創作企画「冥冥の澱」2
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全てが偽りだったら良かったのに。狐憑きであること。人殺しであること。呪術の存在。来目聖爾が、赤城燈哉を愛している事実。
全てが、反転してしまった。本来は、人間であることが偽りだったのに。逆さまの祈り。
ふたり分のコーヒーを淹れる。
「燈哉」
「ありがとう、聖爾」
カップを受け取る燈哉。
「燈哉、あの話なんだけどよ。20年分くれるってやつ。あれ、いらねぇから。こんな命に、そんな価値ねぇし。それに、燈哉へやるものには、ちゃんとした金しか使わねぇから」
「でも……」
「ほんとに、いいから。頼むよ」
「聖爾……」
そんな顔するな。オレなんかのために。
「オレは、燈哉に償い切れないことをした。だからせめて、これくらいは、許してくれ」
「考えさせてほしい」
「分かった」
嘘だよ。人殺しなんて。呪術なんてないよ。嘘だよ。燈哉のことが好きなんて。だからもう、オレの前からいなくなったっていいから。
そう、言えたらよかったのに。どうしても、言えない。
燈哉を失ったら、聖爾は死ぬことになる。燈哉は、聖爾に「生きて」と言った。
それくらい、叶えてやらなきゃダメだろ。死んで逃げるなんて、ダメだろ。
ただ、気がかりなのは、燈哉の心のこと。
「なあ、燈哉は、オレの仕事には一切関係ねぇんだから、気に病むな」
「関係あるだろ……! だって、聖爾は、俺の……!」
コーヒーの水面が揺れる。
続きの言葉は、紡げなかった。聖爾は、きっと分かって言っている。
「ごめん」と、何度目かの聖爾の謝罪。
そうだ。“普通”は、恋人が人殺しだったら、関係ないなんて思えない。
そうなんだろうな、と聖爾は考えた。
「燈哉、オレの殺しは、呪術によるものだ。そんなもの、本当にあると思うか?」
「……分からない」
「ねぇよ、そんなの。そういう妄想をしてる奴なんだよ、オレは。金は、もっと別の仕事で集めただけだよ。そういうことにしとけ」
「…………」
聖爾は、化物なりに燈哉の心を守ろうとするが、効果があるかは分からない。
「愛して、ごめん」
「……謝るな」
「……ああ」
アイツら、全員殺せば、それが最後の人殺しになるだろうか? 勝てるのか?
馬鹿なことを考えている。犬死にがオチだ。
いつか、他人を愛すると知っていたなら、殺し屋になんかならなかったのに。
殺し屋から足を洗って結婚する映画のことを思い出した。彼は、ひとりの女を幸せにしている。彼女の死後、闘いに巻き込まれるが、彼は負けない。
聖爾は、それを羨ましく思う。
燈哉、一緒に逃げてくれねぇかな?
どこか、遠くへ。何もかも捨てて、逃げられたなら。
楽園は、遠い。
全てが、反転してしまった。本来は、人間であることが偽りだったのに。逆さまの祈り。
ふたり分のコーヒーを淹れる。
「燈哉」
「ありがとう、聖爾」
カップを受け取る燈哉。
「燈哉、あの話なんだけどよ。20年分くれるってやつ。あれ、いらねぇから。こんな命に、そんな価値ねぇし。それに、燈哉へやるものには、ちゃんとした金しか使わねぇから」
「でも……」
「ほんとに、いいから。頼むよ」
「聖爾……」
そんな顔するな。オレなんかのために。
「オレは、燈哉に償い切れないことをした。だからせめて、これくらいは、許してくれ」
「考えさせてほしい」
「分かった」
嘘だよ。人殺しなんて。呪術なんてないよ。嘘だよ。燈哉のことが好きなんて。だからもう、オレの前からいなくなったっていいから。
そう、言えたらよかったのに。どうしても、言えない。
燈哉を失ったら、聖爾は死ぬことになる。燈哉は、聖爾に「生きて」と言った。
それくらい、叶えてやらなきゃダメだろ。死んで逃げるなんて、ダメだろ。
ただ、気がかりなのは、燈哉の心のこと。
「なあ、燈哉は、オレの仕事には一切関係ねぇんだから、気に病むな」
「関係あるだろ……! だって、聖爾は、俺の……!」
コーヒーの水面が揺れる。
続きの言葉は、紡げなかった。聖爾は、きっと分かって言っている。
「ごめん」と、何度目かの聖爾の謝罪。
そうだ。“普通”は、恋人が人殺しだったら、関係ないなんて思えない。
そうなんだろうな、と聖爾は考えた。
「燈哉、オレの殺しは、呪術によるものだ。そんなもの、本当にあると思うか?」
「……分からない」
「ねぇよ、そんなの。そういう妄想をしてる奴なんだよ、オレは。金は、もっと別の仕事で集めただけだよ。そういうことにしとけ」
「…………」
聖爾は、化物なりに燈哉の心を守ろうとするが、効果があるかは分からない。
「愛して、ごめん」
「……謝るな」
「……ああ」
アイツら、全員殺せば、それが最後の人殺しになるだろうか? 勝てるのか?
馬鹿なことを考えている。犬死にがオチだ。
いつか、他人を愛すると知っていたなら、殺し屋になんかならなかったのに。
殺し屋から足を洗って結婚する映画のことを思い出した。彼は、ひとりの女を幸せにしている。彼女の死後、闘いに巻き込まれるが、彼は負けない。
聖爾は、それを羨ましく思う。
燈哉、一緒に逃げてくれねぇかな?
どこか、遠くへ。何もかも捨てて、逃げられたなら。
楽園は、遠い。