創作企画「冥冥の澱」2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
この世界には、“もの”が多過ぎる。
人間、者。物品。化物。人の残滓、幽霊。
それらの区別をつけるのが、ワタシは上手く出来なかった。昔の話。
ワタシは、世界に“狂っている”という烙印を押された。
確か、アレは、ワタシが二十歳くらいの頃。
アナタは、ワタシを理解しようとしてくれたけれど、臆病で卑屈なワタシは拒絶した。
ひとりでいたかったよ。生きていくので、精一杯だったよ。
◆◆◆
「ついて来るな……」
「でも、先輩。夜道は危ないですよ」
「そういうのは、女の子にしたら?」
「僕は、砂絵先輩が心配なんです」
「そこ」
ワタシは、後輩の隣を指差す。
「はい?」
「逆さ吊りの女がいる」
「……ッ!」
「そっちの公衆電話ボックスの中には、腕が10本蠢いてる」
古びた電話ボックスを指差した。
「こんなに世界が違うのに。オレより、キミの方が危ないかもしれないのに」
「それでも、僕は……!」
「とにかく! ほっといてくれ!」
ワタシは、走って逃げる。
過ぎていく外灯には、気持ち悪いくらい蛾が集っていた。
自宅のあるマンションの正面玄関口の前まで来る。
「はぁ……はぁ…………」
扉を開いて、中に入った。そこは、血塗れの部屋だった。
「ひっ…………」
どうして? なんで?
後ろを振り向く。扉がない。閉じ込められた。
血塗れの密室は、ひとり暮らしの者のワンルームアパートのよう。
ベッドの上に、黒いスーツが脱ぎ捨ててある。
ザーザーと、水音がした。浴室に影がある。
「楽しい楽しいお仕事。楽しい楽しいお仕事。楽しいお仕事は人殺し」
男の歌声。
人殺しの、家?
「……誰?」
ぴたり、とシャワーの音が止まる。
いない。ワタシはいない。口を塞ぎ、息を止めて、動かないようにする。
「見たな? 俺の心の中」
「ひぃっ!」
目の前に、突然ナイフを持った男が現れて、ワタシは腰を抜かす。
「覗き見……赦さない……」
「帰ります! 帰らせて!」
「あの世行きだ……」
嫌だ。死にたくない。死にたくない!
鞄。鞄の中に。アレを、アレを。
「うるせぇ! オレは帰るんだ!」
袋を破り、清めの塩を撒く。
「ひひひひひひっ!」
男が笑い、ぼやけていった。瞬きの間に、血塗れのワンルームではなく、塩の撒かれた玄関の中に景色が変わる。
「なんだったんだよ……」
◆◆◆
「それでそれで? そのお部屋は、なんだったの? 砂絵ちゃんは、どうして、そこに入っちゃったの?」
「今なら分かるのですが、その部屋は、人殺しの幽霊の心象風景の中でした。扉を開くという行為は、異界に繋がりやすいのです。他にも、トンネルや鳥居を潜るとか、壁と壁の隙間を通るとかでも、起こります」
「そうなんだ! 城井、砂絵ちゃんが無事で嬉しい!」
「ありがとうございます。こ、こんな話しか出来なくて申し訳ないです……」
友人に出来る話の手札が少な過ぎる。ワタシ。
・オタク語り(城井さん相手だと封じられる)
・恐怖体験
・ハニーの話
・天気とか時節の、どうでもいい話(これは酷過ぎるので封印)
これだけ。
「城井さん、すいません」
「なんで謝るの? 城井、砂絵ちゃんが話してくれて嬉しいよ?」
「そ、そうですか。よかったです。次は、もう少しマシな話を考えます……」
「また、お話聞かせてね!」
「はい」
休憩時間が終わり、ワタシたちは、仕事に戻る。
やっぱり、もう少し明るい話を探しておこう。
人間、者。物品。化物。人の残滓、幽霊。
それらの区別をつけるのが、ワタシは上手く出来なかった。昔の話。
ワタシは、世界に“狂っている”という烙印を押された。
確か、アレは、ワタシが二十歳くらいの頃。
アナタは、ワタシを理解しようとしてくれたけれど、臆病で卑屈なワタシは拒絶した。
ひとりでいたかったよ。生きていくので、精一杯だったよ。
◆◆◆
「ついて来るな……」
「でも、先輩。夜道は危ないですよ」
「そういうのは、女の子にしたら?」
「僕は、砂絵先輩が心配なんです」
「そこ」
ワタシは、後輩の隣を指差す。
「はい?」
「逆さ吊りの女がいる」
「……ッ!」
「そっちの公衆電話ボックスの中には、腕が10本蠢いてる」
古びた電話ボックスを指差した。
「こんなに世界が違うのに。オレより、キミの方が危ないかもしれないのに」
「それでも、僕は……!」
「とにかく! ほっといてくれ!」
ワタシは、走って逃げる。
過ぎていく外灯には、気持ち悪いくらい蛾が集っていた。
自宅のあるマンションの正面玄関口の前まで来る。
「はぁ……はぁ…………」
扉を開いて、中に入った。そこは、血塗れの部屋だった。
「ひっ…………」
どうして? なんで?
後ろを振り向く。扉がない。閉じ込められた。
血塗れの密室は、ひとり暮らしの者のワンルームアパートのよう。
ベッドの上に、黒いスーツが脱ぎ捨ててある。
ザーザーと、水音がした。浴室に影がある。
「楽しい楽しいお仕事。楽しい楽しいお仕事。楽しいお仕事は人殺し」
男の歌声。
人殺しの、家?
「……誰?」
ぴたり、とシャワーの音が止まる。
いない。ワタシはいない。口を塞ぎ、息を止めて、動かないようにする。
「見たな? 俺の心の中」
「ひぃっ!」
目の前に、突然ナイフを持った男が現れて、ワタシは腰を抜かす。
「覗き見……赦さない……」
「帰ります! 帰らせて!」
「あの世行きだ……」
嫌だ。死にたくない。死にたくない!
鞄。鞄の中に。アレを、アレを。
「うるせぇ! オレは帰るんだ!」
袋を破り、清めの塩を撒く。
「ひひひひひひっ!」
男が笑い、ぼやけていった。瞬きの間に、血塗れのワンルームではなく、塩の撒かれた玄関の中に景色が変わる。
「なんだったんだよ……」
◆◆◆
「それでそれで? そのお部屋は、なんだったの? 砂絵ちゃんは、どうして、そこに入っちゃったの?」
「今なら分かるのですが、その部屋は、人殺しの幽霊の心象風景の中でした。扉を開くという行為は、異界に繋がりやすいのです。他にも、トンネルや鳥居を潜るとか、壁と壁の隙間を通るとかでも、起こります」
「そうなんだ! 城井、砂絵ちゃんが無事で嬉しい!」
「ありがとうございます。こ、こんな話しか出来なくて申し訳ないです……」
友人に出来る話の手札が少な過ぎる。ワタシ。
・オタク語り(城井さん相手だと封じられる)
・恐怖体験
・ハニーの話
・天気とか時節の、どうでもいい話(これは酷過ぎるので封印)
これだけ。
「城井さん、すいません」
「なんで謝るの? 城井、砂絵ちゃんが話してくれて嬉しいよ?」
「そ、そうですか。よかったです。次は、もう少しマシな話を考えます……」
「また、お話聞かせてね!」
「はい」
休憩時間が終わり、ワタシたちは、仕事に戻る。
やっぱり、もう少し明るい話を探しておこう。