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冬の川の水は、刺すように冷たい。
俺は、自分の手で投げ捨てたものを拾おうと足掻いている。
捨てたものは、婚約指輪である。
俺の恋人は、第一次近界民侵攻の際に行方不明になった。それからの月日を、俺は脱け殻のように生きてきた。
そんな日々をやめにしたくて。この現実を生きようと思って。俺は、指輪を橋から投げた。
しかし、こうして未練がましく探している。
こんな寒い時期に、こんな馬鹿みたいなことをしてはならないと冷静な自分は考えているが、もうどうでも良かった。死んでしまってもいいと思った。
その時。河川敷から、声がした。
「お兄さん、何してるの?」
変なサングラスを頭に着けた男がいる。
「探し物」と、俺は答えた。
「今日は、もうやめた方がいいと思いますよ」
彼は言う。
「ああ、うん……」
返事をしながら、俺は川から上がった。
死のうという気持ちが削がれたのだ。独りの世界に浸っていたのだな、と気付く。
びしょ濡れなので、当然寒い。寒風吹きすさぶ中で、これはマズい。
「俺、帰るよ」
「うん、それがいい。お兄さん、またね」
またね、か。確かに俺は、明日もここに来るつもりだが、この男も来るのだろうか?
翌日。川へ行くと、そこには彼が先にいた。
名前を迅悠一という。お互いに軽く自己紹介して知った。
彼は、川を観測しているとも、俺を監視しているともつかない態度でいる。
なにが目的でここにいるのだろう?
まあ、川に入ろうとしたら止められるのだろうな、と思う。
「今日も冷えるな…………」
「そうですね」
どうでもいいことを口にした。
灰色の空に、暗い色彩で流れる水。冷たい北風。陰鬱な世界。俺の日常。
俺と、いなくなった者の間には、今見ている川みたいなものが広がっている気がする。それを渡ろうとしても、決して向こう側へは辿り着けない。そこには舟も橋もなく、隔絶されているかのように感じる。
ふと、思った。隣の彼も誰かを失っているのだろうか? と。
俺と迅は、ふたりで小一時間ほど、川を眺めた。
いつか、俺たちは対話を通して理解し合えるのだろうか?
出会ったばかりの今は、分からない。
俺は、自分の手で投げ捨てたものを拾おうと足掻いている。
捨てたものは、婚約指輪である。
俺の恋人は、第一次近界民侵攻の際に行方不明になった。それからの月日を、俺は脱け殻のように生きてきた。
そんな日々をやめにしたくて。この現実を生きようと思って。俺は、指輪を橋から投げた。
しかし、こうして未練がましく探している。
こんな寒い時期に、こんな馬鹿みたいなことをしてはならないと冷静な自分は考えているが、もうどうでも良かった。死んでしまってもいいと思った。
その時。河川敷から、声がした。
「お兄さん、何してるの?」
変なサングラスを頭に着けた男がいる。
「探し物」と、俺は答えた。
「今日は、もうやめた方がいいと思いますよ」
彼は言う。
「ああ、うん……」
返事をしながら、俺は川から上がった。
死のうという気持ちが削がれたのだ。独りの世界に浸っていたのだな、と気付く。
びしょ濡れなので、当然寒い。寒風吹きすさぶ中で、これはマズい。
「俺、帰るよ」
「うん、それがいい。お兄さん、またね」
またね、か。確かに俺は、明日もここに来るつもりだが、この男も来るのだろうか?
翌日。川へ行くと、そこには彼が先にいた。
名前を迅悠一という。お互いに軽く自己紹介して知った。
彼は、川を観測しているとも、俺を監視しているともつかない態度でいる。
なにが目的でここにいるのだろう?
まあ、川に入ろうとしたら止められるのだろうな、と思う。
「今日も冷えるな…………」
「そうですね」
どうでもいいことを口にした。
灰色の空に、暗い色彩で流れる水。冷たい北風。陰鬱な世界。俺の日常。
俺と、いなくなった者の間には、今見ている川みたいなものが広がっている気がする。それを渡ろうとしても、決して向こう側へは辿り着けない。そこには舟も橋もなく、隔絶されているかのように感じる。
ふと、思った。隣の彼も誰かを失っているのだろうか? と。
俺と迅は、ふたりで小一時間ほど、川を眺めた。
いつか、俺たちは対話を通して理解し合えるのだろうか?
出会ったばかりの今は、分からない。