うちよそ
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深夜、ゴミ捨てをして、マンションの二階の自室に戻ると、ソファーに見知らぬ女が我が物顔で座っていた。
「誰!? 何!?」
1Kの部屋の主、陶原創は驚愕する。
「私は、灰崎ありす。灰色の灰に、山へんの崎。ありすは平仮名だ。ありすと呼んでいいぞ。鍵が開いていた。無用心だな」
「な、なんの用、ですか?」
「このマンションの住人は、冷たいな。一階の連中、全員に泊まることを断られた。次は二階と、この部屋に来たら、鍵が開いていたから、入って物盗りが来ないよう見張っていてやったんだ。感謝するがいい」
「泊ま、泊まる……?」
お互いのことを全く知らないのに?
ありすにとって、男のプロフィールなど、どうでもよかった。泊めてくれさえすれば。
「私は、いつも、かわいそうだから。この私を助けさせてやろう。お前、名前は?」
「陶原創、です……」
「これで、知り合いだな。泊めてくれるよな?」
「いや、あの…………」
「泊めてくれたら、美しい私を観賞出来るぞ」
確かに、ありすは美しかった。灰色のロングヘアーを、3ヶ所三つ編みにしている。綺麗な赤みがかった緑色の瞳。綺麗な肌。清楚な印象の深緑のワンピース。少女のような、蠱惑的なような、声。
創は、悩んだ。通報すべきか、否か。
「じ、自宅まで送りますから……」
「そんなものはない」
「ない……?!」
「あったら、帰っている。言っただろう? 私は、かわいそうなんだ。住所不定の無職だからな」
溜め息ひとつ。ありすは、やれやれと肩を落とした。
「ああ、そうだ。私は27歳だから、安心しろ。警察には捕まらないぞ。お前は、いくつだ?」
「32歳です……」
「そうか。じゃあ、問題ないな」
問題しかない。
「では、洗面所を借りるぞ。風呂は銭湯で済ませた」
白無地の鞄から歯ブラシを取り出し、すたすた歩いて、洗面所へ向かうありす。
創の横を通った時、花のような香りが、ふわりとした。どきり、とする創。
そのまま硬直しているうちに、ありすは歯磨きを終えて、「おやすみ」と言い、堂々と創のベッドを奪い、眠り始めた。
「ええー…………」
◆◆◆
朝。ソファーの上で起きる部屋の主。体が痛い。
「……いる」
創のベッドには、眠り姫と呼ぶには健康的過ぎる寝姿の女がいた。深夜に起きたことは、夢や幻ではない。
どうしよう?
とりあえず、ありすのことは一旦置いておき、朝の支度をする。
そして。
朝食の用意。彼女の分もした方がいいのだろうか?
迷った末に、ふたり分のトーストとスクランブルエッグとコーヒーを用意した。
「……飯!」
がばり。匂いに釣られて、ありすが起き上がる。
「私のために、よくやった。褒めて遣わす」
偉そうに言うありす。そして、洗面所に行き、顔を洗ったり髪を結んだりしてから、朝食の席につく。
「いただきます」
「どうぞ……」
花の蜜でも啜って生きていそうなのに、ありすの口は、ぱくぱくと元気にものを食べた。その様子を見ながら、創も朝食を摂る。
「美味いな。お前は偉い」
「ありがとうございます……?」
困惑したが、じわじわと心の内に、ありすの言葉が侵食していく。
“よくやった”
“褒めて遣わす”
“偉いな”
いつも、努力しても他人に手柄を横取りされてばかりいて。積み上げたものを無にされてきて。だからだろうか、ありすの真っ正面からの褒め言葉が嬉しいのは。
「今日は仕事か?」
「はい」
「そうか。ご苦労なことだな。いつ出る?」
「食べ終えたら、出社します」
「お前と一緒に、私も出よう」
その後。
創とありすは、家を出た。
「連絡先を教えてやろう。飯を奢りたくなったら呼べ。嫌いなものやアレルギーや宗教的タブーはないから、なんでもいいぞ」
「は、はい……」
スマートフォンで、メッセージアプリのIDを交換するふたり。
ありすのアイコンは、自身が美しいと評した、顔。
「じゃあな」
「あの、ありすさん……」
「なんだ?」
「また、今度…………」
また今度、なんだ? 自分でもよく分からないうちに、言葉を紡いでいた。
「ああ、またな」
ありすは、ニッと笑い、手を振ってから、どこかへ去って行く。
こうして、傍若無人な美女は、陶原創の人生に、突然降って来た。
「誰!? 何!?」
1Kの部屋の主、陶原創は驚愕する。
「私は、灰崎ありす。灰色の灰に、山へんの崎。ありすは平仮名だ。ありすと呼んでいいぞ。鍵が開いていた。無用心だな」
「な、なんの用、ですか?」
「このマンションの住人は、冷たいな。一階の連中、全員に泊まることを断られた。次は二階と、この部屋に来たら、鍵が開いていたから、入って物盗りが来ないよう見張っていてやったんだ。感謝するがいい」
「泊ま、泊まる……?」
お互いのことを全く知らないのに?
