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廊下に、鱗が落ちていた。
指でつまみ上げたそれは、光にかざすと美しく煌めく。
それからインスピレーションを得て、猫背のカルデア職員の男は、趣味の木工へと勤しむ。毎日、毎日。暇な時間を見付けては、彫刻刀を手に、木を削った。
そうして出来上がったのは、木彫りの魚の置物である。
拾い物の、この美しい鱗は、人魚のものだろう。その人魚に寄り添うもの、というイメージで、男は魚を彫った。
けれど、魚が寄り添い続けることは叶わないなと、彫った後に気付く。
人魚姫は、陸へと行ってしまうのだから。
泡へと還った人魚姫になら、また会えるだろうか? しかしそれでも、彼女はすぐにまた遠くへ、空へと行ってしまう。
男は、自らが生み出した魚に同情した。創造者から同情なんて、されたくないだろうに。
その一瞬の邂逅は、偶然だった。
鱗を拾った者と、鱗の落とし主。
カルデア職員の男と、サーヴァント、童話作家のアンデルセン。
木彫りの魚を、どこか飾るところはないかと持って歩いている時に、偶然にも向かいから歩いて来た。
あなたは世界を侵食したから、そんな目に遭っているのでしょうか?
男は訊いてみたくなったが、口は閉じたままだ。
彼は、読者の呪いを受けているのだと聞いたことがある。喋ると喉が痛むらしいから。だから、あまり喋ってほしくはない。
物語は読者の世界を侵食し、読者の想いは作者を侵食する。美しくて、おぞましい。
男には、読者として彼に出来ることがあるのか、分からない。
男が初めて読んだ人魚姫は絵本で、物語は人魚姫が泡になって終わる。だが、実は続きがあって、その後人魚姫は風の精となり、善を行い、魂の獲得を目指すのだとか。
現在、サーヴァントには、退去命令が出ている。アンデルセンとは、もう会えなくなってしまう。
すれ違い様では、善行を積む時間もない。
せめて、この木彫りの魚を世界に捧げよう。自分に出来るのは、その程度のことだ。
男は魚を握り締め、人の集まる場所へ飾ろうと歩みを進めた。
指でつまみ上げたそれは、光にかざすと美しく煌めく。
それからインスピレーションを得て、猫背のカルデア職員の男は、趣味の木工へと勤しむ。毎日、毎日。暇な時間を見付けては、彫刻刀を手に、木を削った。
そうして出来上がったのは、木彫りの魚の置物である。
拾い物の、この美しい鱗は、人魚のものだろう。その人魚に寄り添うもの、というイメージで、男は魚を彫った。
けれど、魚が寄り添い続けることは叶わないなと、彫った後に気付く。
人魚姫は、陸へと行ってしまうのだから。
泡へと還った人魚姫になら、また会えるだろうか? しかしそれでも、彼女はすぐにまた遠くへ、空へと行ってしまう。
男は、自らが生み出した魚に同情した。創造者から同情なんて、されたくないだろうに。
その一瞬の邂逅は、偶然だった。
鱗を拾った者と、鱗の落とし主。
カルデア職員の男と、サーヴァント、童話作家のアンデルセン。
木彫りの魚を、どこか飾るところはないかと持って歩いている時に、偶然にも向かいから歩いて来た。
あなたは世界を侵食したから、そんな目に遭っているのでしょうか?
男は訊いてみたくなったが、口は閉じたままだ。
彼は、読者の呪いを受けているのだと聞いたことがある。喋ると喉が痛むらしいから。だから、あまり喋ってほしくはない。
物語は読者の世界を侵食し、読者の想いは作者を侵食する。美しくて、おぞましい。
男には、読者として彼に出来ることがあるのか、分からない。
男が初めて読んだ人魚姫は絵本で、物語は人魚姫が泡になって終わる。だが、実は続きがあって、その後人魚姫は風の精となり、善を行い、魂の獲得を目指すのだとか。
現在、サーヴァントには、退去命令が出ている。アンデルセンとは、もう会えなくなってしまう。
すれ違い様では、善行を積む時間もない。
せめて、この木彫りの魚を世界に捧げよう。自分に出来るのは、その程度のことだ。
男は魚を握り締め、人の集まる場所へ飾ろうと歩みを進めた。