ドアを開けたら、名前が昨日までと変わらぬ姿で「おかえり」と言って欲しい。
そんな、今までの出来事が嘘であった可能性を捨てたくないのだ。
だからドアを開け、誰もいない部屋に帰ることが怖い。希望を失いたくない。
しかしいつまでも立っているわけにもいかない。
彼は息を吸ってドアを開けた。
「……」
いつもと変わらぬ部屋。
だが案の定、そこに彼女の姿はなかった。
いまにも崩れ落ちたいような気持ちで彼は部屋へ踏み入れた。
「……名前」
呼んでみる。閉まっている扉をすべて開けてみる。
風呂、トイレ、クローゼット、寝室、ベランダ。
やはり彼女の姿はなかった。
本当の彼女はあの白い部屋に置いてきてしまった。
一方通行はゆっくりと名前のベッドに腰を下ろした。
ここで彼女とテレビを見た。体調を崩した夜には不安を取り除いてくれた。
もう、此処なら思い切り泣いて良いと思った。
「ふ……うゥ、ゥあ、あァああああああああ」
子どものように泣いた。
母を失くした子のように。
声なんて枯らしてしまっても構わなかった。
名前、俺はまたひとりになったのか。
どうせひとりになるのなら、人の優しさなど知らないままがよかった。
最初からずっと、知らないままならこれからも生きていけたのに。
枕を手に取る。微かに名前の匂いがした。
名前、名前。どこにいる。
どうしたら帰ってくる。
なにも望まないから、かえってきてくれ。
名前がいるなら、金も力もいらないから。おねがいだ。
家事だってもっと手伝ってやってもいい。いいこでいるから――。
泣き疲れて眠っていたらしい。
目尻の涙の乾いた痕を拭う。
お腹の音が鳴り、胃が空であることを思い出した。
昨日の晩から何も食べていない。
しかしあまり食欲を感じなかった。いや、ものを口にしたくなかった。
大事な人をなくした彼は無気力になっていた。
いっそこのまま何も食べず、名前と同じところに行きたいとさえ思っていた。
自分が死んだ先、どうなるかはわからないが。
死後の世界はないと彼は思っている。
死んだら意識がなくなってそこで終わり。きっとそれが『正解』なのだと。
しかし名前とこれきりで終わりだとは思いたくないのだった。
実に都合が良いと思う。
夜になり、いよいよ腹が空いてきた彼は欲望に負けた。
コーヒーくらいはあるだろう、と冷蔵庫を開ける。
名前の作った夕飯の残りが入っていた。
それは肉じゃがだった。
冷凍庫には凍ったおにぎりが入っていた。
皿に移しかえ電子レンジで温める。
温まるまでの間、顔を覆った。
あァ、俺はどうすればいい。
このまま生きればいいのか死ねばいいのかすら、彼はわからない。
何も食べない、という消極的な自殺を図ろうにも、名前の作った最後の夕食を見つけてしまった。
名前の手料理など、もう二度と食べられないものだ。
無駄にしちゃいけない。
やがて電子音が温め終わったことを知らせた。
椅子に腰かけじゃがいもを口に含んだ。
肉汁がしみ込んでいて旨かった。
瞳を閉じ、一昨日の夕飯のことを思い出す。
『一方通行、明日は研究所なの?』
『あァ。まだちょっとな』
『ふーん。じゃあ帰りにそっちの公園で待っとくね』
『まだ寒ィだろ。無理に待ってなくてイイっつの』
『いいのいいの。あなたを待つの好きなんだよ』
『わっかンねェなァ』
ぽろ、と涙が零れ落ちてきた。
「……名前」
旨かった。名前と食った晩飯。
幸せだった。名前と過ごした一年。
もう一度、チャンスをくれないか。
次はもっとオマエのこと大事にするから。
そう幾度となく願っても誓っても、名前は戻らなかった。
名前と過ごしたこの部屋で過ごすのは虚しい。
翌日の夜、一方通行は荷物をまとめて家を出た。
名前の物はただ一つ、名前の使っていた枕だけ持っていった。
