これを何と形容すればいいのだろう？
　まるで、ひび割れたガラスの器のよう？
　一旦、そういうことにしてみようか。
　その器に水を注いでも、満たされることはなく、存在する限り渇き続ける。
　叶わぬ願いを抱き、果てしない夢を見る者。それが私。
　私の生きる意味。そんな大層なものではないが、私という歪な器は、いつまでも欲深くあり続けた。
　ひとつ返事を受け取れば、十の好意が欲しくなる。十をもらえば、百の称賛が欲しくなる。
　尽きることのない渇望。
　私は、呼吸をするように文章を綴ってきた。
　美しいものを見た時。心揺さぶられる物語を目にした時。
　世界を変えたいと思った時。永遠に手を伸ばしたいと感じた時。
　私の指先は、言葉を紡いできた。
　最初に書いた物語は、小学校での国語の授業の課題で。オリジナリティなんて、まるでなかった。
　それでも、私が書かない理由にはならないと。今まで見てきた物語のようなものを創り出したいと願った。
　中学生の時分には、ノートに小説を書いて、同じように創作をする友達とお互いの作品を読み合った。
　高校生になった時は、ガラケーのメール機能で小説を書いて、ひとりでそれを楽しんだ。
　大学生には、なれなかった。精神を患い、わずか十日で、私は大学へ通えなくなったから。
　成人してから、私は、自分が“何者にもなれない”と気付いた。
　しかし、それも書かない理由にはならなかった。
　私は、コミッションサイトで依頼を受けるようになった。
　そして文筆家の端くれとして生きて、物語にさえ救いが見出だせなくなったこともあったが、結果的には死ななかったので生きている。
　ある日、私のオリジナル小説のキャラクターが、現実に現れた。
　君は、「何故、私の家族をめちゃくちゃにした？！」と、私の胸ぐらを掴んで言う。
　私は、君の目を見つめて答えた。
「物語として必要だったから」と。
　君は後退り、力なく膝をつく。

「言い訳はない。謝る気もない。書くのをやめるつもりもない」

　器は、まだ満たされていないのだから。
　君が絶望しても、私が書かない理由にはならなかった。