うちよそ
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ずっと、ずっと旅をしている。旅のお供は、夜空の星と、友人が誂えてくれた素敵な服。
私の暗い青色の衣装は、とんがり帽子と、騎士が着ているような服と、マントと、ロングブーツだ。
それらを制作したのは、クロエ・コリンズという者である。数年前に知り合った彼は、卓越したセンスの持ち主で、私の要望通りの素晴らしい服を作ってくれた。
私は、旅する星見の魔女だ。ミュリエル・ピエルネは、そういう生き方しかしたくない者である。
そんな私は、久々に西の国を訪れた。
しかし、クロエはいない。もしかして、ラスティカと、どこかを旅しているのだろうか?
私は、クロエについて、情報収集をする。どうやらクロエは、賢者に召喚され、中央の国にいるらしい。
なるほど、なるほど。では、中央まで会いに行けばいいだけのことだ。
私は、ミュリエル。旅する星見の魔女なのだから。颯爽とマントを翻し、私は箒で飛んだ。
◆◆◆
夜空を飛ぶのは好きだ。星明かりが好きだ。私はいつだって、この美しい星空を愛している。飛行時間は、いくらあっても構わない。苦ではない。
明け方、私は、中央の国の“魔法舎”へと到着した。
そして、入り口で、彼を待つ。今日、この時間、それが最善。星に訊いたのだから、間違いはない。
少しして、足音が聴こえてきた。扉が開かれる。
「わっ!? ミュリエル?!」
「久し振りね、クロエ」
待ち人が来た。クロエは、元気そうだ。よかった。
「クロエ、あなた、賢者の魔法使いになったのでしょう?」
「うん。そうなんだ。あ、彼女は、友達のミュリエル。星見の魔女だよ」
扉の影に隠れていた人物に、クロエは私を紹介する。
「ミュリエル、彼が賢者様で……それで……」
「おれは、直隈……です。よろしくお願いします」
「かしこまらないで。そういうの、苦手なの」
「はい…………」
かしこまっているように見える。仕方ないか。私はどうも、つっけんどんな印象を与えてしまうから。
「クロエ。それから、スグマ。これはお土産よ」
私は、途中で買ったパウンドケーキを渡した。
「ありがとう、ミュリエル。直隈、ミュリエルも、中でお茶にしよう」
「うん」
「あら、それじゃあ、失礼するわね」
私は、少々無遠慮に、中へと入る。
食堂へと案内されて、席に着く。クロエは、ハーブティーを用意してくれた。よい香りがする。
とりあえず、私は旅の話をした。私が見てきた、美しい景色のこと。私が感じた、心地よい夜風のこと。出会った人々との思い出。
それから、私が西の国出身であることや、星見の占い師をしていることなども話す。
そして。いささか、唐突になってしまったが、「ところで、あなたたちって、恋人同士よね?」と尋ねた。
「そうだよ」
「は、はい!」
クロエは、隣の恋人を見て、ニコニコとしている。スグマは、姿勢を正した。その様子が、少しおかしくて、可愛らしくて、思わず口角が上がる。
「おめでとう。ふたりの縁が結ばれたことは、かけがえのないことだわ」
「ありがとう、ミュリエル」
「あ、ありがとう……」
「星見の魔女が断言するわ。あなたたちの愛は、永遠よ」
「ミュリエルがそう言ってくれると、心強いよ」
「あのー」
「なあに?」
「……愛ってなんですか?」
スグマが、遠慮がちに片手を挙げて、質問した。
「珍しい問いね」
「そうなの?!」
「ええ」
星見の魔女の決まり文句に対して、“永遠なんてない”とか、“永遠なんて計れない”とか、散々言われてきたけれど。“永遠”に価値を見出だすのは、幼児性だと、叱られたけれど。
「なるほどね。あなたは、恋と愛の違いが気になるのかしら?」
「はい…………」
「私、つまらないことを言うわ。人それぞれよってね。それとも、恋は、一方的でも構わないもの。愛は、双方向の慈しみのこと。とか、もっともらしく答えるべきかしら?」
「それは、ミュリエルの見解?」
クロエは問う。
「いいえ。私の考えは、そうね……恋は、憧れ。星に手を伸ばすこと。愛は、受容。手に入れた星の輝きを大切にすること。かしらね?」
「星見の魔女らしい答えだね。直隈は、どう思う?」
「うーん、と。自己犠牲……?」
「え!?」
クロエが、驚いた声を上げた。
「あ!? 違うよ?! 別に、おれが自分を犠牲にしてるとかじゃなくて!」
ふたりで、わーわー言い出す。賢者曰く、「漫画では」とか「感情が」とか「愛の定義とは」とか。なんだか、色々な言葉が飛び交う。
「答えを出さなきゃいけないことじゃないと思うわよ」
「…………」
ふたりは、しん、と静まり返った。
依存と愛の違いとは? 恋は尊くなくて、愛は尊いのか? 愛情だって、一方的に持てるのでは?
