うちよそ
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あの女。思い出すだけで、腹が立つ。
あの女、灰崎ありす。昨日起こった嵐は、過ぎ去った後にも波紋を残した。
パティシエ、白雪天嶺は、いつも以上に苛立っている。男は、基本的に不機嫌で愛想がないのだが、今日は、目覚めてからずっと怒っていた。
昨日のことが、頭の中で、繰り返し繰り返し再生される。
「お前、この店のパティシエだな。白雪……天嶺……? そうだろう?」
女は、たまたま店の表で作業していた天嶺に話しかけてきた。灰色のロングヘアーを3ヶ所三つ編みにしている。綺麗な赤みがかった緑色の瞳。美しい肌。清楚な印象の深緑のワンピース。少女のような、蠱惑的なような、声。
「それが何か?」
この女が、ファンだろうがアンチだろうが、どうでもいい。プライドが高いパティシエは、“一番”である己の研鑽にしか興味がなかった。
「私は、灰崎ありす。灰色の灰に、山へんの崎。ありすは、平仮名だ。ありすと呼んでいいぞ」
「は……? なに?」
眉間に皺を寄せる天嶺。それをものともせず、ありすは続ける。
「このパティスリーのケーキをもらったことが何度かあってな。美味かったから、もっと食べたい。という訳で、この私が試作品を食べてやろう」
「ハァ? 頭沸いてんじゃないの」
「私は、ケーキが食べたい。お前は、試食してもらえる。一挙両得だろう?」
「うざい。邪魔。僕の前から消えてくれる?」
「ケーキを食べてから消える」
「…………」
警察を呼ぶべきかもしれない。
「お前、なに? 記者かなんか? 僕はメディア露出に興味はない」
「違う。私は、住所不定の無職だ」
「ハァ?」
「私はいつも、かわいそうだから。助けてくれるよな?」
「嫌だけど」
「何故?」
ありすは、首を傾げた。
「僕は、自分と自分が作るスイーツが一番だと自負してる。素人の意見なんか必要ない」
「何を言ってるんだ? 大半の客は素人だろう?」
「……それとこれとは、話が違う。客の意見なんてまともに聞いてたら、味が落ちる」
「おっ。炎上しそうな話だな。続けろ」
「……僕は一番だから、試作品もひとりで食べる。さっさと帰れ」
「話を聞いていたか? 私に帰るところはない」
「言葉のあやだ。出て行け」
「はぁ~」
ありすは、深く溜め息をつく。
「やれやれ。他者がいなくては、比較する者がいなくては、“一番”にはなれないのに、その態度……コンビニの菓子に負けても知らないからな……」
「余計なお世話だ」
「仕方ないな。また来る。じゃあな、天嶺」
ありすは、試食コーナーの焼き菓子をひとつ食べてから、去って行った。
二度と来るな。と、天嶺は思う。
これが、昨日起きた全て。
灰崎ありすが、天嶺を、久し振りに“調律”し甲斐のある奴が現れたと楽しそうにしていることは、彼には預かり知らぬことである。
あの女、灰崎ありす。昨日起こった嵐は、過ぎ去った後にも波紋を残した。
パティシエ、白雪天嶺は、いつも以上に苛立っている。男は、基本的に不機嫌で愛想がないのだが、今日は、目覚めてからずっと怒っていた。
昨日のことが、頭の中で、繰り返し繰り返し再生される。
「お前、この店のパティシエだな。白雪……天嶺……? そうだろう?」
女は、たまたま店の表で作業していた天嶺に話しかけてきた。灰色のロングヘアーを3ヶ所三つ編みにしている。綺麗な赤みがかった緑色の瞳。美しい肌。清楚な印象の深緑のワンピース。少女のような、蠱惑的なような、声。
「それが何か?」
この女が、ファンだろうがアンチだろうが、どうでもいい。プライドが高いパティシエは、“一番”である己の研鑽にしか興味がなかった。
「私は、灰崎ありす。灰色の灰に、山へんの崎。ありすは、平仮名だ。ありすと呼んでいいぞ」
「は……? なに?」
眉間に皺を寄せる天嶺。それをものともせず、ありすは続ける。
「このパティスリーのケーキをもらったことが何度かあってな。美味かったから、もっと食べたい。という訳で、この私が試作品を食べてやろう」
「ハァ? 頭沸いてんじゃないの」
「私は、ケーキが食べたい。お前は、試食してもらえる。一挙両得だろう?」
「うざい。邪魔。僕の前から消えてくれる?」
「ケーキを食べてから消える」
「…………」
警察を呼ぶべきかもしれない。
「お前、なに? 記者かなんか? 僕はメディア露出に興味はない」
「違う。私は、住所不定の無職だ」
「ハァ?」
「私はいつも、かわいそうだから。助けてくれるよな?」
「嫌だけど」
「何故?」
ありすは、首を傾げた。
「僕は、自分と自分が作るスイーツが一番だと自負してる。素人の意見なんか必要ない」
「何を言ってるんだ? 大半の客は素人だろう?」
「……それとこれとは、話が違う。客の意見なんてまともに聞いてたら、味が落ちる」
「おっ。炎上しそうな話だな。続けろ」
「……僕は一番だから、試作品もひとりで食べる。さっさと帰れ」
「話を聞いていたか? 私に帰るところはない」
「言葉のあやだ。出て行け」
「はぁ~」
ありすは、深く溜め息をつく。
「やれやれ。他者がいなくては、比較する者がいなくては、“一番”にはなれないのに、その態度……コンビニの菓子に負けても知らないからな……」
「余計なお世話だ」
「仕方ないな。また来る。じゃあな、天嶺」
ありすは、試食コーナーの焼き菓子をひとつ食べてから、去って行った。
二度と来るな。と、天嶺は思う。
これが、昨日起きた全て。
灰崎ありすが、天嶺を、久し振りに“調律”し甲斐のある奴が現れたと楽しそうにしていることは、彼には預かり知らぬことである。