ヤラズノアメ
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「なぁ、ナルはん。」
「どしたの?」
「今日って何月何日やったっけ?」
「カレンダーそこにあるよ。」
何故わざわざそんなことを聞くのかと不審に思いながらも、壁にあるカレンダーを指差す。
「せ、せやけど!わてはナルはんに聞いてるんや。」
「私に聞くよりカレンダー見た方が確かじゃない?」
なんだろう、心なしかさっきからずっとソワソワしているように見える。
というか挙動不審だ、明らかに。
「そんなん分からしまへんやろ?もしかしたら印刷ミスとかあるかもしれへんし!」
「えー、そんなことあったらとっくに回収されてるよー。」
「えぇからっ!何月何日か教えとくれやすぅ!」
「もー、しょうがないなぁ。えーっと今日は・・・9月12日だよ。」
スマホのカレンダーを開き、ほらっ、と言いながらアラシヤマに見せた。
「何でスマホ見るん?スマホやなくてカレンダー見とくれやすぅ!」
「え、さっきカレンダーは印刷ミスがーって言ってたよね?」
「もう、えぇどすぅ・・ナルはんのいけずぅ。」
なんという捨てゼリフか、心外である。
さっきから支離滅裂なこと言ってるのはアラシヤマなのに。
「ねぇ、今日どうしちゃったの?何か大変なことでもあった?」
「・・何もあらしまへん。今日はただの至って平和な9月12日どす。特別なことはあらしまへん。」
俯きながらボソっと言うと、そのままアラシヤマは自室へと戻ってしまった。
「ちょ、アラシヤマくん?もう、ホントどうしちゃったんだろ。」
いやに日付にこだわっていたような。
それに、どうしてもカレンダー見てほしいようなそぶり。
しばらく思案したところでハッと閃いた。
まさか、と壁にかかるカレンダーを見ると、やはりそれは的中していたようだ。
“わての誕生日”
本当に小さな文字で、枠の隅の方に書いてある。
それを見た瞬間、さっきまでのやり取り全てがおかしくなって小さく吹き出してしまった。
「もう、正直に言えば良いのになぁ。ホント素直じゃないんだから。」
アラシヤマの誕生日と分かったからには、こうしてはいられない。
せっかくだからケーキでも作ってあげようと思い立ち、買い物へ出かけた。
「喜んでくれるかな。」
買ってきた材料をキッチンに並べ、スポンジから作る。
少し時間も手間もかかるけど、アラシヤマが喜ぶ姿を想像しながら気合いを入れる。
普段、料理はしてもデザートなんかは滅多に作らない。
勝手が違うスイーツ作りに、慣れないながらもレシピとにらめっこを繰り返し奮闘する。
できあがったクリームを先に焼きあげたスポンジに塗り、フルーツを飾り付けた。
もちろん最後にロウソクを刺すのも忘れない。
「よーし!」
色々手間取ったりはしたが、素人にしては中々良いんじゃない?と自画自賛。
さっそくアラシヤマを呼んでこよう。
二階へ上がり、アラシヤマの部屋の前まで行くと軽く扉をノックしてみた。
「アラシヤマくーん、起きてる?」
返事がない、寝ちゃったかな。
もう一度声をかけてみよう。
「アラシヤマくん、ちょっと下に来てくれないかな?頼みたいことがあって・・」
「・・へぇ。」
返事があったのは良いけど、いかにも拗ねてます、と言いたげな声音。
少し不安に思いながらも、待ってるね、と声をかけリビングへ向かった。
しばらくすると、トントンと階段を降りてくる足音。
電気を消して、悟られないように息をひそめる。
「なんやの、ナルはん。呼びつけといて電気もつけんと・・えっ。」
「お誕生日おめでとう、アラシヤマくん。」
お祝いの言葉と共に差し出したのは、ロウソクに火が灯されたケーキ。
「な、これ・・わてのために?」
「うん。だからほら、火を消して?それが私の頼みごと。」
アラシヤマは目を見開いて驚いた様子だったが、ロウソクの小さな光越しの表情は、少し泣きそうにも見えた。
「ナルはん、わて・・」
「ほらほら!早く消さないとロウソク溶けちゃうよー。」
「へぇ。」
大きく息を吸い、フーッと勢いよくロウソクの火を吹き消す。
そのタイミングで部屋の電気をパチリとつけた。
いまいち状況を把握できていないのか、呆然と立ったままのアラシヤマ。
ほらほら座って、と肩をポンポン叩き、切り分けたケーキとフォークを並べた。
「一緒に食べよう?アラシヤマくん。」
「これ、ナルはんが作ったん?」
「まぁね。でも初めてだから味は保証しないよ?」
「ほな、確かめてみまひょか。いただきます。」
