創作企画「冥冥の澱」2
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今日も、十北斗は、日記を綴る。
ペンを取り、ひとり机に向かう。
◆◆◆
愛してると、それだけ言ってほしかった。でも、君は声を失ってしまったから。もう聴くことはない。
「愛してる」と伝えると、黎命くんは口付けてくれる。
静かな君に、僕はそのうち慣れるのかな?
大好きな君の声を、いずれ忘れてしまうのかな? せめて、僕の記憶の中に閉じ込めておきたいのだけれど。
君が声を失くしてから、僕はずっと心配している。自分のことだけじゃない。黎命くんが、傷付いてないはずがないということについて。
僕は、彼の能力のことや、仕事のことを、そんなには知らない。黎命くんが教えたくないことは、知らないままでいいと思っていた。だけど、それは逃避だったのかもしれないと考え始めている。
僕は、“何も知らない一般人”で。それが、君には物珍しいのかと思っていたから、ずっと向き合って来なかった。
今更かと呆れられてもいい。何も知らないままは嫌だ。
黎命くんがいなければ、僕の一生なんて無意味なものだったのだから。十の家は、姉が継いでくれるし、僕なんていらない。
僕が、代わりに声を失くせばよかったのに。どうせ大して話さないのだし。
こんなことを書くと、黎命くんの声帯には価値があったようになってしまって、よくない。君の価値は、そういうものじゃない。
人ひとりの人生を変えたことに、意味がある。僕は、自分本位な人間だ。世界の端に存在させてもらっている癖に、僕は主観から逃れられない。
何度でも書こう。真咲黎命くんは、僕の「色彩」なのだと。
でも、このことを僕は、あまり語った覚えがない。やっぱり、僕の声の方がいらない。
それでも、僕に声が残されているのには、理由がある。ということにする。そうでもしなくては、僕は何も出来ないから。
ただ、君に伝えたいことは、ひとつだけ。
どうか、全て失くしたなんて思わないで。
◆◆◆
一大決心をして、十北斗は真咲黎命に話しかける。
「黎命くん。これが、僕の全てです。君がくれた全てです。僕の人生、全部あげるから……」
差し出したのは、厚い日記帳が数冊。
「君と出会ってからのことが、書いてあります。読むかどうかは、任せるよ」
でも。
「僕は、君に読んでほしい。僕は、全然殊勝な人間じゃないんだよ……」
僕の全てを知られて、嫌われてもいい。ただ、君には幸せでいてほしい。
この日記で、何かが変わるのかどうか、北斗には分からない。
ただ、真咲黎命の存在する意味を、確固たる愛情を伝えたいだけである。
存在に価値が必要なら、自分がいくらでも挙げてみせるから。
ペンを取り、ひとり机に向かう。
◆◆◆
愛してると、それだけ言ってほしかった。でも、君は声を失ってしまったから。もう聴くことはない。
「愛してる」と伝えると、黎命くんは口付けてくれる。
静かな君に、僕はそのうち慣れるのかな?
大好きな君の声を、いずれ忘れてしまうのかな? せめて、僕の記憶の中に閉じ込めておきたいのだけれど。
君が声を失くしてから、僕はずっと心配している。自分のことだけじゃない。黎命くんが、傷付いてないはずがないということについて。
僕は、彼の能力のことや、仕事のことを、そんなには知らない。黎命くんが教えたくないことは、知らないままでいいと思っていた。だけど、それは逃避だったのかもしれないと考え始めている。
僕は、“何も知らない一般人”で。それが、君には物珍しいのかと思っていたから、ずっと向き合って来なかった。
今更かと呆れられてもいい。何も知らないままは嫌だ。
黎命くんがいなければ、僕の一生なんて無意味なものだったのだから。十の家は、姉が継いでくれるし、僕なんていらない。
僕が、代わりに声を失くせばよかったのに。どうせ大して話さないのだし。
こんなことを書くと、黎命くんの声帯には価値があったようになってしまって、よくない。君の価値は、そういうものじゃない。
人ひとりの人生を変えたことに、意味がある。僕は、自分本位な人間だ。世界の端に存在させてもらっている癖に、僕は主観から逃れられない。
何度でも書こう。真咲黎命くんは、僕の「色彩」なのだと。
でも、このことを僕は、あまり語った覚えがない。やっぱり、僕の声の方がいらない。
それでも、僕に声が残されているのには、理由がある。ということにする。そうでもしなくては、僕は何も出来ないから。
ただ、君に伝えたいことは、ひとつだけ。
どうか、全て失くしたなんて思わないで。
◆◆◆
一大決心をして、十北斗は真咲黎命に話しかける。
「黎命くん。これが、僕の全てです。君がくれた全てです。僕の人生、全部あげるから……」
差し出したのは、厚い日記帳が数冊。
「君と出会ってからのことが、書いてあります。読むかどうかは、任せるよ」
でも。
「僕は、君に読んでほしい。僕は、全然殊勝な人間じゃないんだよ……」
僕の全てを知られて、嫌われてもいい。ただ、君には幸せでいてほしい。
この日記で、何かが変わるのかどうか、北斗には分からない。
ただ、真咲黎命の存在する意味を、確固たる愛情を伝えたいだけである。
存在に価値が必要なら、自分がいくらでも挙げてみせるから。