観光（半ば修行）でやって来たヨロイ島。俺は今日、この島から去ることにした。
　恋人になったセイボリーから離れることになるのは正直寂しいが、いつまでもここにいる訳にもいかない。
　俺には、ポケモントレーナーとして、他の地方を旅するという夢があるのだ。だから今日、俺はここを立つ。
　張っていたテントを畳み、荷物をまとめる。旅慣れているので、ものの数分で、それは終わってしまう。
　その数分で、俺はセイボリーのことを考えていた。
　彼とは、この先長い別れが待っている。それを惜しいと思う気持ちがないと言えば、嘘になる。
　恋人との時間の共有が出来る喜び。恋人と同じ空間に居られる嬉しさ。それらと自分の夢を天秤にかけて、俺は夢を選んだ。
　せめて、愛しいセイボリーに何かを残してから旅立ちたい。そう考えた俺は、あるサプライズを用意した。
　アーマーガアのそらとぶタクシー乗り場に向かう前に、マスター道場へ赴き、セイボリーを呼び出す。
「セイボリー、前に言った通り、俺はカントー地方へ旅に出るよ」

　そして、その後はジョウト地方へ。さらに後にはホウエン地方。それから先も、まだまだ俺の旅は続くことになる。

「ワタクシ、あなたの旅路に幸多からんことを祈っています」

　彼の美しい瞳が、わずかに潤んだ。

「改めて言わせてほしい。好きだよ、セイボリー。愛してる」

　俺は、ほんの少し照れながら、ヨロイ島の森で捕まえたカジッチュをセイボリーにプレゼントした。

「カジーッツ！」

　彼に手渡したカジッチュは、元気に鳴き声を上げた。
　カジッチュには、こんな噂がある。「好きな相手に告白する時に渡すと両想いになれる」というものだ。
　俺とセイボリーは恋人同士である。
　だから、すでに告白は済んでいるが、一度しか告白をしてはいけない、などということはないだろう。

「ワタクシも、あなたが好きですよ」

　セイボリーは、ほんのり顔を赤らめながら、俺の何度目かの告白に応えてくれた。
　遠く離れたとしても、いつでも俺たちの想いは一緒だ。