ヤラズノアメ
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ポタッポタッと不規則な音。
いい加減直さなきゃなぁと思いながらも、なんとかなるかと天井には突貫で板を張り、床にはバケツで凌いできた。
店のカウンターから見える外は、かなりの土砂降り。
この様子だと、今日一日は止みそうにない。
「なんとかしなきゃな。」
ぼんやりと溢しながら、気怠げに外に目をやったまさにその時。
ずぶ濡れの男が土砂降りの中、店の前を通り過ぎようとしていた。
俯きながら歩くそれが気になり、思わず店先の引き戸を開けた。
この大雨の中、傘もささずに歩く男。
何かワケありか?と勘繰りながらも、頭の中で警鐘のようなものが激しく鳴り響き、そばにあった傘を手に取り小走りで駆け寄った。
「ちょっと!ずぶ濡れじゃないですか!」
少しびっくりした様子で振り返る男だったが、その顔は青白く明らかに体調がよろしくなさそうだ。
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ。雨が止むまでうちのお店で休んでください。」
男は目を丸くしながら少し考えた様子であったが、静かに頷くと大人しく後に続いた。
「どうぞ、中入って。」
「・・すんまへん。」
初めて発した言葉に少しホッとする。
店奥の居住スペースからタオルを持ち出し手渡した。
「これ使ってください。風邪ひいちゃうでしょ。温かい飲み物入れるから、そこ座っててください。」
キッチンでお湯を沸かし、マグカップにはインスタントのコーンスープ。
沸騰したお湯をゆっくり注ぎながら、スプーンでゆっくりかき混ぜる。
「はい。冷めないうちにどうぞ。」
差し出したマグカップを遠慮がちに受け取り、そっと口を付けた。
「・・・ありがとう、ございます。」
独特のイントネーションで礼を告げる男に、言い知れぬものを感じつつ、静かに話しかけた。
「聞いていいのか分からないんですけど、何かあったんですか?傘もささずに出歩くなんて・・」
「道に・・迷ってしもたんどす。」
と言いながら、まだ状況を把握できていないような表情を浮かべる。
「なんや自分でもよう分からへんのやけど、気づいたら土砂降りの中道に倒れてて。とにかく帰らな思て歩いてきたんやけど、歩いても歩いても知らんとこばかりで・・」
「あなた日本人ですよね?というか関西の、」
「“京都”どす。」
やたら京都を強調する言い方。
京都の人って気位高めのイメージだなぁと、こんな時に不謹慎だけど思ってしまう。
「いくら“京都”の方でも、関東を知らないわけではないですよね?」
「知っとります。せやけど、わてが知ってる日本とは違うんどす。」
それからこの京男の話を延々と聞くことになった。
曰く、自分はガンマ団というところに所属していて任務の最中だった。
敵に襲撃され逃げる途中だったが、気づいたら道に迷い、ここに辿り着いたと。
何を言い出したんだ、頭でも打ったのか?と心配になる程に突拍子もない話。
だがあまりに真剣に語るその姿に、嘘ではないのかもと半信半疑になる。
「その話が本当だったとしたら、あなたは違う世界からきたってこと?そもそもガンマ団なんて組織、聞いたこともないですし・・」
「わてかて信じとうありまへんけど、そう考えると筋が通ります。」
「じゃあ帰るところが無いってことですか?」
「そう、いうことになりますな・・」
見るからに肩を落とし、項垂れる男に少し同情した。
正直、厄介ごとには巻き込まれたくない。
だけどこのまま見捨てても良いのか。
この人の話が本当か嘘かなんて分からないけど、困っているのは本当のようだ。
「ここにいますか?」
「・・へっ?」
「帰り方が分かるまで、ここにいても良いですよ。」
「本気で言うてはるの?」
「汚い古本屋ですけど、私一人暮らしなんで部屋ならありますよ。あなたが良ければ。雨漏りしてるけど・・」
そう戯けたように言うと、彼はみるみるうちに顔を赤くした。
「せ、せやけど!女子が一人で住んでるとこに見知らぬ男やなんて・・」
「でも行くとこないんですよね?」
「そ、それはそうやけど・・」
「お礼は店番手伝ってくれれば良いから、変な心配しなくて良いですよ。」
「変な心配て・・それあんさん言うことちゃいます。」
少し呆れたような、緩んだ表情で呟く姿が面白くてこちらもつられて表情が緩んだ。
「ところで、すっかり自己紹介忘れてましたね!私の名前はナル。この古本屋の店主。あなたは?」
「わての名前はアラシヤマどす。」
「それはコードネームですか?」
「ちゃいます!ちゃんとした本名どす!」
「珍しいお名前ですねぇ。じゃあアラシヤマさん、これからよろしくお願いしますね。」
「へぇ、お世話になります。」
かくして、二人の奇妙な共同生活が始まるのであった。
--------
「ちなみにお歳は?」
「27どす」
「タメだね!じゃあ敬語なしで、アラシヤマくん」