近々、この部屋には名前の家族が来ることだろう。
テーブルには一方通行の連絡先を書いたメモを残しておいた。
会うのは怖いが、この一年のことを話そうとは思う。
オマエらの娘には幸せにしてもらったって。
そしたら彼らは、救われるだろうか。
一方通行の寮は少し埃臭くなっていた。
一年間放置していたのだから当然と言える。
彼は少し眉をしかめ、風の演算を始めた。
窓を開け、風を操り埃を一掃してしまう。
冷蔵庫を開けると中身は空だった。
缶コーヒーのストックくらいはあると思ったのだが。
彼は大きく溜息を吐いてコンビニへと出掛けた。
帰り、カップルの痴話喧嘩の声が聞こえた。
やけに耳触りだった。
俺には喧嘩する相手すらいないというのに。
音も反射してしまうことにする。
寮まで近くなった頃だろうか。
「…………!」
視界の端に小さい子どもがちらつくようになった。
患者衣を来た子どもがついてきているのだ。。
「あァ……?」
「……!……!」
子どもはぱくぱくと口を開けるが何も聞こえない。
音を反射していたことを思い出し、解除する。
途端に元気の良い声が耳に入る。
沈んでいたところに明るく声をかけられ、毒気を抜かれてしまった。
「ねぇねぇ、ほんとに聞こえてないの?ひょっとしてあなた天然さん?ねぇってばー!」
「……なンだよ」
「うぁーいっ、やっと返事が返ってきたーってミサカはミサカはくるくる回ってみる!」
「なンだァ。オマエ」
ミサカと言う少女は言葉の通りくるくる回っている。
呆れた視線を向けながらミサカという固有名詞に何か引っかかりを覚えた。
「あなたはアクセラレータだよね?このミサカは絶対能力進化実験……の最終ロットの打ち止めってミサカはミサカの自己紹介」
「レベル6……オマエ、御坂って、超電磁砲のクローンか」
「いぇす、ざっつらーいっ!」
「その超電磁砲のクローンがなンで此処にいやがる」
「それがね、クレープっていうものが食べてみたくて研究所を抜け出したら迷子になっちゃって。お金ないし踏んだり蹴ったりだってミサカはミサカは泣きついてみる」
「自業自得じゃねェか……で?」
「ひとまずあなたの家に泊めて欲しいなぁーってミサカはミサカはつぶらな瞳で訴えてみたり!」
「オマエ、俺が誰か知ってて言ってンのかァ?」
「勿論。レベル5の第一位、一方通行。もしかしてそれ以外の誰かなの?ってミサカはミサカはまさかの他人の空似!?」
少女は大げさに驚いたジェスチャーをしてみせた。
ハァ、と一方通行は溜息を吐く。
このクローンはどうやら自分が怖くないらしい。
彼の胸の空白が少しだけ、埋まったような気がしていた。
結局クローンの少女・打ち止めは一方通行の部屋までついてきてしまった。
「俺には敵が多い。此処より路上で寝泊りした方が安全かもしれねェぞ」
「それでもお世話になりたいってミサカはミサカは頼みこんでみたり……」
「あァ?」
「誰かと一緒にいたいからって、ミサカはミサカは小さく呟いてみる」
一方通行は沈黙した。
誰かと一緒にいたい。
それは彼も同じで、物心ついた時から長いこと願っていたことだった。
打ち止めはソファに横になった。
まだ幼く背の低い彼女にとってソファは寝床として丁度良い大きさのようだ。
だが、その手には名前の枕が握られている。
「それ……!」
「優しい匂いがするねってミサカはミサカは夢見心地で感想を……ぐう」
「……今日だけだからな」
眠ってしまった少女にタオルケットをかけてやり、一方通行はベッドに横になった。
一体なんなのだ、このガキは。
一方通行はそう思いつつも、少しだけ癒えた悲しみに気が付いた。
And it returns,To their world