一次創作夢
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何故、狭山槙雄が納棺師をしているかというと、死体には体温がないからである。
それに、亡骸は物静かだし、煩わしくない。
今日も、槙雄は丁寧に死化粧を施す。
遺族には大層感謝されたが、そんなことは正直どうでもよかった。無機質に事務的なやり取りをするだけ。
仕事を終え、帰宅し、着替えなどを済ませた後。槙雄は鞄に入れていたテディベアのテッドを取り出した。
「ただいま」
『おかえり、まきくん』
テッドの声は、槙雄にしか聴こえない。
テッドは、槙雄が生まれた時に祖母が贈ってくれた高価なテディベアである。物心ついた時から、ずっと槙雄とテッドは友達だ。
槙雄の趣味は、ひとり旅だが、正確には違う。旅行でも何でも、いつも彼はテッドと共にいる。
「少し疲れたな」
『まきくん、お仕事お疲れ様』
「ありがとう、テッド」
ふたりは、夕食を摂ることにした。
キッチンに立つ槙雄を、テッドが見守る。
槙雄は、手際よくホワイトシチューを作った。コーヒーを淹れ、帰り道で買ってきたパンを添えて、夕食は完成する。
最後に、小さな器にシチューを入れて、椅子に座るテッドの前に置いた。
「いただきます」
『いただきます』
料理は、上出来。テッドも美味しそうに食べている。と、槙雄は認識した。
「人間ってのは面倒くさいよ、テッド」
『それでも、人と関わらないと生きていけないからね。まきくんは偉いよ』
「ありがとう」
テッドの前でしか見せない、槙雄の柔らかい笑み。同僚が見たら、仰天するだろう。
「今度は、どこに旅行に行こうか?」
『カナダ!』
「海外は無理だよ。浅間温泉はどう?」
『いいね』
「じゃあ、決まりだ」
いつもの風景。穏やかな日常。翌日、それは崩されることになる。
槙雄が仕事場へ行くと、新人の教育係をするように言われた。
断るための言い訳がない。
「僕は、最低限のことしか君に教えられないから」
「はい。よろしくお願いします」
新人は、素直に返事をした。
怠い。帰りたい。
そんな気持ちを押し込めて、槙雄は指導をした。
「狭山さん、ありがとうございました」
「ああ。お疲れ様」
「お疲れ様です」
やっと帰れる。定時に帰宅し、槙雄はネクタイを緩めて、ソファーにどかっと座った。
『まきくん、大丈夫?』
隣に座るテッドが心配そうにしている。
「大丈夫。所詮人なんて、糞の詰まった肉袋に過ぎない」
『おれは、綿が詰まった布に過ぎない?』
「まさか。テッドは、僕の友達だよ」
『そっか』
狭山槙雄。26歳。職業、納棺師。
家族や友人や恋人はいない。
友達は、可愛いクマが一匹。
それに、亡骸は物静かだし、煩わしくない。
今日も、槙雄は丁寧に死化粧を施す。
遺族には大層感謝されたが、そんなことは正直どうでもよかった。無機質に事務的なやり取りをするだけ。
仕事を終え、帰宅し、着替えなどを済ませた後。槙雄は鞄に入れていたテディベアのテッドを取り出した。
「ただいま」
『おかえり、まきくん』
テッドの声は、槙雄にしか聴こえない。
テッドは、槙雄が生まれた時に祖母が贈ってくれた高価なテディベアである。物心ついた時から、ずっと槙雄とテッドは友達だ。
槙雄の趣味は、ひとり旅だが、正確には違う。旅行でも何でも、いつも彼はテッドと共にいる。
「少し疲れたな」
『まきくん、お仕事お疲れ様』
「ありがとう、テッド」
ふたりは、夕食を摂ることにした。
キッチンに立つ槙雄を、テッドが見守る。
槙雄は、手際よくホワイトシチューを作った。コーヒーを淹れ、帰り道で買ってきたパンを添えて、夕食は完成する。
最後に、小さな器にシチューを入れて、椅子に座るテッドの前に置いた。
「いただきます」
『いただきます』
料理は、上出来。テッドも美味しそうに食べている。と、槙雄は認識した。
「人間ってのは面倒くさいよ、テッド」
『それでも、人と関わらないと生きていけないからね。まきくんは偉いよ』
「ありがとう」
テッドの前でしか見せない、槙雄の柔らかい笑み。同僚が見たら、仰天するだろう。
「今度は、どこに旅行に行こうか?」
『カナダ!』
「海外は無理だよ。浅間温泉はどう?」
『いいね』
「じゃあ、決まりだ」
いつもの風景。穏やかな日常。翌日、それは崩されることになる。
槙雄が仕事場へ行くと、新人の教育係をするように言われた。
断るための言い訳がない。
「僕は、最低限のことしか君に教えられないから」
「はい。よろしくお願いします」
新人は、素直に返事をした。
怠い。帰りたい。
そんな気持ちを押し込めて、槙雄は指導をした。
「狭山さん、ありがとうございました」
「ああ。お疲れ様」
「お疲れ様です」
やっと帰れる。定時に帰宅し、槙雄はネクタイを緩めて、ソファーにどかっと座った。
『まきくん、大丈夫?』
隣に座るテッドが心配そうにしている。
「大丈夫。所詮人なんて、糞の詰まった肉袋に過ぎない」
『おれは、綿が詰まった布に過ぎない?』
「まさか。テッドは、僕の友達だよ」
『そっか』
狭山槙雄。26歳。職業、納棺師。
家族や友人や恋人はいない。
友達は、可愛いクマが一匹。