「私は、常に問い続けているわ。生きている限り、そうすることでしょう」
愛について、考え続けることも、愛足り得るのではないだろうか?
きっと、クロエ・コリンズは、「愛してる」が言える。では、彼の恋人は? 私には、分からない。
けれど、ふたりが共にいて、それが幸福だというのなら、それでいいはずだ。
「つべこべ言わずに、あなたたちを言祝いだ星見の魔女に報いなさいな」
私は、わざと偉ぶった口調で述べる。
私が何をしに来たのか。それは、とても単純な話。友人と、その恋人に、たったひとつの贈りものをするためである。
「幸せになりなさい」
微笑みながら、ふたりへ最後の言葉を贈った。星明かりのような、祈りを。あなたたちに、幸いあれ、と。
◆◆◆
ずっと、ずっと旅をしている。旅のお供は、夜空の星と、友人が誂えてくれた素敵な服。
私は、ミュリエル・ピエルネ。星見の魔女だ。
全ての星への祈りを叶えることは出来ないけれど、この手を伸ばさずにはいられない。そんな、ありふれた存在である。
人それぞれの、美しい想い。それらを、永遠のものだと信じていたい、よくある話だ。
私は、星を見る。私は、祈り続ける。
そういう生き方しかしたくない者である。
私の暗い青色の衣装は、とんがり帽子と、騎士が着ているような服と、マントと、ロングブーツだ。
それらを制作したのは、クロエ・コリンズという者である。数年前に知り合った彼は、卓越したセンスの持ち主で、私の要望通りの素晴らしい服を作ってくれた。
私は、旅する星見の魔女だ。ミュリエル・ピエルネは、そういう生き方しかしたくない者である。
そんな私は、久々に西の国を訪れた。
しかし、クロエはいない。もしかして、ラスティカと、どこかを旅しているのだろうか?
私は、クロエについて、情報収集をする。どうやらクロエは、賢者に召喚され、中央の国にいるらしい。
なるほど、なるほど。では、中央まで会いに行けばいいだけのことだ。
私は、ミュリエル。旅する星見の魔女なのだから。颯爽とマントを翻し、私は箒で飛んだ。
◆◆◆
夜空を飛ぶのは好きだ。星明かりが好きだ。私はいつだって、この美しい星空を愛している。飛行時間は、いくらあっても構わない。苦ではない。
明け方、私は、中央の国の“魔法舎”へと到着した。
そして、入り口で、彼を待つ。今日、この時間、それが最善。星に訊いたのだから、間違いはない。
少しして、足音が聴こえてきた。扉が開かれる。
「わっ!? ミュリエル?!」
「久し振りね、クロエ」
待ち人が来た。クロエは、元気そうだ。よかった。
「クロエ、あなた、賢者の魔法使いになったのでしょう?」
「うん。そうなんだ。あ、彼女は、友達のミュリエル。星見の魔女だよ」
扉の影に隠れていた人物に、クロエは私を紹介する。
「ミュリエル、彼が賢者様で……それで……」
「おれは、直隈……です。よろしくお願いします」
「かしこまらないで。そういうの、苦手なの」
「はい…………」
かしこまっているように見える。仕方ないか。私はどうも、つっけんどんな印象を与えてしまうから。
「クロエ。それから、スグマ。これはお土産よ」
私は、途中で買ったパウンドケーキを渡した。
「ありがとう、ミュリエル。直隈、ミュリエルも、中でお茶にしよう」
「うん」
「あら、それじゃあ、失礼するわね」
私は、少々無遠慮に、中へと入る。
食堂へと案内されて、席に着く。クロエは、ハーブティーを用意してくれた。よい香りがする。
