「私は、あなたなんですよ」

　人見広介の眼前には、笑顔を浮かべる探偵の男。殺したはずの男。

「人見先生、✕✕✕✕✕を償いましょう。自分を✕✕✕✕✕し、他人を✕✕✕✕✕するんです」

　探偵の言葉は、酷くノイズがかっている。
　人見が拒絶しているからだ。
　彼には気付けないが、探偵と人見広介は、瓜二つの見た目をしている。しかし、表情や雰囲気が全く違った。
　笑顔で、柔らかな雰囲気の男。陰鬱な顔で、虚無的な雰囲気の男。
　あなたと私。不完全な双児形。
　元々は、ひとつだったはずなのに。別たれた男たちは、最早相容れない。

「お前に何が分かる？！」
「全てお見通しですよ。私は、探偵なんですから」

　人見が激昂しても、男は変わらず笑みを浮かべている。

「僕を見るな！」
「いえ、瞳逸らさず見せていただきます。それが私の役割です」

　探偵とは、そういうものらしい。
　あなたを見守り、断罪し、愛す者。それが、私。
　パノラマ島を終わらせに来た名探偵。人見広介を解体しに来た男。
　己の性質上、彼は解き続けなくてはならない。人見広介という問題を。
　己の性質上、彼は説き続けなくてはならない。人見広介という犯人に。
　高田望美。田町まひる。目黒御幸。上野こより。少女たちと同じように、探偵は人見から生じた者である。

「私は、私たちは、あなたに殺されても復活します。そういうものです」
「ワケの分からないことを言うな」
「そんなに怒らないでくださいよ。私は、あなたの敵ではないんですからね」

　男の台詞は、人見の心には届いていない。
　それを理解していながら、笑みを絶やさずに探偵は続けた。

「そろそろ、いいんじゃないですか？　あなたも幸せになって」
「…………」
「あなたが幸せになることが、私の幸せなんですよ」

　人見は、探偵のことを胡散臭いと思う。
　お前は、いつも笑っていて、幸せそうじゃないか。
　人見広介は、探偵の正体を見ようとはしなかった。