うちよそ
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祝日の9時30分。陶原創は、悩んでいた。灰崎ありすに連絡するかどうか。
彼女とは、あの強烈な出会いから、一切やり取りをしていない。
住所不定、無職の大人。今も、誰かの家に居座っているのだろうか?
もやもやする。
『こんにちは』
『ありすさん、昼ごはん一緒にどうですか?』
結局、迷いながらメッセージを送った。
すぐに既読がつく。
『いいぞ』
『どこに行く?』
イタリアンレストランのURLを張った。
『ここで、どうでしょうか?』
『いいだろう』
『そこの入り口で待っていろ』
『はい』
待ち合わせ時間は、正午。
ありすと並んでも恥ずかしくない格好を、なんとか捻り出して、荷物をチェックして、家を出る。鍵をかけるのを忘れないように。
レストランの前に着いたのは、約束の時刻の丁度だった。
レストランのガラスを鏡に、髪の乱れを直す。
「ふう」
段々、緊張してきた。本当に彼女と待ち合わせしたのか? 本当に来るのか?
約束の時間が、5分過ぎた。彼女は来ない。
永遠のような待ち時間。
その後、ありすは、10分ほど遅れて来た。
「こんにちは……」
「また会ったな」
遅刻しても全く悪びれずに、ありすは言う。
創は、ありすが遅刻して来たことなど、どうでもよくなっていた。それというのも、ありすが、神話の女神のような出で立ちだったからである。頭の左右に垂らした三つ編みには、赤い花が編み込まれていて。裾がヒラヒラした白い上着は、古代ギリシャの装束のよう。
「さあ、飯にしよう」
「はい」
口を開くと、“こんな”だが。それも魅力的に思えてくるから、どうしようもない。
店内に入ると、数々の視線がこちらに来るのが分かった。老若男女関わらず、皆、ありすを見ている。ついでのように、隣にいる創も見られた。
少しの優越感のようなものが、胸中に湧く。
脳味噌の冷静な部分が、別に友人でも恋人でもないけれど。と、警告するかのように言う。
「おねえちゃん、お人形さん?」と、不意に子供の声がした。
見れば、ありすの前に女児がいて、彼女をしげしげと見上げている。
「私は人形じゃない。人形は、飯を食わない」
もっともだ。
「ふーん。この人、かれし?」
「違うぞ。知り合いだ」
知り合い。そうだ、ただの知り合いなんだ。地の底に叩きつけられた心地がする。
「あ、な、何名様でしょうか?」と、ありすに見惚れていた店員が訊く。
「ふたり」と、ありす。
「では、こちらの席へどうぞ」
案内され、向かい合って座る。
ありすは、アボカドのサラダとイカスミパスタとモッツァレラチーズピザとワインを頼んだ。創は、大根とサーモンのイタリアンサラダとカルボナーラとコーヒーを。
注文した料理が届くと、ありすは「いただきます」と言い、サラダから手を付ける。
「美味いな」
次々、料理を口に運び、ぱくぱくと食べた。確かに、全く持って「お人形さん」ではない。
創は、食後、自分の食事の記憶がないことに気付く。覚えているのは、ありすが美味しそうに料理を食べていたことだけ。
「なあ、ジェラートを頼んでもいいか?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
微笑むありす。
ありがとう!? 今、お礼を言った?
どきどきする創。
ありすがチェリー味のジェラートを食べ終え、話をする機会がきた。
「ありすさんは、その、家族とか恋人とかは……? あの、答えたくなければいいんですけど」
「家族のことは秘密だ。恋人はいない」
「そうですか……」
恋人はいない。いないのかぁ。
どこか、ほっとしている自分がいる。
恋人に、なりたいのか? この破天荒な人と? 性格、というか、生き様に難がある人と?
しかし、もう、灰崎ありすと出会ったせいで、創の人生は一変してしまっていた。
彼女とは、あの強烈な出会いから、一切やり取りをしていない。
住所不定、無職の大人。今も、誰かの家に居座っているのだろうか?
もやもやする。
『こんにちは』
『ありすさん、昼ごはん一緒にどうですか?』
結局、迷いながらメッセージを送った。
すぐに既読がつく。
『いいぞ』
『どこに行く?』
イタリアンレストランのURLを張った。
『ここで、どうでしょうか?』
『いいだろう』
『そこの入り口で待っていろ』
『はい』
待ち合わせ時間は、正午。
ありすと並んでも恥ずかしくない格好を、なんとか捻り出して、荷物をチェックして、家を出る。鍵をかけるのを忘れないように。
レストランの前に着いたのは、約束の時刻の丁度だった。
レストランのガラスを鏡に、髪の乱れを直す。
「ふう」
段々、緊張してきた。本当に彼女と待ち合わせしたのか? 本当に来るのか?
約束の時間が、5分過ぎた。彼女は来ない。
永遠のような待ち時間。
その後、ありすは、10分ほど遅れて来た。
「こんにちは……」
「また会ったな」
遅刻しても全く悪びれずに、ありすは言う。
創は、ありすが遅刻して来たことなど、どうでもよくなっていた。それというのも、ありすが、神話の女神のような出で立ちだったからである。頭の左右に垂らした三つ編みには、赤い花が編み込まれていて。裾がヒラヒラした白い上着は、古代ギリシャの装束のよう。
「さあ、飯にしよう」
「はい」
口を開くと、“こんな”だが。それも魅力的に思えてくるから、どうしようもない。
店内に入ると、数々の視線がこちらに来るのが分かった。老若男女関わらず、皆、ありすを見ている。ついでのように、隣にいる創も見られた。
少しの優越感のようなものが、胸中に湧く。
脳味噌の冷静な部分が、別に友人でも恋人でもないけれど。と、警告するかのように言う。
「おねえちゃん、お人形さん?」と、不意に子供の声がした。
見れば、ありすの前に女児がいて、彼女をしげしげと見上げている。
「私は人形じゃない。人形は、飯を食わない」
もっともだ。
「ふーん。この人、かれし?」
「違うぞ。知り合いだ」
知り合い。そうだ、ただの知り合いなんだ。地の底に叩きつけられた心地がする。
「あ、な、何名様でしょうか?」と、ありすに見惚れていた店員が訊く。
「ふたり」と、ありす。
「では、こちらの席へどうぞ」
案内され、向かい合って座る。
ありすは、アボカドのサラダとイカスミパスタとモッツァレラチーズピザとワインを頼んだ。創は、大根とサーモンのイタリアンサラダとカルボナーラとコーヒーを。
注文した料理が届くと、ありすは「いただきます」と言い、サラダから手を付ける。
「美味いな」
次々、料理を口に運び、ぱくぱくと食べた。確かに、全く持って「お人形さん」ではない。
創は、食後、自分の食事の記憶がないことに気付く。覚えているのは、ありすが美味しそうに料理を食べていたことだけ。
「なあ、ジェラートを頼んでもいいか?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
微笑むありす。
ありがとう!? 今、お礼を言った?
どきどきする創。
ありすがチェリー味のジェラートを食べ終え、話をする機会がきた。
「ありすさんは、その、家族とか恋人とかは……? あの、答えたくなければいいんですけど」
「家族のことは秘密だ。恋人はいない」
「そうですか……」
恋人はいない。いないのかぁ。
どこか、ほっとしている自分がいる。
恋人に、なりたいのか? この破天荒な人と? 性格、というか、生き様に難がある人と?
しかし、もう、灰崎ありすと出会ったせいで、創の人生は一変してしまっていた。