創作企画「冥冥の澱」2
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天運だけで全てが手に入るから、男は、玉座に座っているだけでよかった。
「花さん」
「照雄さん、こんにちは」
「こんにちは。今日は、お返事をくれますか?」
「そのお話なのですけれど、私の夢を聞いてからにしていただけますか?」
「はい、もちろん」
狐ヶ崎照雄は、笑みを浮かべて了承する。
「私の夢は、ひとり旅をすることです。まずは、日本全国を。それから、世界を。そんな夢、おかしいと思いますか?」
「いいえ。とても素敵です」
「応援してくださいますか?」
「はい」
日下部花は、頬を赤らめた。
「でしたら、私でよければ、あなたとお付き合いさせていただきたいです」
「ありがとうございます、花さん」
「よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします」
ふたりは、握手をする。
孤独な玉座の側に、ひとりの女が来た。愛してくれるのは、天運だけだった男に、大切な人が出来た。
後に、照雄は、花の旅立ちを見送る。
「気を付けて」
「はい」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
手を振り、花は去って行った。ひとりになった男は、始めは彼女の便りを読み、それで満足していたのだが。時が経つに連れて、自由な花をゆるせなくなっていった。
自分は、玉座に手足を縛り付けられているのに。ずっと孤独なのに。動けないのに。
あなたは、どこへでも行けて。宝来の娘と楽しそうに旅の話をしていて。腹が立つ。
狐ヶ崎照雄は、人生で初めて“痛み”を感じた。でも、そのことが分からない。強さしか持ち合わせていないから。
ただ、「寂しい」と言えばよかっただけなのに、それが出来ない。
花が22歳の時に結婚し、第一子の明を産んだ。その頃から、照雄は、花を“作り変え”始めた。
「何度言ったら分かるんだ? 花」
「ごめんなさい、照雄さん……」
「家事なんて、女中に任せなさい。お前は、俺の側で微笑んでいてくれればいい」
孤独を埋められるのは、狐ヶ崎花だけだから。いつでも綺麗にして、側にいてくれないと不機嫌になる。
そうして、少しずつ、花は人形になっていった。
◆◆◆
「こんにちは、織重さん」
「こんにちは、花さん」
歳の離れた友人、宝来織重と久し振りに会う。夫は嫌がったが、説き伏せて来た。
「お元気?」
「ええ、元気です。花さんは?」
「元気ですよ。宵さんも元気になったから、ヨーロッパの旅を再開しようと思うの」
「まあ」
「また、お葉書や写真やお土産を送りますね」
「ありがとうございます。楽しみですわ」
元来の強さを取り戻した花は、美しく笑った。
「花さん」
「照雄さん、こんにちは」
「こんにちは。今日は、お返事をくれますか?」
「そのお話なのですけれど、私の夢を聞いてからにしていただけますか?」
「はい、もちろん」
狐ヶ崎照雄は、笑みを浮かべて了承する。
「私の夢は、ひとり旅をすることです。まずは、日本全国を。それから、世界を。そんな夢、おかしいと思いますか?」
「いいえ。とても素敵です」
「応援してくださいますか?」
「はい」
日下部花は、頬を赤らめた。
「でしたら、私でよければ、あなたとお付き合いさせていただきたいです」
「ありがとうございます、花さん」
「よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします」
ふたりは、握手をする。
孤独な玉座の側に、ひとりの女が来た。愛してくれるのは、天運だけだった男に、大切な人が出来た。
後に、照雄は、花の旅立ちを見送る。
「気を付けて」
「はい」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
手を振り、花は去って行った。ひとりになった男は、始めは彼女の便りを読み、それで満足していたのだが。時が経つに連れて、自由な花をゆるせなくなっていった。
自分は、玉座に手足を縛り付けられているのに。ずっと孤独なのに。動けないのに。
あなたは、どこへでも行けて。宝来の娘と楽しそうに旅の話をしていて。腹が立つ。
狐ヶ崎照雄は、人生で初めて“痛み”を感じた。でも、そのことが分からない。強さしか持ち合わせていないから。
ただ、「寂しい」と言えばよかっただけなのに、それが出来ない。
花が22歳の時に結婚し、第一子の明を産んだ。その頃から、照雄は、花を“作り変え”始めた。
「何度言ったら分かるんだ? 花」
「ごめんなさい、照雄さん……」
「家事なんて、女中に任せなさい。お前は、俺の側で微笑んでいてくれればいい」
孤独を埋められるのは、狐ヶ崎花だけだから。いつでも綺麗にして、側にいてくれないと不機嫌になる。
そうして、少しずつ、花は人形になっていった。
◆◆◆
「こんにちは、織重さん」
「こんにちは、花さん」
歳の離れた友人、宝来織重と久し振りに会う。夫は嫌がったが、説き伏せて来た。
「お元気?」
「ええ、元気です。花さんは?」
「元気ですよ。宵さんも元気になったから、ヨーロッパの旅を再開しようと思うの」
「まあ」
「また、お葉書や写真やお土産を送りますね」
「ありがとうございます。楽しみですわ」
元来の強さを取り戻した花は、美しく笑った。