礼儀正しく手を合わせるも、憎まれ口を忘れない。
そういうところがアラシヤマらしい。
「どうかな?」
「・・美味しおす。」
ぽそりと恥ずかしげに言いながら、パクパクとケーキを口に運ぶアラシヤマ。
その表情はどことなく嬉しそう。
そんな姿を見ているうちに、胸の奥がジンワリと温かくなる。
いつもは少し素っ気なかったり皮肉を言うこともある彼だが、何故かどこか寂しげで。
だからこそ、こんな穏やかにも見える表情が、とても新鮮に感じた。
「ナルはん。」
「なぁに?」
「あの・・ホンマすんまへん。いけずやなんて心にもあらへんこと・・」
「ホーント、不器用な男だよ。アラシヤマくんは。」
ふふっと笑うと、アラシヤマは不思議そうな顔をする。
「ごめん。でもね、アラシヤマくんが喜んでくれただけで私は嬉しいんだな。」
あはは、と我ながら照れ臭くなって空笑いをしながら頭をかいた。
「何、照れてんの・・自分で言うたくせに。」
「ホント素直じゃないねぇ。まぁとにかくだよ、アラシヤマくん。」
ギュッと両手でアラシヤマの手を包み視線を合わせると、少し動揺したのか彼の瞳が揺れた。
「アラシヤマくんのそういうとこ、わりと好きだよ。だからそのままで良いんじゃないかな。」
「え・・えぇぇぇぇ?!」
「いや、アレだよ?人としてだからね?あの何か変な風に捉えないで、」
「わ、わてのことがすき・・スキ、スキ、スキ・・・」
「ねぇ、聞いてる?」
壊れたロボットみたいになってるけど、落ち着いたらちゃんと訂正しよう。
とはいいながらも、実はアラシヤマの思い込みの激しいところも微笑ましかったりする。
相変わらず、スキスキ、と呪文のように唱えてるアラシヤマに呆れながらも顔を綻ばせた。
不器用で素直じゃないけど、可愛い奴め。
そんな君の人生に、幸多からんことを祈って。
“ハッピーバースデー、アラシヤマくん”
ーーーーーーーー
「あの、ナルはん。わて決心しましたえ。」
「何をかな?」
「わて・・わては・・・死んでも、えぇどす。」
「何を言っているのかね、アラシヤマくん。」
「勘違いせんといてくれやす!ホンマに死ぬんやのぉて、アレどすぅ。ほら・・あの、アレ!」
「死ぬほど嬉しいってことかな。」
「難儀やわぁ。」
「どしたの?」
「今日って何月何日やったっけ?」
「カレンダーそこにあるよ。」
何故わざわざそんなことを聞くのかと不審に思いながらも、壁にあるカレンダーを指差す。
「せ、せやけど!わてはナルはんに聞いてるんや。」
「私に聞くよりカレンダー見た方が確かじゃない?」
なんだろう、心なしかさっきからずっとソワソワしているように見える。
というか挙動不審だ、明らかに。
「そんなん分からしまへんやろ?もしかしたら印刷ミスとかあるかもしれへんし!」
「えー、そんなことあったらとっくに回収されてるよー。」
「えぇからっ!何月何日か教えとくれやすぅ!」
「もー、しょうがないなぁ。えーっと今日は・・・9月12日だよ。」
スマホのカレンダーを開き、ほらっ、と言いながらアラシヤマに見せた。
「何でスマホ見るん?スマホやなくてカレンダー見とくれやすぅ!」
「え、さっきカレンダーは印刷ミスがーって言ってたよね?」
「もう、えぇどすぅ・・ナルはんのいけずぅ。」
なんという捨てゼリフか、心外である。
さっきから支離滅裂なこと言ってるのはアラシヤマなのに。
「ねぇ、今日どうしちゃったの?何か大変なことでもあった?」
「・・何もあらしまへん。今日はただの至って平和な9月12日どす。特別なことはあらしまへん。」
俯きながらボソっと言うと、そのままアラシヤマは自室へと戻ってしまった。
「ちょ、アラシヤマくん?もう、ホントどうしちゃったんだろ。」
いやに日付にこだわっていたような。
それに、どうしてもカレンダー見てほしいようなそぶり。
しばらく思案したところでハッと閃いた。
まさか、と壁にかかるカレンダーを見ると、やはりそれは的中していたようだ。
“わての誕生日”
本当に小さな文字で、枠の隅の方に書いてある。
それを見た瞬間、さっきまでのやり取り全てがおかしくなって小さく吹き出してしまった。
「もう、正直に言えば良いのになぁ。ホント素直じゃないんだから。」
アラシヤマの誕生日と分かったからには、こうしてはいられない。
せっかくだからケーキでも作ってあげようと思い立ち、買い物へ出かけた。
「喜んでくれるかな。」
買ってきた材料をキッチンに並べ、スポンジから作る。
少し時間も手間もかかるけど、アラシヤマが喜ぶ姿を想像しながら気合いを入れる。
