鳳樹のことが好きになれない。いや、嫌いだ。柊翼の心の奥底に巣食っているアイツが、嫌いだ。
　俺は、柊のクラスメイトで、友人で、だけどそれだけである。もっと強固な結び付きが欲しくて堪らない。
　だから俺は、柊をこれでもかと構い、甘やかそうとした。
　そうしたら、俺は彼に嫌われてしまったのである。
　柊は俺を避けるようになり、視線を合わせることすらしなくなった。
　とても悲しいが、自業自得である。きっと俺は、柊が望むような存在にはなれなかったのだ。柊が望んでいるのは、鳳樹という存在なのだろう。
　悔しい。俺は、妄執にも似た恋心を柊翼に対して抱いているのだと、この時初めて気付いた。
　素っ気ない態度をとる柊に、これ以上関わるべきではないと、理性が警告する。
　ああ、でも。それでも、俺は彼を好きなのだ。
　どうしようもなく、柊翼に近付きたいのだ。
　この片想いを捨て去るつもりはない。
　今はまだ、告白する勇気はないけれど。

◆◆◆

　初めての感情に、僕は戸惑っている。
　クラスメイトで、友人の彼。きっと、僕は彼に恋愛感情を抱いている。
　初めての感情に自分の心は掻き乱され、優しい彼を避けてしまうようになった。
　彼は、いつも僕を気遣ってくれて、いつでも僕に優しい言葉をかけてくれて、自分はそんな彼に恋をしている。
　それなのに、彼を避けて、傷付けてしまった。
　きっと、彼に嫌われてしまったことだろう。
　そう思ったけれど。

「おはよう、柊」

　彼は変わらず、僕に接してくれた。

「…………おはよう」

　申し訳なさと、顔と胸の内が熱くなるのとで、目が合わせられない。
　しかし、彼の態度はいつもと変わらなかった。優しい人だな、と思う。
　だから、僕も努めて冷静に、いつものように彼に接しようと決める。
　それからは、今まで通りの普通の友人関係に戻ることが出来た。
　ああ、でも、僕は彼に恋をしていて。けれど、彼は僕を友人と思っていて。
　この片想いを抱えたまま、僕はどうすればいいのだろう？
　今はまだ、彼に告白する勇気はない。