一次創作夢
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休日。男は、シックな内装のリビングで本を読んでいる。それは、愛坂狂次が所属している協会の情報部勤務の女性が貸してくれたものだ。
文庫本のページをめくりながら、狂次は考える。本の持ち主、猫坂雛子のことを。
彼女とは、親しい間柄、だと思う。最初こそ、狂次の風貌に驚いた様子だったものの、今では、すっかり普通に接してくれている。それは、狂次にとっては、ありがたいことだった。
何せ、包帯とガーゼで両目が隠れているものだから、怪異のような扱いをされがちなのである。
「狂次さんの隣って、落ち着くんですよね」と、彼女はいつだか言っていたか。
落ち着く? こんな男の側が?
狂次には、疑問だった。
愛坂狂次に一番慣れているのは、間違いなく双子の弟の慧三である。
兄を、「きょーちゃん」と呼び、慕ってくれている血を分けた弟。大切な家族。
そこは間違いなく、狂次の心の中の特別席。
雛子に借りた、「好き?好き?大好き?」というタイトルの詩集を読み進める。難解なようで、実に素朴な愛が語られており、興味深い内容だ。
狂次の趣味が、本当は読書ではないことを、雛子には、まだ告げられていない。
「趣味ですか? 読書ですよ」
「そうなんだ。あたしも、読書が好きなんだよね」
「おや、奇遇ですね」
なんて、やり取りをしたのは、もう随分と前のことだ。
少し悪い気もするが、趣味のない仕事人間だと思われるのは嫌で。人殺ししか能のない男と思われるのも嫌で。
狂次は、自分が弟だったら、彼女ともっと色々話せただろうに。と考えた。
慧三は、そのほとんどがろくでもないとはいえ、多趣味で。その上、女性の扱いが上手い。
「ふぅ…………」
ゆっくりと詩集を読み終え、狂次は一息ついた。
今度、情報部に寄って返そう。
その晩、慧三が突然に来訪した。
「きょーちゃん、泊めて~!」
「はいはい。玄関先で騒がないでくださいね、慧三君」
「はーい」
いい返事をしながら、弟が中にやって来る。
「きょーちゃん?」
「はい」
リビングのソファーに座った弟が、不思議そうに狂次を呼んだ。
「この本、誰の?」
「それは……」
少しだけ、言葉に詰まる。
「知人のものですよ」
「ふーん」
「何故、私のものでないと分かったのですか?」
「すぐ分かるよ~。きょーちゃんと違う匂いがするもん」
「……なるほど」
狂次の私物は、ペンハリガンのブレナムブーケの香りが移っているのだ。
「これさぁ、女の子のじゃない?」
「はい。協会の情報部の方で、雛子さんといいます」
「ひなちゃんかぁ。仲良いの?」
「悪くはありませんよ」
「そっか。女の子には、プレゼントをあげるといいよ」
「例えば、どのような?」
それは、自分の中にはない発想であった。
「なんでもいいんだよ。きょーちゃんを思い出せるものなら、なんでも」
「そうですか」
後日。
「雛子さん。詩集、読み終わりました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「それから、こちらをどうぞ」
「これは?」
「日頃のお礼です。大したものではありませんが」
「ありがとう、狂次さん」
彼女の笑顔に、ほっとした。
渡した包みの中は、羽根を象った和紙の栞である。
その栞からは、柑橘の鮮やかな香りがした。
文庫本のページをめくりながら、狂次は考える。本の持ち主、猫坂雛子のことを。
彼女とは、親しい間柄、だと思う。最初こそ、狂次の風貌に驚いた様子だったものの、今では、すっかり普通に接してくれている。それは、狂次にとっては、ありがたいことだった。
何せ、包帯とガーゼで両目が隠れているものだから、怪異のような扱いをされがちなのである。
「狂次さんの隣って、落ち着くんですよね」と、彼女はいつだか言っていたか。
落ち着く? こんな男の側が?
狂次には、疑問だった。
愛坂狂次に一番慣れているのは、間違いなく双子の弟の慧三である。
兄を、「きょーちゃん」と呼び、慕ってくれている血を分けた弟。大切な家族。
そこは間違いなく、狂次の心の中の特別席。
雛子に借りた、「好き?好き?大好き?」というタイトルの詩集を読み進める。難解なようで、実に素朴な愛が語られており、興味深い内容だ。
狂次の趣味が、本当は読書ではないことを、雛子には、まだ告げられていない。
「趣味ですか? 読書ですよ」
「そうなんだ。あたしも、読書が好きなんだよね」
「おや、奇遇ですね」
なんて、やり取りをしたのは、もう随分と前のことだ。
少し悪い気もするが、趣味のない仕事人間だと思われるのは嫌で。人殺ししか能のない男と思われるのも嫌で。
狂次は、自分が弟だったら、彼女ともっと色々話せただろうに。と考えた。
慧三は、そのほとんどがろくでもないとはいえ、多趣味で。その上、女性の扱いが上手い。
「ふぅ…………」
ゆっくりと詩集を読み終え、狂次は一息ついた。
今度、情報部に寄って返そう。
その晩、慧三が突然に来訪した。
「きょーちゃん、泊めて~!」
「はいはい。玄関先で騒がないでくださいね、慧三君」
「はーい」
いい返事をしながら、弟が中にやって来る。
「きょーちゃん?」
「はい」
リビングのソファーに座った弟が、不思議そうに狂次を呼んだ。
「この本、誰の?」
「それは……」
少しだけ、言葉に詰まる。
「知人のものですよ」
「ふーん」
「何故、私のものでないと分かったのですか?」
「すぐ分かるよ~。きょーちゃんと違う匂いがするもん」
「……なるほど」
狂次の私物は、ペンハリガンのブレナムブーケの香りが移っているのだ。
「これさぁ、女の子のじゃない?」
「はい。協会の情報部の方で、雛子さんといいます」
「ひなちゃんかぁ。仲良いの?」
「悪くはありませんよ」
「そっか。女の子には、プレゼントをあげるといいよ」
「例えば、どのような?」
それは、自分の中にはない発想であった。
「なんでもいいんだよ。きょーちゃんを思い出せるものなら、なんでも」
「そうですか」
後日。
「雛子さん。詩集、読み終わりました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「それから、こちらをどうぞ」
「これは?」
「日頃のお礼です。大したものではありませんが」
「ありがとう、狂次さん」
彼女の笑顔に、ほっとした。
渡した包みの中は、羽根を象った和紙の栞である。
その栞からは、柑橘の鮮やかな香りがした。