普段、料理はしてもデザートなんかは滅多に作らない。
勝手が違うスイーツ作りに、慣れないながらもレシピとにらめっこを繰り返し奮闘する。
できあがったクリームを先に焼きあげたスポンジに塗り、フルーツを飾り付けた。
もちろん最後にロウソクを刺すのも忘れない。
「よーし!」
色々手間取ったりはしたが、素人にしては中々良いんじゃない?と自画自賛。
さっそくアラシヤマを呼んでこよう。
二階へ上がり、アラシヤマの部屋の前まで行くと軽く扉をノックしてみた。
「アラシヤマくーん、起きてる?」
返事がない、寝ちゃったかな。
もう一度声をかけてみよう。
「アラシヤマくん、ちょっと下に来てくれないかな?頼みたいことがあって・・」
「・・へぇ。」
返事があったのは良いけど、いかにも拗ねてます、と言いたげな声音。
少し不安に思いながらも、待ってるね、と声をかけリビングへ向かった。
しばらくすると、トントンと階段を降りてくる足音。
電気を消して、悟られないように息をひそめる。
「なんやの、ナルはん。呼びつけといて電気もつけんと・・えっ。」
「お誕生日おめでとう、アラシヤマくん。」
お祝いの言葉と共に差し出したのは、ロウソクに火が灯されたケーキ。
「な、これ・・わてのために?」
「うん。だからほら、火を消して?それが私の頼みごと。」
アラシヤマは目を見開いて驚いた様子だったが、ロウソクの小さな光越しの表情は、少し泣きそうにも見えた。
「ナルはん、わて・・」
「ほらほら!早く消さないとロウソク溶けちゃうよー。」
「へぇ。」
大きく息を吸い、フーッと勢いよくロウソクの火を吹き消す。
そのタイミングで部屋の電気をパチリとつけた。
いまいち状況を把握できていないのか、呆然と立ったままのアラシヤマ。
ほらほら座って、と肩をポンポン叩き、切り分けたケーキとフォークを並べた。
「一緒に食べよう?アラシヤマくん。」
「これ、ナルはんが作ったん?」
「まぁね。でも初めてだから味は保証しないよ?」
「ほな、確かめてみまひょか。いただきます。」
礼儀正しく手を合わせるも、憎まれ口を忘れない。
そういうところがアラシヤマらしい。
「どうかな?」
「・・美味しおす。」
ぽそりと恥ずかしげに言いながら、パクパクとケーキを口に運ぶアラシヤマ。
その表情はどことなく嬉しそう。
そんな姿を見ているうちに、胸の奥がジンワリと温かくなる。
いつもは少し素っ気なかったり皮肉を言うこともある彼だが、何故かどこか寂しげで。
だからこそ、こんな穏やかにも見える表情が、とても新鮮に感じた。
「ナルはん。」
「なぁに?」
「あの・・ホンマすんまへん。いけずやなんて心にもあらへんこと・・」
「ホーント、不器用な男だよ。アラシヤマくんは。」
ふふっと笑うと、アラシヤマは不思議そうな顔をする。
「ごめん。でもね、アラシヤマくんが喜んでくれただけで私は嬉しいんだな。」
あはは、と我ながら照れ臭くなって空笑いをしながら頭をかいた。
「何、照れてんの・・自分で言うたくせに。」
「ホント素直じゃないねぇ。まぁとにかくだよ、アラシヤマくん。」
ギュッと両手でアラシヤマの手を包み視線を合わせると、少し動揺したのか彼の瞳が揺れた。
「アラシヤマくんのそういうとこ、わりと好きだよ。だからそのままで良いんじゃないかな。」
「え・・えぇぇぇぇ?!」
「いや、アレだよ?人としてだからね?あの何か変な風に捉えないで、」
「わ、わてのことがすき・・スキ、スキ、スキ・・・」
「ねぇ、聞いてる?」
壊れたロボットみたいになってるけど、落ち着いたらちゃんと訂正しよう。
とはいいながらも、実はアラシヤマの思い込みの激しいところも微笑ましかったりする。
相変わらず、スキスキ、と呪文のように唱えてるアラシヤマに呆れながらも顔を綻ばせた。
不器用で素直じゃないけど、可愛い奴め。
そんな君の人生に、幸多からんことを祈って。
“ハッピーバースデー、アラシヤマくん”
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「あの、ナルはん。わて決心しましたえ。」
「何をかな?」
「わて・・わては・・・死んでも、えぇどす。」
「何を言っているのかね、アラシヤマくん。」
「勘違いせんといてくれやす!ホンマに死ぬんやのぉて、アレどすぅ。ほら・・あの、アレ!」
「死ぬほど嬉しいってことかな。」
「難儀やわぁ。」
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