うちよそ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
完全に“理解”されることなどない。持つ技術の全てを駆使して、知識を総動員して、情熱を注いだ作品は、ただ「美味しい」か「美味しくない」か、「美しい」か「美しくない」か、それくらいの感想とともに消費されるのが、いつものこと。
お前もそうだろ。そうでなくちゃ、僕は。
白雪天嶺は、少しの焦りを感じた。
「くそっ……意味分かんないし……」
「どうやら、私の台詞の意味が分かったようだな」
「…………」
一度だけ。一度だけ、ありすを試そうと考える。天嶺は、試作品のケーキを乗せた皿を、ありすに差し出した。
「下手なことを言ったら、叩き出すからな」
「ふふ。いいだろう」
ありすは不敵な笑みを浮かべ、一脚だけある椅子に座る。
「……ふむ、チョコレートケーキか。この飴細工の蝶、オオムラサキだな。日本の国蝶だ。紫色は格調高く、華麗で良い。ホワイトチョコレートで出来た白薔薇。花言葉は、純潔・深い尊敬・相思相愛など。このケーキは、いや、続きは食べてからにしよう」
ありすは、フォークを手にし、ケーキを切って口に運んだ。
「甘いミルクチョコレートだ。だが、くどくない。ベリーソースが挟んであるからだ。イチゴだな。あと、乗っている生クリームは植物性のものだ。後味がすっきりしている。甘さと癖のなさを追求したケーキなんだろう」
そう言ってからは、無言で食べ進め、ケーキを完食する。
「ごちそうさま。美味かった。このケーキは、お前が尊敬を込めたものだ。おそらく、恩師のために作ったもの。そうだろう?」
「…………」
その通りだった。本当に、“十全に理解”している。
「当たりのようだな。私の勝ちだ」
ありすは、笑顔で勝利宣言をした。
天嶺は、様々な感情で、ぐちゃぐちゃになっている。放心状態に近い。
「それじゃあ、私は出て行こう。だが、その前に」
鞄から、ボールペンとメモ帳を取り出し、何かを書くありす。メモ帳を1枚切って、天嶺の手に握らせた。
「私の連絡先だ。また、作品を食べてほしくなったら呼べ。嫌いなものやアレルギーや宗教的タブーはないから、気にしなくていいぞ」
そう言い残し、颯爽と去って行く。
「……業務再開だ」
「はい……!」
天嶺の一言で、厨房は、いつも通りに戻った。
右手を開き、メモ用紙を広げる。そこには、メッセージアプリのIDが書いてあった。
“お前の味方 灰崎ありすより”
最後に添えられた文が、天嶺の神経を逆撫でる。
ありすは、天嶺の人生に突然現れた異物だった。目障り。疎ましい。そして、僅かに恐ろしかった。
孤高の一番である自分の側に、いきなりやって来た彼女は、隠していた情熱を見抜き、天嶺をめちゃくちゃにする。
仕事が終わり、帰宅した後。
アプリで、ありすにメッセージを送った。
『いい気になるなよ』
すぐに既読がつき、返ってきた言葉は。
『私はいつも、いい気分だ』
『残念だったな、天嶺』
お前もそうだろ。そうでなくちゃ、僕は。
白雪天嶺は、少しの焦りを感じた。
「くそっ……意味分かんないし……」
「どうやら、私の台詞の意味が分かったようだな」
「…………」
一度だけ。一度だけ、ありすを試そうと考える。天嶺は、試作品のケーキを乗せた皿を、ありすに差し出した。
「下手なことを言ったら、叩き出すからな」
「ふふ。いいだろう」
ありすは不敵な笑みを浮かべ、一脚だけある椅子に座る。
「……ふむ、チョコレートケーキか。この飴細工の蝶、オオムラサキだな。日本の国蝶だ。紫色は格調高く、華麗で良い。ホワイトチョコレートで出来た白薔薇。花言葉は、純潔・深い尊敬・相思相愛など。このケーキは、いや、続きは食べてからにしよう」
ありすは、フォークを手にし、ケーキを切って口に運んだ。
「甘いミルクチョコレートだ。だが、くどくない。ベリーソースが挟んであるからだ。イチゴだな。あと、乗っている生クリームは植物性のものだ。後味がすっきりしている。甘さと癖のなさを追求したケーキなんだろう」
そう言ってからは、無言で食べ進め、ケーキを完食する。
「ごちそうさま。美味かった。このケーキは、お前が尊敬を込めたものだ。おそらく、恩師のために作ったもの。そうだろう?」
「…………」
その通りだった。本当に、“十全に理解”している。
「当たりのようだな。私の勝ちだ」
ありすは、笑顔で勝利宣言をした。
天嶺は、様々な感情で、ぐちゃぐちゃになっている。放心状態に近い。
「それじゃあ、私は出て行こう。だが、その前に」
鞄から、ボールペンとメモ帳を取り出し、何かを書くありす。メモ帳を1枚切って、天嶺の手に握らせた。
「私の連絡先だ。また、作品を食べてほしくなったら呼べ。嫌いなものやアレルギーや宗教的タブーはないから、気にしなくていいぞ」
そう言い残し、颯爽と去って行く。
「……業務再開だ」
「はい……!」
天嶺の一言で、厨房は、いつも通りに戻った。
右手を開き、メモ用紙を広げる。そこには、メッセージアプリのIDが書いてあった。
“お前の味方 灰崎ありすより”
最後に添えられた文が、天嶺の神経を逆撫でる。
ありすは、天嶺の人生に突然現れた異物だった。目障り。疎ましい。そして、僅かに恐ろしかった。
孤高の一番である自分の側に、いきなりやって来た彼女は、隠していた情熱を見抜き、天嶺をめちゃくちゃにする。
仕事が終わり、帰宅した後。
アプリで、ありすにメッセージを送った。
『いい気になるなよ』
すぐに既読がつき、返ってきた言葉は。
『私はいつも、いい気分だ』
『残念だったな、天嶺』