6話後妄想
スレッタは昨日約束した待ち合わせ場所のベンチに座ってエランを待っていた。
(まだかなぁ……)
約束の時間よりも余裕をもってそこに来ていた。待てど暮らせどやって来ず、時間はもう夕方へ差し掛かっていた。
微かな音がして、ホルダーの証である白の制服に影が差した。
反射的に顔を上げ、待ち人の名を呼んだ。
「エランさん!」
「遅くなってごめん」
エラン・ケレスその人であればなにもおかしくはない言葉。しかし、目の前にいたのはエランではなかった。制服からして違う。これは多くの生徒が着ている物で、エランは大袖が黒かったり、タイも異なる。
「あ、あの……どちら様……ですか?」
スレッタは少し混乱していた。ここにはエランが来るはずだ。
来れない理由があって、連絡をとることも出来ないからこの人に頼んだのだろうか……。
「「……」」
二人して黙り込む。先に口を開いたのは目の前の男子生徒だった。
「ごめん、人違いだった」
エランとは全く関係が無さそうで、スレッタは少しがっかりした。
「君は……誰かを待っているの?」
「はい。10時にこのベンチで待ち合わせで……」
「でも、なかなか来てくれなくて」
話す内に自然と顔が俯く。
「隣いい?」
「ど、どうぞ」
人違いと言うことはこの人もここで約束をしているのだろうか……。彼が隣に座ると、矢継ぎ早に話を聞かれた。エランがなかなか来なくて不安に思っていたこと、本当は今日エランとしたかったことを事細かにスレッタは話していた。
「わたし、嫌われちゃったんでしょうか」
ぽたりと一粒涙が落ちてスレッタのズボンにシミを作る。
「ごめんね」
そう言ってスレッタの目元をハンカチで拭う。
「なな、なんで謝るんですか!?」
「もう帰った方がいいよ」
「でも、もしかしたらこの後エランさんが来てくれるかもしれないじゃないですか……」
「彼は来ないよ」
「エランさんは約束を破るような人では」
「あんまり彼のことを知らないんでしょ?」
「そ、それは……」
「もう遅いから」
迷った末、後ろ髪を引かれながらもスレッタは帰ることにした。
「じゃあ、僕はこっちだから」
途中まで一緒に歩いて、分かれ道で反対方向に別れた。
男の方は少し歩くと、歩き去っていくスレッタの後ろ姿を見つめていた。
「さよなら」
「スレッタ・マーキュリー」
男の声はスレッタに届くことはなかった。
◇◇◇
その日の夜、スレッタは消灯してもなかなか寝付けなかった。
「エランさん」
「結局、来てくれなかったな……」
帰り道、ペイル寮にエランさんがいるか訪ねたけれど門前払いされてしまった。何も分からないから、どうしているのか心配になる。
「そう言えば、あの人の名前」
「聞いてなかったな……」
同じ生徒なら多分また会えるから、その時に聞こうかな。スレッタはウトウトとしてきて、重くなった目蓋を閉じて眠りについた。
(まだかなぁ……)
約束の時間よりも余裕をもってそこに来ていた。待てど暮らせどやって来ず、時間はもう夕方へ差し掛かっていた。
微かな音がして、ホルダーの証である白の制服に影が差した。
反射的に顔を上げ、待ち人の名を呼んだ。
「エランさん!」
「遅くなってごめん」
エラン・ケレスその人であればなにもおかしくはない言葉。しかし、目の前にいたのはエランではなかった。制服からして違う。これは多くの生徒が着ている物で、エランは大袖が黒かったり、タイも異なる。
「あ、あの……どちら様……ですか?」
スレッタは少し混乱していた。ここにはエランが来るはずだ。
来れない理由があって、連絡をとることも出来ないからこの人に頼んだのだろうか……。
「「……」」
二人して黙り込む。先に口を開いたのは目の前の男子生徒だった。
「ごめん、人違いだった」
エランとは全く関係が無さそうで、スレッタは少しがっかりした。
「君は……誰かを待っているの?」
「はい。10時にこのベンチで待ち合わせで……」
「でも、なかなか来てくれなくて」
話す内に自然と顔が俯く。
「隣いい?」
「ど、どうぞ」
人違いと言うことはこの人もここで約束をしているのだろうか……。彼が隣に座ると、矢継ぎ早に話を聞かれた。エランがなかなか来なくて不安に思っていたこと、本当は今日エランとしたかったことを事細かにスレッタは話していた。
「わたし、嫌われちゃったんでしょうか」
ぽたりと一粒涙が落ちてスレッタのズボンにシミを作る。
「ごめんね」
そう言ってスレッタの目元をハンカチで拭う。
「なな、なんで謝るんですか!?」
「もう帰った方がいいよ」
「でも、もしかしたらこの後エランさんが来てくれるかもしれないじゃないですか……」
「彼は来ないよ」
「エランさんは約束を破るような人では」
「あんまり彼のことを知らないんでしょ?」
「そ、それは……」
「もう遅いから」
迷った末、後ろ髪を引かれながらもスレッタは帰ることにした。
「じゃあ、僕はこっちだから」
途中まで一緒に歩いて、分かれ道で反対方向に別れた。
男の方は少し歩くと、歩き去っていくスレッタの後ろ姿を見つめていた。
「さよなら」
「スレッタ・マーキュリー」
男の声はスレッタに届くことはなかった。
◇◇◇
その日の夜、スレッタは消灯してもなかなか寝付けなかった。
「エランさん」
「結局、来てくれなかったな……」
帰り道、ペイル寮にエランさんがいるか訪ねたけれど門前払いされてしまった。何も分からないから、どうしているのか心配になる。
「そう言えば、あの人の名前」
「聞いてなかったな……」
同じ生徒なら多分また会えるから、その時に聞こうかな。スレッタはウトウトとしてきて、重くなった目蓋を閉じて眠りについた。
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