とりあえず、私は旅の話をした。私が見てきた、美しい景色のこと。私が感じた、心地よい夜風のこと。出会った人々との思い出。
それから、私が西の国出身であることや、星見の占い師をしていることなども話す。
そして。いささか、唐突になってしまったが、「ところで、あなたたちって、恋人同士よね?」と尋ねた。
「そうだよ」
「は、はい!」
クロエは、隣の恋人を見て、ニコニコとしている。スグマは、姿勢を正した。その様子が、少しおかしくて、可愛らしくて、思わず口角が上がる。
「おめでとう。ふたりの縁が結ばれたことは、かけがえのないことだわ」
「ありがとう、ミュリエル」
「あ、ありがとう……」
「星見の魔女が断言するわ。あなたたちの愛は、永遠よ」
「ミュリエルがそう言ってくれると、心強いよ」
「あのー」
「なあに?」
「……愛ってなんですか?」
スグマが、遠慮がちに片手を挙げて、質問した。
「珍しい問いね」
「そうなの?!」
「ええ」
星見の魔女の決まり文句に対して、“永遠なんてない”とか、“永遠なんて計れない”とか、散々言われてきたけれど。“永遠”に価値を見出だすのは、幼児性だと、叱られたけれど。
「なるほどね。あなたは、恋と愛の違いが気になるのかしら?」
「はい…………」
「私、つまらないことを言うわ。人それぞれよってね。それとも、恋は、一方的でも構わないもの。愛は、双方向の慈しみのこと。とか、もっともらしく答えるべきかしら?」
「それは、ミュリエルの見解?」
クロエは問う。
「いいえ。私の考えは、そうね……恋は、憧れ。星に手を伸ばすこと。愛は、受容。手に入れた星の輝きを大切にすること。かしらね?」
「星見の魔女らしい答えだね。直隈は、どう思う?」
「うーん、と。自己犠牲……?」
「え!?」
クロエが、驚いた声を上げた。
「あ!? 違うよ?! 別に、おれが自分を犠牲にしてるとかじゃなくて!」
ふたりで、わーわー言い出す。賢者曰く、「漫画では」とか「感情が」とか「愛の定義とは」とか。なんだか、色々な言葉が飛び交う。
「答えを出さなきゃいけないことじゃないと思うわよ」
「…………」
ふたりは、しん、と静まり返った。
依存と愛の違いとは? 恋は尊くなくて、愛は尊いのか? 愛情だって、一方的に持てるのでは?
「私は、常に問い続けているわ。生きている限り、そうすることでしょう」
愛について、考え続けることも、愛足り得るのではないだろうか?
きっと、クロエ・コリンズは、「愛してる」が言える。では、彼の恋人は? 私には、分からない。
けれど、ふたりが共にいて、それが幸福だというのなら、それでいいはずだ。
「つべこべ言わずに、あなたたちを言祝いだ星見の魔女に報いなさいな」
私は、わざと偉ぶった口調で述べる。
私が何をしに来たのか。それは、とても単純な話。友人と、その恋人に、たったひとつの贈りものをするためである。
「幸せになりなさい」
微笑みながら、ふたりへ最後の言葉を贈った。星明かりのような、祈りを。あなたたちに、幸いあれ、と。
◆◆◆
ずっと、ずっと旅をしている。旅のお供は、夜空の星と、友人が誂えてくれた素敵な服。
私は、ミュリエル・ピエルネ。星見の魔女だ。
全ての星への祈りを叶えることは出来ないけれど、この手を伸ばさずにはいられない。そんな、ありふれた存在である。
人それぞれの、美しい想い。それらを、永遠のものだと信じていたい、よくある話だ。
私は、星を見る。私は、祈り続ける。
そういう生き方しかしたくない者である。