男が、張り付けたような笑みを浮かべながら言った。

「人見先生、自分のことも他人のことも、愛してあげられないんですか？」
「は？」

　この男は、自称探偵である。
　行方不明の少女を探しているらしい。

「それが、あなたの罪なんですよ」
「罪…………」
「いいじゃないですか。ろくでもなくても、幸せになれば」
「…………」

　今、僕のことをろくでもないクズだと言ったか？
　探偵は、ずっと微笑んでいる。

「うるさい！」

　僕は、彼の前から逃げるように去った。
　なんなんだ？　アイツは？
　その晩、僕は夢を見た。悪夢だ。
「先生が悪いんですよ？　少女にあんなことして」と、探偵は笑顔で詰ってくる。
　目覚めた時、胃液が喉元まで上がってきていて。僕は、トイレまで走った。

「う、おぇ……げほっ…………」

　床に膝をつき、白い便器の中に吐瀉する。
「先生」と、あの男の声。

「あなたが罪を認めないから、天使さまにも見限られるんです」
「うぅ…………」

　僕は。僕は、追い詰められている。
　それでも、放課後には探偵と会った。

「人見先生。顔色が悪いですね？」

　誰のせいだと思ってる。

「もう僕に構うな」
「そう言われましても。私は、あなたのことが心配なんです」
「僕を断罪したいだけだろう！」
「……いいえ。私とあなた。不完全な相似形。私は、あなたなんですから」

　探偵は、困り笑いをして言った。

「同じ顔。同じ身長。同じ声。ただ、表情だけが違う。それが、私たちです」
「消えろ」

「また来ます」と言って、男は去る。
　その後。煙草を吸っていると、保険医の大森となえがやって来た。

「例の人、また来たのかい？」
「はい」
「なんて？」
「あの男は、僕だそうです。デマカセですよ、あんなのは」
「そう…………」

　となえは、隣で煙草を吸い始めている。
　あの探偵は、喫煙をするんだろうか？
　得体の知れない奴だ。