「初対面やのに気安いわぁ」
いい加減直さなきゃなぁと思いながらも、なんとかなるかと天井には突貫で板を張り、床にはバケツで凌いできた。
店のカウンターから見える外は、かなりの土砂降り。
この様子だと、今日一日は止みそうにない。
「なんとかしなきゃな。」
ぼんやりと溢しながら、気怠げに外に目をやったまさにその時。
ずぶ濡れの男が土砂降りの中、店の前を通り過ぎようとしていた。
俯きながら歩くそれが気になり、思わず店先の引き戸を開けた。
この大雨の中、傘もささずに歩く男。
何かワケありか?と勘繰りながらも、頭の中で警鐘のようなものが激しく鳴り響き、そばにあった傘を手に取り小走りで駆け寄った。
「ちょっと!ずぶ濡れじゃないですか!」
少しびっくりした様子で振り返る男だったが、その顔は青白く明らかに体調がよろしくなさそうだ。
「大丈夫ですか?顔色悪いですよ。雨が止むまでうちのお店で休んでください。」
男は目を丸くしながら少し考えた様子であったが、静かに頷くと大人しく後に続いた。
「どうぞ、中入って。」
「・・すんまへん。」
初めて発した言葉に少しホッとする。
店奥の居住スペースからタオルを持ち出し手渡した。
「これ使ってください。風邪ひいちゃうでしょ。温かい飲み物入れるから、そこ座っててください。」
キッチンでお湯を沸かし、マグカップにはインスタントのコーンスープ。
沸騰したお湯をゆっくり注ぎながら、スプーンでゆっくりかき混ぜる。
「はい。冷めないうちにどうぞ。」
差し出したマグカップを遠慮がちに受け取り、そっと口を付けた。
「・・・ありがとう、ございます。」
独特のイントネーションで礼を告げる男に、言い知れぬものを感じつつ、静かに話しかけた。
「聞いていいのか分からないんですけど、何かあったんですか?傘もささずに出歩くなんて・・」
「道に・・迷ってしもたんどす。」
と言いながら、まだ状況を把握できていないような表情を浮かべる。
「なんや自分でもよう分からへんのやけど、気づいたら土砂降りの中道に倒れてて。とにかく帰らな思て歩いてきたんやけど、歩いても歩いても知らんとこばかりで・・」
「あなた日本人ですよね?というか関西の、」
「“京都”どす。」
やたら京都を強調する言い方。
京都の人って気位高めのイメージだなぁと、こんな時に不謹慎だけど思ってしまう。
「いくら“京都”の方でも、関東を知らないわけではないですよね?」
「知っとります。せやけど、わてが知ってる日本とは違うんどす。」
それからこの京男の話を延々と聞くことになった。
曰く、自分はガンマ団というところに所属していて任務の最中だった。
敵に襲撃され逃げる途中だったが、気づいたら道に迷い、ここに辿り着いたと。
何を言い出したんだ、頭でも打ったのか?と心配になる程に突拍子もない話。
だがあまりに真剣に語るその姿に、嘘ではないのかもと半信半疑になる。
「その話が本当だったとしたら、あなたは違う世界からきたってこと?そもそもガンマ団なんて組織、聞いたこともないですし・・」
「わてかて信じとうありまへんけど、そう考えると筋が通ります。」
「じゃあ帰るところが無いってことですか?」
「そう、いうことになりますな・・」
見るからに肩を落とし、項垂れる男に少し同情した。
正直、厄介ごとには巻き込まれたくない。
だけどこのまま見捨てても良いのか。
この人の話が本当か嘘かなんて分からないけど、困っているのは本当のようだ。
「ここにいますか?」
「・・へっ?」
「帰り方が分かるまで、ここにいても良いですよ。」
「本気で言うてはるの?」
「汚い古本屋ですけど、私一人暮らしなんで部屋ならありますよ。あなたが良ければ。雨漏りしてるけど・・」
そう戯けたように言うと、彼はみるみるうちに顔を赤くした。
「せ、せやけど!女子が一人で住んでるとこに見知らぬ男やなんて・・」
「でも行くとこないんですよね?」
「そ、それはそうやけど・・」
「お礼は店番手伝ってくれれば良いから、変な心配しなくて良いですよ。」
「変な心配て・・それあんさん言うことちゃいます。」
少し呆れたような、緩んだ表情で呟く姿が面白くてこちらもつられて表情が緩んだ。
「ところで、すっかり自己紹介忘れてましたね!私の名前はナル。この古本屋の店主。あなたは?」
「わての名前はアラシヤマどす。」
「それはコードネームですか?」
「ちゃいます!ちゃんとした本名どす!」
「珍しいお名前ですねぇ。じゃあアラシヤマさん、これからよろしくお願いしますね。」
「へぇ、お世話になります。」
かくして、二人の奇妙な共同生活が始まるのであった。
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「ちなみにお歳は?」
「27どす」
「タメだね!じゃあ敬語なしで、アラシヤマくん」
「初対面やのに気安いわぁ」
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