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昨日は夏だった。だから、今日も夏だと思う。
目覚めると周りは暗闇で、なんだか冷んやりしている。
「ここは……? 誰かいないのか……?」
立ち上がろうとすると、頭が木の板にぶつかる。それを押し上げようと両手で触れると、ぱらぱらと何かが落ちてきた。
土だ。
体育座りをしている男は、周りを木の板で囲まれている。男は、ほとんど身動きが取れない大きさの正方形の木箱の中におり、その上には土がある。
古墳内部の棺を納める玄室のような地中に、男はいる。埋葬されたかのようだが、男の心臓は脈打っているし、息苦しさを感じているので、生きているのだろう。
男の背中を冷たい汗が伝う。
(閉じ込められた……のか……?)
冗談にしては、悪趣味である。男は記憶の糸を手繰ることにしたが、夜に友人と別れた後のことは思い出せなかった。
そうこうしていると、突然、箱の中で風鈴の音が鳴り響いた。男が設定した、正午を知らせる携帯電話のアラームだ。
(た、助かった…………)
箱の隅にある携帯電話の光る画面が、希望に満ちたものに見えた。
急いでアラームを止める。早く、外部と連絡を取らなくてはならない。
「あ……うそ…………」
画面を驚愕の表情で見つめる男は、背筋が凍るような感覚に襲われた。充電が、切れかかっていたのだ。残量表示は、無情にも警告色である黄色をしている。
(マズい……マズいマズいマズい……!)
土の下の男は、震える指で懸命に、急いで警察に電話をした。永遠のような数回のコール音の後、警察官の男が受話器を取った。
「頼む! 早く助けてくれ……!」
『事件ですか? 事故ですか?』
「土の中にいるんだ!」
『土の中?』
「地面の下なんだよ! そうとしか思えない!」
『それは、どちらのでしょうか?』
「そんなこと分かるかよ……! 早く探してくれ! 息苦しい! 充電が切れそうなんだ! ここから出してくれ!」
『落ち着いてください』
「落ち着いてられるか! あんた、なんでそんな呑気なんだよ!」
『まず、お名前を教えてください』
「ミョウジナマエだ……なあ、怒鳴って悪かったけど、切羽詰まってるんだ…………この中、空気穴とか無いんだよ……」
ようやく呼吸を整えようと意識することが出来たが、相変わらず恐怖で押し潰されそうだ。
『ミョウジさん、何があったか詳しく教えてください』
「起きたら木箱の中で、出られない。たぶん地面の下にいる」
『怪我はありますか?』
「いや、頭痛が酷いが…………ちくしょう、頭にこぶが出来てやがる……」
『周りには何がありますか?』
「木箱の中には、俺と土しかない」
画面の明かりで見回したが、この状況を打開できる何かは無かった。
『閉じ込めた者に心当たりは?』
「……ないよ。こんなことされる謂れがあるか……?」
『では、あなたの住所を――――』
急に、音声が途切れた。
「ああっ……!」
画面に「充電をしてください」とメッセージが表示された数秒後に、携帯電話はただの板切れと化した。
「誰か! ここから出してくれ!」
何度も何度も叫んだが、最早泣き声のようになったそれは、土中を這いずるミミズにしか届かなかった。
彼は夢にも思わないだろうが、ナマエが地に埋められたのは好意からである。狂気を帯びてはいたものの、悪意あってのことではなかった。だから、犯人に少しの理性があれば、息が出来るように計らったに違いない。
目覚めると周りは暗闇で、なんだか冷んやりしている。
「ここは……? 誰かいないのか……?」
立ち上がろうとすると、頭が木の板にぶつかる。それを押し上げようと両手で触れると、ぱらぱらと何かが落ちてきた。
土だ。
体育座りをしている男は、周りを木の板で囲まれている。男は、ほとんど身動きが取れない大きさの正方形の木箱の中におり、その上には土がある。
古墳内部の棺を納める玄室のような地中に、男はいる。埋葬されたかのようだが、男の心臓は脈打っているし、息苦しさを感じているので、生きているのだろう。
男の背中を冷たい汗が伝う。
(閉じ込められた……のか……?)
冗談にしては、悪趣味である。男は記憶の糸を手繰ることにしたが、夜に友人と別れた後のことは思い出せなかった。
そうこうしていると、突然、箱の中で風鈴の音が鳴り響いた。男が設定した、正午を知らせる携帯電話のアラームだ。
(た、助かった…………)
箱の隅にある携帯電話の光る画面が、希望に満ちたものに見えた。
急いでアラームを止める。早く、外部と連絡を取らなくてはならない。
「あ……うそ…………」
画面を驚愕の表情で見つめる男は、背筋が凍るような感覚に襲われた。充電が、切れかかっていたのだ。残量表示は、無情にも警告色である黄色をしている。
(マズい……マズいマズいマズい……!)
土の下の男は、震える指で懸命に、急いで警察に電話をした。永遠のような数回のコール音の後、警察官の男が受話器を取った。
「頼む! 早く助けてくれ……!」
『事件ですか? 事故ですか?』
「土の中にいるんだ!」
『土の中?』
「地面の下なんだよ! そうとしか思えない!」
『それは、どちらのでしょうか?』
「そんなこと分かるかよ……! 早く探してくれ! 息苦しい! 充電が切れそうなんだ! ここから出してくれ!」
『落ち着いてください』
「落ち着いてられるか! あんた、なんでそんな呑気なんだよ!」
『まず、お名前を教えてください』
「ミョウジナマエだ……なあ、怒鳴って悪かったけど、切羽詰まってるんだ…………この中、空気穴とか無いんだよ……」
ようやく呼吸を整えようと意識することが出来たが、相変わらず恐怖で押し潰されそうだ。
『ミョウジさん、何があったか詳しく教えてください』
「起きたら木箱の中で、出られない。たぶん地面の下にいる」
『怪我はありますか?』
「いや、頭痛が酷いが…………ちくしょう、頭にこぶが出来てやがる……」
『周りには何がありますか?』
「木箱の中には、俺と土しかない」
画面の明かりで見回したが、この状況を打開できる何かは無かった。
『閉じ込めた者に心当たりは?』
「……ないよ。こんなことされる謂れがあるか……?」
『では、あなたの住所を――――』
急に、音声が途切れた。
「ああっ……!」
画面に「充電をしてください」とメッセージが表示された数秒後に、携帯電話はただの板切れと化した。
「誰か! ここから出してくれ!」
何度も何度も叫んだが、最早泣き声のようになったそれは、土中を這いずるミミズにしか届かなかった。
彼は夢にも思わないだろうが、ナマエが地に埋められたのは好意からである。狂気を帯びてはいたものの、悪意あってのことではなかった。だから、犯人に少しの理性があれば、息が出来るように計らったに違いない。