あなたが選んだのが、あたしだったなら。
　あたし、あなたと毎日、笑顔でいられたよ。
　あたし、あなたに毎日、ハンドマッサージしたよ。
　あたし、あなたが毎日、“ウィズダムの浄”じゃなくてもよかったよ。
　あたし、あなたと、ただ幸せになりたかったよ。
　恋路が閉ざされても、恋心が消えるワケじゃない。
　派手に失恋しても、恋心自体を失うワケじゃない。
　あなたにつけた引っ掻き傷は、もう綺麗になっただろうか？
　あたしのボロボロになったネイルは、いつ綺麗になるだろうか？
　本当に、もう会えないの？
　こんなに最悪な現実の中でも、生きていれば空腹になる。嫌になる。
　冷蔵庫は、空っぽだ。あたしは、ボサボサの髪に部屋着のままでコンビニへ向かう。
　夜道。街灯の下で、何かが光っているのを見た。
　それは、美しい石で。あたしは、それを手に取り、見入った。

◆◆◆

「浄」
「ん？　どうかした？」

　ふたりがけのソファーに座っているあたしたちは、近距離でお互いの目を合わせる。

「いや、あたし、何か悪い夢を見ていた気がする…………」
「大丈夫さ。君には、俺がいるから」
「そうだよね。あたしには、あなたがいる」
「それにしても、今日も綺麗だね」
「えっ！？」

　心臓が、ドキドキした。頬が熱くなる。

「そのネイル。スカルプチュアネイルだっけ？」
「ああ、うん。そうだよ。って、ネイルだけ？」
「まさか。君の全てが美しいよ」

　浄は、あたしの手を取り、キスを落とした。

「あははっ！　ありがと！」

　昔のあたしだったら、キザったらしいと思ったかもしれない。でも、あなたと出会って、あたしは変わった。レディに優しい浄のことが大好き。
　それに何より。

「あたしのことを好きなあなたが、大好きだよ」

　きっとあたしは、浄がいないとダメになってしまう。そんな気がした。

「愛してるよ」
「あたしも」

　浄とキスをした少し後、幸せな魔法は解けてしまった。
　ゆるさないから。お前たちのことを。