ありすにとって、男のプロフィールなど、どうでもよかった。泊めてくれさえすれば。
「私は、いつも、かわいそうだから。この私を助けさせてやろう。お前、名前は?」
「陶原創、です……」
「これで、知り合いだな。泊めてくれるよな?」
「いや、あの…………」
「泊めてくれたら、美しい私を観賞出来るぞ」
確かに、ありすは美しかった。灰色のロングヘアーを、3ヶ所三つ編みにしている。綺麗な赤みがかった緑色の瞳。綺麗な肌。清楚な印象の深緑のワンピース。少女のような、蠱惑的なような、声。
創は、悩んだ。通報すべきか、否か。
「じ、自宅まで送りますから……」
「そんなものはない」
「ない……?!」
「あったら、帰っている。言っただろう? 私は、かわいそうなんだ。住所不定の無職だからな」
溜め息ひとつ。ありすは、やれやれと肩を落とした。
「ああ、そうだ。私は27歳だから、安心しろ。警察には捕まらないぞ。お前は、いくつだ?」
「32歳です……」
「そうか。じゃあ、問題ないな」
問題しかない。
「では、洗面所を借りるぞ。風呂は銭湯で済ませた」
白無地の鞄から歯ブラシを取り出し、すたすた歩いて、洗面所へ向かうありす。
創の横を通った時、花のような香りが、ふわりとした。どきり、とする創。
そのまま硬直しているうちに、ありすは歯磨きを終えて、「おやすみ」と言い、堂々と創のベッドを奪い、眠り始めた。
「ええー…………」
◆◆◆
朝。ソファーの上で起きる部屋の主。体が痛い。
「……いる」
創のベッドには、眠り姫と呼ぶには健康的過ぎる寝姿の女がいた。深夜に起きたことは、夢や幻ではない。
どうしよう?
とりあえず、ありすのことは一旦置いておき、朝の支度をする。
そして。
朝食の用意。彼女の分もした方がいいのだろうか?
迷った末に、ふたり分のトーストとスクランブルエッグとコーヒーを用意した。
「……飯!」
がばり。匂いに釣られて、ありすが起き上がる。
「私のために、よくやった。褒めて遣わす」
偉そうに言うありす。そして、洗面所に行き、顔を洗ったり髪を結んだりしてから、朝食の席につく。
「いただきます」
「どうぞ……」
花の蜜でも啜って生きていそうなのに、ありすの口は、ぱくぱくと元気にものを食べた。その様子を見ながら、創も朝食を摂る。
「美味いな。お前は偉い」
「ありがとうございます……?」
困惑したが、じわじわと心の内に、ありすの言葉が侵食していく。
“よくやった”
“褒めて遣わす”
“偉いな”
いつも、努力しても他人に手柄を横取りされてばかりいて。積み上げたものを無にされてきて。だからだろうか、ありすの真っ正面からの褒め言葉が嬉しいのは。
「今日は仕事か?」
「はい」
「そうか。ご苦労なことだな。いつ出る?」
「食べ終えたら、出社します」
「お前と一緒に、私も出よう」
その後。
創とありすは、家を出た。
「連絡先を教えてやろう。飯を奢りたくなったら呼べ。嫌いなものやアレルギーや宗教的タブーはないから、なんでもいいぞ」
「は、はい……」
スマートフォンで、メッセージアプリのIDを交換するふたり。
ありすのアイコンは、自身が美しいと評した、顔。
「じゃあな」
「あの、ありすさん……」
「なんだ?」
「また、今度…………」
また今度、なんだ? 自分でもよく分からないうちに、言葉を紡いでいた。
「ああ、またな」
ありすは、ニッと笑い、手を振ってから、どこかへ去って行く。
こうして、傍若無人な美女は、陶原創の人生に、突然降って来た。